「大精霊祭に出場するため、そして勝つために、なんか面白いアイディアが見つかると都合が良い。今回の実験結果を踏まえて、何か思いついた者はいるか?」


「……え~っと、じゃあいいっすか?」

「おう田川、なんだ?」


 照治の問いかけにまず反応したのは、田川という名の電気科四年の男子学生だ。

 異世界に来た当初は川で魚を釣りまくり、皆のお腹を膨らませてくれた人物である。


「いやあ、でもこれ……ちょっとその、倫理的にどうかなと思うもので」

「はあ? 何寝ぼけた事を。アイディア出しの段階なんだからいいんだよ、言え言え」


「じゃあ遠慮なく。手当たり次第に色んな信号を神殿へ送りまくって反応を引き出すというのはどうでしょう。神殿側が想定外で対処してないものを送れたらなんか面白い精霊とか出てくるかも。インジェクション的な」


「うわあお前最悪だな……最低限の良識もないのかよ……誰だか明らかになってない状態のコナ○の犯人みたいなビジュアルしてるヤツはこれだから……」

「あんたが言えっつったんだろ! つうかそこまで言う事なくない!?」


 照治のあんまりな反応に吠える田川である。

 優しい先輩ではあるのだが、鋭い目つきにスキンヘッドという特徴的なビジュアルをしているので、確かに、黒ずくめにしたら誰だか明らかになってない状態のコナ○の犯人そのものである。


「ええと、田川先輩の案、面白そうっすけどね。駄目なんですか?」


 幹人が問うと、田川は自身の禿頭をパチンと一回叩きながら答える。


「ま~、サーバ側の不具合を引き出すような入力を与えるって、ハッキングとかクラッキングの常套手段の一つでさあ。問題は、サーバ側の安全が保証されないわけよ」

「……神殿が壊れるかもしれないって事っすか? めちゃくちゃまずくないっすか?」

「……その、え~、現在進行形で動いてて、生活に深く根付いてて、下手すると誰も内部のメンテナンス方法を知らないかもしれないサーバをもし落としたら、大変まずい」


「却下却下! さすがに却下! 田川先輩最低! 倫理に悖る! 忘れたんすか俺たち大山高専の校訓! 技術者である前に?」

「人間であれ! 忘れてねえよ! だから俺だってどうかと思うって言ったのに! でもアイディア出しだっつーからさあ……!」


 声を荒らげる田川の頭が、陽光に反射してキラリと光った。


「わかったわかった、田川の案も、一応アイディアとして持っておこうな。もし俺たちが精霊システムやそれを使う人間たちに対し、並々ならぬ憎悪を抱く日が来たなら活用しよう」


 照治がそう言って、書記役の部員がホワイトボードに『憎悪発散用邪悪アイディア:インジェクション攻撃(田川発案)』と書き込んだ。これで議事録にも残る事になる。


「うわー言わなきゃ良かったあ……」


 項垂れる田川。どうかこのアイディアがアイディアのままだけであってくれる事を幹人は祈っておいた。


「他にはいないかー、考えのある者」

「はい! 俺ありますよ部長!」


「おう犬塚、なんだ」

「精霊システムって、常に神殿と通信がある事が大前提なんですよね? だったら狙うのはそこでしょう! 大精霊祭の試合中の話っす!」


 ほう、と照治が促して、犬塚は続ける。


「フォスキア戦と似たような事っすよ! 三峯先輩が出したあの案はすこぶる良い手だったと思うんす、せっかくのあれを再利用しない手はない」

「おお、つまり?」

「妨害ですよ妨害! 複雑で密度の高い通信をしてるところとか狙って妨害しましょ! 通信妨害! 相手の精霊をシステム的に機能不全に陥らせちまえばいい、そうすりゃあ俺たちの勝ちだ!」


「――いいじゃないか!」


 照治がパチンと音高く指を鳴らした。

 突然魅依をスカウトしてきたテオバルドもやっていたような仕草だが、背がスラリと高く顔の整った人間がやると絵になる。


「って事は、具体的には、今回の実験で確認した限り最も密な通信が行われていた精霊・神殿間の魔力波通信を、同じような周波数帯にノイズ出しまくって妨害する……とかだな?」

