「……ああ、そうでしたね。なるほど、だから魔物退治の方に手が回らなくて私を呼んだんですか」

「でしょうな。実力のある精霊使いは皆、祭へ出場しますから。そちらに集中したいのでしょう」


 御者の男性の言葉に、納得がいったという様子でザザは何度か頷いて。


「せ、精霊!! おっほおおお!! う、……うぷ、……アメちゃん! なかなか、興味、深い、ワードが、……う、……おええ……と、飛び交い、始めた、な!」

「イヌちゃんのえずきっぷりの方が今は気になっちゃうかなあ……」


 そこで話に入ってきたのは、幹人の斜め前に座る同学年同学科の気の合う友人、犬塚である。車酔いで真っ青な顔をした彼は今にも吐きそうだ。


「サ、サスペンションの、問題、だと思うんだよね、この、ポッロ車の、さ。う、おえ、う……あの、ほら、乗る前、確認したら、う、うぷ、しゃ、車軸懸架、のさ、リ、リーフ、スプリング、だったけど、や、やっぱ、揺れ方きつい、よね。でも、サ、サスがあるだけ、マシかな?」

「マシかもしんないけど、イヌちゃんのこの様子を見せられたらそうも言ってらんないぜ……! マジで大丈夫? 一旦止めてもらおうか……?」


 幹人の言葉に犬塚は、渋い表情で押しとどめるように右の手のひらをピッと向けてきた。


「い、いや、ここで止められたら、心が折れる……」

「なら、ちょっと黙って安静にしてろ」


 犬塚の隣に座る照治が、見かねて彼の背中をさすってやり始める。


「ああ、部長ありがとう……、っ背中を、さする、サスと掛けてる? うぷ、んふっ、なるほど、さすが、面白い! おっえ、……あ、さすがって、サスがね、サスだけにね、俺も上手いこと、ふふ、うぷ、おえ……言っちゃいました、んふふっ、おえっ」

「犬塚、お前のその根性を俺は高く評価しているよ」


 照治の声音に篭もるのは、呆れと賞賛がおそらく半々だろう。


「ところでザザ、さっき出てきた精霊とかいうときめきワードについて詳しく聞きたい」


 眼鏡をキラリと輝かせ、照治がザザに問う。


「精霊ですか? 精霊魔法ってお見せした事なかったんでしたっけ」

「ないない、魔法の一種なの?」

「はい。……あ、先に言っておきますけど、ミキヒトさんたちが聞きたいような原理? とか、仕組み? みたいな事は知らないので話せませんよ」


 幹人に頷いてから、ザザはそんな前置きを放った。


「もちろん話せるようにでいいよ。ぜひ教えてくれ」

「わかりました。精霊魔法はですね、精霊という……お手伝いさん、みたいな存在を喚び出す魔法です。一緒に戦ってくれたり、代わりに魔法を使ってくれたり。細かく指示を与える事も出来ますし、曖昧なお願いで勝手に動いてもらう事も出来ます」

「めっちゃ便利そうじゃん! それって一般的なものなの?」


「いえ、あまり一般的ではないですね……私も使える事は使えますけど、実際、ほとんど使いません」

「なんで?」

「一つ、才能がないと戦いで役に立つレベルの精霊が喚べないから。私には才能はないようでした。二つ、精霊魔法の使用中は他の魔法が唱えづらいから、です。訓練すれば出来るようになってくるみたいですけど」


 なるほど、それならば他の得意な魔法で戦った方が手っ取り早いという事だろう。


「でも、才能ある精霊使いの精霊は強いですよ。高ランクの魔物たちに全く引けを取りません」

「ほほー、……精霊、うーん、ロマンがある! 面白そうだね、照兄」

「いやあ、いいな……! 喚び出すというのがどういう事なのかどういう情報通信を指すのか、データの処理はどこがやってるのか、曖昧なお願いで勝手に動いてくれるならその自動実行アルゴリズムはどんな内容なのか、確認したい事は山ほどあるぞ……!」


 照治の声は生き生きとして、とても楽しそうである。


「この世界の魔法はまだまだわかんない事だらけだし、知りたい事だらけだ。うーん、いずれさ、解説書っていうか、『魔法技術工学概論』とか『魔道具回路基礎』とか『わかりやすい魔力波通信』みたいなの書けたらすごくいいんじゃない? ……みぃちゃん先輩的にはやっぱ、書くとしたらこっちのプログラミング言語について?」

「あ、え、えと、そ、そうだね……! はい!」


 突然話を振ってしまったせいか、いつもつっかえ気味なその人の、口の滑りを余計鈍くしてしまったようだ。

 三峯魅依、大山高専の誇る天才プログラマーである。


 幹人が技術者として尊敬して止まない彼女は、あまり喋るのは得意ではない。だからか、特に複数人で話す時は聞き役に徹している事が多い。

 幹人は魅依と話したいのでこうしていつもついつい水を向けてしまうのだが、迷惑に思われていなければいいなとたまに考えてしまう。


「ああ、でも……精霊魔法を発動させる魔道具ってあるのかな。それがないと、プログラムの書き方ってわからないよね?」

「あ、そう、だね……サンプルの魔道具が、ないと、コードの、具体的な、記述方法が、わからなくて……だとすると、杖での発動は……」

「そうだよね、うーん」


 魅依がいかに凄まじい実装力でコードを書いてプログラムを作り上げてくれるとは言っても、そもそもの書き方自体について何の手がかりもなければ、どうしようもない。


「精霊魔法を発動させる魔道具というのは、私も聞いた事がないですね。ただ、精霊魔法自体は、これからウルテラの街でたくさん見られますよ。大精霊祭がありますから」

「そういえば、それについてまだ聞いてなかった。どういうお祭りなの?」


 問うと、ザザはその通りの良い美しい声で答えてくれる。


「ウルテラの街は精霊魔法を使う術者が集まったギルドがたくさんあるんです。そこで年に一回、一番優れた精霊魔法使いのギルドを決める大会が開かれていまして、それが大精霊祭です」

「へえ、そりゃ面白そうだわ。めっちゃ見たい」


 男の子だからか、一番を決める大会というワードに心をくすぐられてしまう。


「ウルテラに行くなら、もちろん大精霊祭がやってるこの時期が一番オススメだよ。……おっと、そんな事を言ってる内に、見えてきたぞ」


 御者の男性のそんな言葉に、進行方向へ視線を向ける。

 ブレイディアの街のものと同じく高く長い壁が、地平線の向こうにせり出てきていた。


「ミキヒトさん、そろそろサキを起こしてあげましょう」

「そうだね、そうするか」


 いつも自分たちに突っ込みを入れてくれている妹は現在、左隣でこちらにべったり寄りかかる形で爆睡中だ。

 どんな所でも寝る事ができるのは、雨ケ谷咲の特技の一つ。


 ともあれこうして幹人に照治、ザザに犬塚、魅依に咲の六人で、精霊魔法が盛んだという街、ウルテラに到着である。


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