三章 人生ッ、……楽しいいいいいいいい!!


「それではこれよりお待ちかね! 半円卓会議特別版! 『精霊について調べてみようだってめちゃくちゃ気になるからね!』会を始めるぞおおおおおおおおっしゃああああああああ!」


「「「いえええええええええええええい!!」」」



 音頭を取った照治の言葉に、オオヤマコウセン・ギルドメンバーたちの気合いと期待が篭もった声が続く。なお、咲とザザだけはこのテンションに染まっていない。

 ビラレッリ邸の庭園が持つ美しさを少なからず汚しているだろうが、やめられないので許して欲しいと願う幹人である。

 ウルテラの街へ訪れてから、今日は二日後だ。直後の一日は、この会のための準備に費やされている。


「なお、ついでに大精霊祭に向けてプラスとなる情報も得られたら良いと思っている! 各自、それについても適宜考えるように!」

「ついでに、なんだね……。普通、そっちがメインなのでは……?」


 照治の言葉に咲がそう呟いて、むむむ……と唸っている。


「テルジさん、ちょっと良いですか?」


 晴れてオオヤマコウセンの一員となったザザが手を挙げた。

 ちなみに彼女のギルドメンバーとしての初仕事は、今日これから実験のために精霊を召喚する事である。

 特級冒険者に何をやらせているんだという感はあるが、それが自分たちの仲間に入るという事なのでどうか慣れてもらいたいところだ。


(……ひとまず、大丈夫そうかな)


 あの夜から、少し気をつけて彼女を見ているのだが、思い詰めているような様子はない。表面に見えていないというだけかもしれないが、ひとまず安心ではある。


「実験? をやる前に、精霊が召喚できるかどうか試しても良いですか? 精霊魔法はもう何年も使っていないので」

「そうか、じゃあ試しといた方が良いな。頼む」

「はい」


 ザザの精霊聖水と精霊樹印のセットは本当にずいぶん使っていなかったらしく、ビラレッリ邸の倉庫のような部屋の奥にしまい込まれて埃を被っていた。

 発掘してくるのに手間取ったくらいである。


「できるかな、できると思うんですけど、多分。よし…………っ!」


 呟きながらザザは瓶の蓋を開け、樹印に聖水を掛ける。力の入った様子だ。

 そして、目をつむってしばらく黙し。


「――精霊召喚」


 やがて彼女はそう呟いて、聖水が大きく膨張を始めた。


「……あ! わー! かわいい! わ~!」


 精霊魔法は無事、発動したようだった。

 顕現した存在を見て咲が歓声を上げる。彼女の隣、幹人もその精霊をまじまじと見る。


「おー、猫っぽい! いや、大きさ的には豹とかの方が近いかな?」


 身体の色はザザの髪と同じく桜色で、身体に浮いた模様は綺麗な菱形のパターン。

 だが、そのフォルム自体はネコ科のそれに似ている。座り込んで自分の手先をペロペロと舐める仕草も、やはり猫や豹のものに見える。

 体長は一メートルほどだろうか。


「そうだな、豹っぽいな。……なあ、神殿の中っつうのはどうなってんだ? お前はどういう形で存在してんだ? 意識はあるのか? 記憶はあるのか? なあ、そこら辺は調べようがないんだよ、なあなあ、どうなんだ?」

「ニャアーン」

「ニャアーンじゃないよニャアーンじゃ。どうなんだどうなんだ、もったいぶらずに教えてくれよ……って、いってえ!」


 精霊の頭や身体をなで回しながら質問していた照治が手を噛まれた。


「照兄がしつこくするからですよ」

「だからって噛むこたないだろ……おーいてえ。やはりピンク色のパンサーは油断ならんぜ……。あのアニメは正しかったんだな」


 呆れ顔の咲に、噛まれた手をプラプラ振る照治。怪我はしていないようである。


「まーいい、では実験に移るぞ! 使うのはこいつ!」


 言いながら、照治がその手に掲げ持ったのは一辺三十センチほどの立方体をした筐体。その上には、魔力導線をグルグルと巻いたパーツが付いている。

 幹人たち謹製の魔道具だ。彼の足下には同じ物があと二つある。


「照兄、それは何?」

「咲、よくぞ聞いた。これは魔力波測定器だ。アンテナで魔力波を感受し、その波形データを内部に記録していく。それを開発機へ流し込み三峯謹製のソフトで解析、状況ごとの波形とスペクトラムを観察してみようじゃないかという話だ! 精霊魔法は神殿との通信が肝らしいからな!」

