思わず彼女の肩を掴んで言えば、ザザの白い頬に朱の刷毛でそっとひと撫でしたような色が乗る。


「あ、ごめん」

「い、いえ……」


 肩から手を離す。むき出しの彼女の肌に触れた手のひらにすべすべの感触がまだ残っている……が、今はそれに意識を取られている場合ではない。

 異性の身体の感触よりも、技術的好奇心の方が優先されてしかるべきだ。


「魔力を貯められる。そう言ったんだね、ザザ」

「…………」

「ザザ? ザザ、おーい」

「……え? あ、は、はい! はい、えっと、そうです。精霊聖水には魔力が貯めておけます。……でも、それが何か?」

「何か、じゃない……! えらいこっちゃだ! 照兄!」


 ザザの方へ向けていた顔をぐりんと方向転換。


「待て、ちょっと待て、…………よし! 試す準備が出来た!」

「話が早過ぎる! さすが照兄! 最高!」


 地面に膝を突いた彼の足下には、瓶に入った状態の精霊聖水。

 さらに手には、どこから持ってきたのか魔道具の一つ、引き寄せ器が半分分解された状態で握られている。


「ザザ、この精霊聖水にまだ魔力は残ってるか?」

「と思いますけど」

「そうか。んー、どうすりゃいいんだろうな。……シンプルに突っ込んでみるか」


 そう言って、照治は引き寄せ器の内部から伸びた一対の導線を精霊聖水の中へ突き込んだ。本来、あの導線の先には星から魔力を引き出す魔吸コインがある。


「マジでこれで動いたりしてな、はっはっは…………ってうわあああああああああ!」

「うわあああああああああ!」


 引き寄せ器のスイッチを入れた照治が悲鳴を上げて、幹人も同時、頭を抱えながら同じ有様だ。


「うわ! うわ! マジかマジか!?」「うわああああ!」「ひええええ!」「えらい事になってきたぜ……!」などと、周りの部員たちからも同様の声が漏れる。


 照治が握る引き寄せ器の先端には見事、引き寄せられてきた魔力波測定器の一台が張り付いていた。

 つまり聖水には本当に魔力が貯められており、その上、それで魔道具も動作するという事だ。


「しかも照兄! なんか引き寄せる勢い、めっちゃ強くなかった……? 魔吸コインで動作させる時と比べてさ……」

「強かった! すげえスピードだった! 聖水は魔吸コインよりも出せる魔力が強いって事だ! ……いや、でもそうか、そうだよな、精霊は人の代わりに戦えるくらいなんだから、その動作源である聖水の魔力出力が高いのは、そりゃそうだよな…………いやいやおいおいマジかマジかマジか!!」


 最高かよ買ぁい込むぞこれえええええええ! と照治は叫んだ。

 聖水も樹印も、ウルテラの街で普通に販売されていたので手に入れる事が出来る。


「あのー……ミキヒトさん、一体何がそんな……?」


 大興奮の幹人たちと違い、事態を把握していないザザは、ただただ不思議そうな顔をしている。


「ザザ! ザザたちって、聖水みたいに魔力を貯められるものをさ、魔法を発動させる時に使ったりしないの?」

「えー……しない、ですね。だって、魔力は星から引き出せるじゃないですか。わざわざ聖水とかに貯めておいたものを使うって、そんな必要ないので。どっちでも疲れ方は変わんないですし」

「んんん……そっかあ…………そっか」


 魔法は、使いすぎると疲れる。これは、経路と呼ばれる人の身体の中にある魔力の通り道が、たくさん魔力を通されると疲労していくから、らしい。

 星から引きだした魔力だろうが、既に星から引き出して聖水に貯めた魔力だろうが、身体に通せば同じように疲れるというのなら、確かに魔力貯蔵物なんて使う意味はない。


「でも、俺たちの場合、事情が違うんだ……! もちろんこれから自作する俺たちの精霊の動力源に出来るって事もあるけど、……魔道具の動力源としても使えるってのが何よりでかい! 杖について、こりゃ、すごい事になるぞ!」


 魔道具は自分で人間のように大量の魔力を星から引き込む事はできないが、一旦人間が星から引き込んだ大量の魔力を使う事ならできる。

 先ほど照治が試したように――それが、精霊聖水内に貯められたものであっても。


「魔力の充電池が手に入ったって事だ……! 壊れない限り魔力を星から引き出し続けてくれる魔吸コインと違って、電池切れのリスクはあるけど、その代わり出力が魔吸コインより上……もしかしたら、人間に匹敵しかねないくらいデカい! …………うわ、あんな事やこんな事が出来るぞ……出来ちゃうぞ……」


「魔力を貯められる……って事は、おっ、平滑コンデンサにもなるか? ううん……」


 こちらと同じく、目を輝かせて色々と考えているらしい兄貴分に声を掛ける。


「照兄! 俺、杖改造してていい!? 精霊聖水使って強化する案がある!」

「あんだとお!? んんんんんん! 許可する! うちの場合、補助役は当然、杖を使うわけだからな! 杖の強化は大精霊祭的にも重要な事だ!」


 幹人の頭の中にはもうグルグルと、あれをしようこれをしようという思考が回っていて、居ても立ってもいられない。


「アメちゃん、俺の力はいるかい!」

「んなもんいるに決まってんじゃん!」


 協力してくれるらしい友人とハイタッチ。他の何人かの部員もこちらを手伝うと言ってくれて、杖改造班ができあがった。


「いよおおっしゃああああ! 照兄!」

「なんだ!」


「人生ッ、……楽しいいいいいいいい!!」

「俺もだよおおおおおおおおおおおお!!」



 平常運転な幹人たちの咆哮は、異世界の空の下でも平気な顔をして高らかに響き渡る。


「……なんだかすごい勢いだね、サキ」

「幸せそうでいいと思います。お兄ちゃんたちはこれでいいのです、見守りましょう」


 傍で見ながらのザザと咲からはそんなコメントが届いた。

 いつの間にやって来ていたのか、咲の腕に抱かれたネーロも「ニャアン」と一鳴き。

 彼がなんと言ったかは、残念ながらわからない。




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次回更新は、3日後の5月24日(水)です。お楽しみに!


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