「そーです! そういう感じ!」

「ふーん、ほー! いい! ……何がいいって、上手くすればこりゃ、相手が強かろうが弱かろうが問答無用で有効だという点だ! 精霊の強さと、魔力波通信時のノイズに対する影響の受けなさというのは、まさか正比例はとらんだろうよ!」


 むしろ、ハイレベルな術者ほど精霊に細かい指示ができるようになっていくらしいので、妨害の影響はより受けやすくなるかもしれない。


「よしよしよし、どうだ? 犬塚のこの案を俺たちの製作する高専式精霊のメイン武装として採用するというのは」


 照治が挙手で意見を確認すれば、メンバーは揃って「いけそういけそう面白い!」などと言いながら手を挙げる。


「真正面からはやり合わずに搦め手で嵌め殺しにいくというスタイルが、実に高専らしくて俺は大変好みだぜ……!」


 ホワイトボードに書記役が決定事項として先の案を書き付けるのを見ながら、照治はそんな風に独りごちた。


「さて話がまとまったところでそんじゃあ! 魔力波の実験はここまでにしてそろそろ精霊本体の製作に入るか! 金はある! 三峯基金が大量に! ……金はある、って実際口にするとすげえ気持ちいいな! もう一回言うぞ! 金はある!」


「ありがとう三峯先輩!」「最高っすよ三峯パイセン!」「よくやったジーニアスみぃちゃん!」「さすが俺たちのエースオブエース!」などの言葉が飛び交って、恐縮した様子の魅依は小さくなっている。


「ただし時間はない! 予選期間の最終日は十二日後! 最終日に飛び込んで試合数が稼げるかどうかは運次第らしい! なのでなるべく早めにエントリーしたい!」


「よおし、さっさと作っていこう! 諸材料の買い出しにも行かなきゃね」


 照治の言葉へ続けて幹人が言うと、クイクイと手が引かれる感触。咲かと思って顔を向ければ、ザザだ。


「買い物、行くなら……その、私も一緒に行きたいです。いいですか?」

「もちろん。そりゃ助かるよ」


 こちらの返答に、はにかむザザ。

 普段はクールな彼女がそんな顔を見せると目眩がするほど愛らしいが、果たして自覚はあるのだろうか。無自覚ならば凶器に近い。


「何買うんですか?」

「まずはね、やっぱりパーツ取りの魔道具をちょっと仕入れたい。魔力を星から吸い上げてエネルギー源になってくれる魔吸コインっていうやつをね、たくさんゲットしな、い、……と…………?」


「ミキヒトさん? どうしたんですか?」



「あ、あ、…………ああああああ! そうだ! わかったわかった! なんか見落としてると思ってたんだ! ザザ! 今更なんだけどさ、精霊って何で動いてんの?」



「何って、もちろん魔力です」


 そうだ、それはそうに決まっている。決まっているのだが。


「その魔力って、どう調達してるの?」


 普通の魔法であれば、術者が自分で魔力を星から引き上げる。魔道具であれば、魔吸コインが自動で引き上げる。

 杖を使った魔法では、術者が自分で魔力を引き上げ、魔道具である杖に渡す。

 だが、精霊魔法ではどうだ?


「だって、術者と離れて戦う精霊に、魔法を維持するための魔力を手渡し続けるっていうのは無理だよね? 杖は手元にあるからそれが出来るんだけど……。かと言って、聖水にも樹印にも、魔道具みたいに魔吸コインがあるわけじゃないし」


 神殿から送られてくる魔力波も、あくまでデータに過ぎない。神殿と魔力波で繋がっていても、自身の動力源となる何かがなければ精霊は動かないはずだ。


「例えば、もし精霊聖水とか精霊樹印が、人間の引き出した魔力を貯めておけるっていうんならわかるんだけど……」

「あ、そうです。聖水がそうです。聖水は人間が引き出した魔力を貯められるんです。それを使って精霊は動きます。あんまり長時間動ける量ではないみたいですが」



「……――マジで!?」




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次回更新は、3日後の5月21日(日)です。お楽しみに!


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