「んー! 全然わかんない!」


 咲は元気よくそう返した。素直な反応である。


「わからない、か……。うん、そうだな、お前は思慮深いな、咲。これは精霊魔法においてその術者と神殿との間に存在するらしい祈りという概念や、神殿から精霊が顕現する情報伝達の過程が、魔力波によって構成されているという仮説に基づいている。確かにまだわからない。だからまずはそれを実験して確かめてみるんだ」


「??????????????????????????」


「おや、なんだその反応。バグったのか?」


 首を身体ごと九十度近く曲げ始めた咲に、照治は照治で不思議な顔をしている。見事なディスコミュニケーションだった。


「照兄、咲の『わかんない』はそういう意味の『わかんない』じゃなかったんだよ。実験の有用性を疑ったんじゃなくて、実験のそもそもの概要がちょっと理解できなかったんだよ」

「なんと。簡潔に言ったつもりなんだが……」


 照治としては本当にそのつもりだったのだろうが、伝わらない時もある。


「咲、魔力波っていうのはわかる? 前にフォスキア戦で使ってもらった魔道具とか、それを活用してたんだけど」

「お兄ちゃんたちが何やらそういう事を言っていたのは知っていますが、妹はちゃんと聞いてませんでした。大人になればきっとわかると思って……」

「そっか。じゃあちょっと大人への第一歩だと思って聞いてくれ。魔力が流れると周りに広がっていって、他の魔力の流れにちょっと影響を及ぼすものがこの世界にはあるんだ。それが魔力波」


 正確にはあるというか、あると仮定している。

 魔力波測定器の仕組みは、導線に一定の魔力を流しておき、その様子の変化を記録するというものだ。そこから魔力の流れに影響を与えた魔力波の形を逆算する。

 自分たちにしても、魔力波というものが本質的に何なのかはわかっていない。

 いっその事この世界に地球の研究者たちがドバドバ来てくれりゃいいのに! とは照治の言である。


「例えば、電気がビリビリ流れた時には電磁波が飛ぶ。めっちゃすごい速さで遠くまでぶっ飛ぶ。携帯で遠く離れた人と電話が出来るのも、電磁波にそのデータを乗っけて飛ばしているから」

「電磁波! 電波? 電波ならわかります!」

「そう、電波」


 電波は電磁波の一種である。そうか、電波の方が聞き馴染みのあるものか。


「電波と同じように、魔力がバリバリ流れた時に飛ぶのが魔力波。精霊は離れたところにある神殿から降りてくるって話だ。だから、精霊と神殿の間には魔力波が飛んでいて、精霊はそれに乗って樹印と聖水のもとへやってきてるんじゃないかって予想ができる。なので、今からそれを確かめる。照兄が持ってるのはそのための道具で、飛んでる魔力波について、ちょっと詳しく教えてくれます」

「あえー、なるほどー……」


 頷く咲。とりあえずはわかってくれただろうか。


「サキは今のでわかったの? 魔力波って、私には正直まったく想像がつかないです」

「んー、この世界の人って魔力波の事、知らねえのかな? えー、そんな事あんの?」


 ザザの言葉に犬塚が疑問の声を上げる。


「だって、どう考えたってそれで色んな事の説明付くじゃん。なんで常識として根付いてないんだろ……?」

「犬塚、それは知識に対して俯瞰的な物言いだぞ」


 少し苦笑しながら、そう言ったのは照治だ。


「魔力波というものがあるんじゃないか、そう俺たちが考える事が出来たのは、似たような概念である電磁波を既に知っていたからだ。物体を貫通し、極めて高速で飛んでひどく遠くまで届き、そして目に見えない……なんていう、かなり特殊な代物をな」

「……あ~、そう言われてみれば」

「だろう? 地球にしたって、電磁波の存在が実験でようやく明らかになったのは十九世紀末の事だ。この世界において魔力波がまだ一般的な知識となっていないというのは、全く不自然なものではないと俺は思う」

「ひえ~、なるほど納得~! ごめんザザ! 俺が間違っていたよ!」


 両手で自分の顔を両側からムギュッと潰しながら、犬塚はザザへそんな風に言った。


「いえ、よくわかんないですけど……。よくわかんなくってもしょうがないって事ですか?」

「そういう事だ。ああ、安心しろ、ここらへんのものを理解するのに必要な基礎知識は後々、きちんと幹人がお前に教えてくれる」

「わかりました。がんばってお勉強します」


 表情は派手ではないが、作られた握りこぶしが彼女のやる気を示している。


「ともあれ、だ。魔力波について認識と理解があるというのは、俺たちの大きなアドバンテージだろう。フォスキアにしたって、それで仕留められたようなものだ。これは今後も大事にしていきたい……なんて話で御託は終わりだ。実験やるぞ!」


 イエイ! 照治の号令に皆揃って声を返す。




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