第25話 お友達とウサギ狩り… (25話)
1ヶ月ほどの間、毎日採集依頼の合間にカスミちゃんと遊んだ。
遊ぶと言っても大半はカスミちゃんの超能力訓練と組み手である。
前世で空手少女だったカスミちゃんは、記憶が戻る前も体を動かすことが好きで、毎日かけっこや木登りで身体能力を鍛えていた。
私が作った鉛入りの装備をつけて訓練すると、どんどんステータスが上昇していく。
今では5歳の頃私がつけていた総重量100kgの装備をつけて普通に動けるまでになっている。
私はというと、その2倍の200kgで訓練中だ。
組み手はお互い全力でやると怪我をしそうなのでそれぞれ負荷をかけた重量装備をつけて行っている。
お互い転生者であるためか、この世界の子供が丈夫なのかは分からないが、この過激とも言える重量を装備しての訓練で私たちのステータスはもはや騎士団一個師団にも匹敵するのではないかというほど成長した。
魔法の方は、私とカスミちゃんでは前世で得意な分野に差があるためか、カスミちゃんができるものは極一部だと言うことが判明した。
従来理系女子の私は、物質や空間のイメージを前世の知識で持っていたため、土からの成分抽出や空気分子の操作などほとんど苦労なく行えた。
一方カスミちゃんは純粋な文系少女だったので実際に目で見えるものは問題なく操作できるのだが、分子レベルの制御や空間制御には手こずっている。
サイコキネシスで石つぶてを飛ばすことはすぐにできたし、泥をこねて形にすることもできた。埴輪や泥人形などを作らせると、私が作るよりもリアルな泥人形ができる。
しかし、風を吹かせるのには、空気分子を動かすイメージが難しかったのか、かなり手こずって、最近少しできるようになった程度であり、土の中から特定の成分を取りだして、ビルや鉄の剣を作ることは全くできていない。
同様に、テレポーテーションやクレヤボヤンスも未だに発動できていない。
それでも、記憶を取り戻すまでは、魔法(超能力)自体が全くできていなかったことを考えると、一ヶ月でここまでサイコキネシスを使えるようになったのだからたいした進歩ではあるのだが…。
午前中の遊び(訓練)を終え、お昼休みに昨日捕れたウサギ肉のサンドイッチを二人でいただいていると、カスミちゃんがサンドイッチを見つめながら聞いてきた。
「ねえ、アリアちゃん。
このサンドイッチも美味しいけど、初めて遊んだ日に分けてもらったサンドイッチの方が美味しいかったような気がするんだけど…」
「ああ、それはたぶんお肉が違うのよ」
「ウサギのお肉じゃなかったの?」
「あれはビッグラビットっていう大きなウサギさんのお肉なの。
高級肉で有名よ」
「ビッグラビット?」
「そう、初めて見習い冒険者になった日に森で捕ったの」
「私でも捕まえられるかな」
「たぶん大丈夫じゃないかな…
。よかったら午後から行ってみる?」
「うん、行く!
ちょっと待ってて!
お父さんに遠出してくるって言ってくるね」
カスミちゃんはいつもの木のところで大作を書き上げようと今日も頑張っているジョーイさんのところに走っていった。
ちなみに、ジョーイさんが今書いている大作は、この国の有力者から依頼されて書いている風景画だそうだ。
既に1ヶ月を費やしているが、あと1ヶ月はかかるというとても大きな作品である。
「あまり遠くには行くなよ~」
「「は~~い」」
私たちはジョーイさんの注意に元気よく返事をして、心の中では言いつけを早速破ることを詫びながら、脱兎のごとく視界から消える。
もういいだろうと言うくらい離れて、私はカスミちゃんと手をつなぎ、前回ビックラビットと遭遇したあたりにテレポーテーションした。
クレヤボヤンスで周囲を確認していくと100メートルほど離れたところにビックラビットが5羽ほど群れているところを発見した。
灰色3羽に白色2羽、合計5羽。
巨体を維持するためにそこら近所の草や低木の葉を片っ端から食べている。
テレポーテーションでうっかり転移すると前回のように思わぬ体当たりを食らうこともありそうなので、私とカスミちゃんは二手に分かれてビックラビットを挟み撃ちにすることにする。
私が脅かす役で、カスミちゃんの隠れている方へビックラビットを追い込む予定だ。
私の片手剣と同じものをつくってカスミちゃんにも渡してある。
手はず通りのポジションへ移動すると、私はウサギたちの正面へ飛び出して、剣でそこら辺の木の幹を打ち鳴らしながら、奇声を発してウサギを驚かす。
『コーーン、コーーン、コーーン、コーーン、コーーン』
「きえぇえぇーーーうひょうぅぅぅうぉぉぉ~~~~ん」
突然の音と大声にパニック状態となったビックラビットは四方八方へとかけだした。
当初のもくろみ通りにカスミちゃんが隠れている方へも1羽のビックラビットが逃げて行っている。
もくろみと違ったのは、残りのうちの2羽が私に向かって突撃してきていることだ。
しかも私の存在に気づくと魔法を発動し石つぶてを大量にぶつけてきた。
石と巨大ウサギの突撃に剣で迎撃しようとしたが、1羽目の白い奴の突撃で剣をはじき落とされ、2羽目の灰色の奴の突撃をまともに食らって私は空を飛んだ。
ダンプカーにはねられたらちょうどこんな事になるのだろうか。
空と地面がくるくる回りながら私の上下を行ったり来たりしている。
鍛えていたせいで体当たりによる骨折などはなさそうだが、地面や木に激突したら大けがもあり得る。
私はサイコキネシスを自分に発動し、回転とスピードを殺す。
何とか周りの景色が回転するのを止めたが、三半規管を揺すぶられたせいかふらふらする。
30秒ほどそのままの姿勢で回復を待ち、冷静にあたりを確認すると、私は自分自身が空中に浮遊していることに気がついた。
「そうか…。こうすれば飛べたんだ…」
私はサイコキネシスの新しい使い道を覚えたのだ。
ちなみに、この日の就寝前に久しぶりに謎音声によるアナウンスが流れ、レビテーション(空中浮遊)の習得が告げられることになる。
落ち着いて眼下を確認すると、カスミちゃんは何とかビックラビットを1羽仕留めることができたようだ。
私の剣をはじき飛ばしたビックラビットも倒れている。
よく見ると、ウサギの額に深々と私の剣が刺さっていた。
予定外に2羽のビックラビットを仕留めることができた私たちは早速血抜きしながら相談した。
前回使った『待ちぼうけ』作戦は、あれからまだ1ヶ月しかっていないことを考えると、不自然すぎて使えない。
かの赤い人も言っていたが、ウサギが大木に、“そうそう当たるものではない”からだ。
解体作業は、幸いカスミちゃんがある程度覚えており、小型のウサギ程度なら一人でも裁けるということだ。
そこで、二人で協力しながら大ウサギの解体にチャレンジすることにした。
皮を剥いで毛皮として使えるように乾燥させる。
お肉も大量に捕れた。
処分に困るほどの大量である。
結局、月面コロニーの保存部屋で処理が終わった毛皮と肉を保管することにした。
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