「咲、落ち着け! ザザ、どうすれば!?」

「っこ、の、レベル……は、」

「ザザ! 頼むよ!」


 構えを前から上に変えさせたという事はある程度予想はついていたのだろうが、それでもあまりの規模にか、ザザは口を開いて呆然としている。彼女の肩をガックンガックンと揺すって、意識を現実に引き戻す。


「……っ、すみません。経路が太いなとは思いましたがまさかここまでとは。サキ! 落ち着いて! 星から力を引き出す事を止めればすぐに炎はなくなる!」


「え、ええと、ええと、な、なくなんないですうう!」


 咲はどうやら軽いパニック状態で、残念ながら冷静な対処はできなさそうだった。混乱した彼女に照治が大声を張り上げる。


「気を逸らせ! 魔法から気を逸らせ! あれだ、惚れてる男の事でも考えろ!」

「え、ええ、ええっと、ええっと、……お兄ちゃん!」

「おいおい照れるぜ、って言ってる場合じゃ……あ、消えた!」


 照治のアドバイスが功を奏したらしい、なんとか無事に妹の手から化け物のような炎が消え去る。なんとなく息苦しい気がするのはこちらも慌てふためいたゆえか、それとも先程の炎に周囲の酸素が食われたか。


「咲、大丈夫か!?」


「お兄ちゃあああああん……死ぬかと思ったよおお……髪の毛こげてない?」

「こげてないこげてない……いやあ、無事で良かった……」


 駆け寄って妹の無事を確認、可愛らしいサイドテールも健在である。


「ミキヒトさんもなかなかでしたが、サキは……、ちょっと、凄まじいですね。魔法の技量は素質だけでは決まりませんが、そんな常識を吹き飛ばすくらいの規模ですよ、あれは」

「常人の三倍の、俺の三倍の、ザザの三倍以上だもんね……」


 いまだ、眼にはあの炎の光が焼き付いている気がする。それくらい強烈だった。


「ともあれ、無事に済んで良かったです。制御はこれから覚えればいいでしょう。……他の魔法も折をみて教えますから、あんまり一度に教えるのもよくないので順々に」


 口調と表情こそ情の薄いような感じだが、言っている事自体は極めて面倒見が良い。彼女を良い人と判断した自分は間違っていなかったと、しみじみ思う。


「ザザ、そしたらさ、使ってみたい魔法があるんだけど! 俺が掃除した部屋にあった魔道具! あれが発動してた魔法! あの光る球体を出すヤツ!」


 あのロマンの塊のような魔法は、是非ともモノにしたい。それに、現実的な観点から言っても炎やらをぶつけるより、あの硬い光の球を射出して撃ち込んだ方が攻撃として汎用性が高そうだという事もある。


「ああ、あれですか。特に形は球体に限るわけではないんですが、……あれですか」

「……もしかしてあの魔法、難しいとか?」


 期待と裏腹に、ザザの反応は芳しくなかった。彼女は渋い顔のまま人差し指を立てる。

 その姿勢で黙ったまま、ややあって、ようやくその爪の先にビー玉程度の大きさをした光の球体が現れた。


「それそれ! あの魔道具から出てきた奴と同じだ! ……あ」

「……ふー」


 しかし、光球は一秒二秒ですぐに空間へ解けて消え去ってしまう。ザザはやっぱりか、というように首を振った。


「これは魔法と言うか、一応魔法ではあるんですけど大昔のやり方で、今のスタイルではないんです。何をしているかと言えば、魔法の素である魔力そのものをそのまま外に出しています」


「はー、へえ、魔力そのもの……それがああやって質量を持つような振る舞いをする……ええ、うーん、興味深いな……まあそれは後でめちゃくちゃ考えるとして、でも、じゃあやってる事はシンプルだね。の割には、なんか難しそうだったけど」


 ザザはあの光球を出すのに随分と時間を掛けていたし、維持できていたのも短い時間だった。


「ええ、実際難しいんです。なぜかと言えば、先程もコツとして伝えた通り、魔法を発動させ、制御する時に大切なのはどれだけ鮮明に結果をイメージできるか、だからです。例えば火や風だったり、自分の身体を強くしたりというのは、日常の中で身近でもありますし、具体的ですから普通にイメージできますよね?」

「そうだね。……あ、でも」


「はい。魔力そのものというのは、日常の中にもなければ、人間の中に元からあるものでもありません。そして、ひどく漠然としてもいます。星の力として感じはしても、実物としてのイメージはなかなか固まりません。そして様々な事を起こす魔法の大元で、色々なものになれる前の状態だからこそ、」


「ええと、逆に言えば掴みどころがない? だからイメージが上手くできなくて、そのまま扱うのが難しい?」


 言葉を継ぐように言った幹人に、ザザは頷いた。


「……んんー、なるほどね。なるほど、そうか、ああ、だから、魔力そのままじゃなくて、火とか風とかの形に変換するっていうのは、人間がイメージしやすいものにわざわざ変えてるって事か。そういうやり方が開発されていったんだ、魔力をより利用しやすくするために」


「その通りです。ですので、この……原初の魔法、または由来はよく知りませんが、星命魔法と呼ばれているこれは現在、あまり使われていません。少なくとも素早く確実に魔法を発動する必要のある戦闘中に使う人間は、ほとんどいませんね」


「そっかあ……残念だな」


 形も球体に限らないという話なので、汎用性はやはり高そうという事を考えるとなかなか惜しい気はする。


「使う人間は少なくても、魔道具にはたまにあるんですけどね。父はそれを狙って集めて……いえ、どうでも良いです。とにかく、普通に火属性や風属性、土属性などを練習する方をおすすめしますよ」

「ザザ、なあ、俺たちがそうして魔法をちょいちょい扱えるようになって、どれくらいでまともに戦えるようになる?」

「そう、ですね」


 照治に問われ、視線を上に向けて少し考え、やがてザザは答えた。


「二年くらいかと」

「……に、ねん? ……本気で言ってるのか?」


「それくらいはかかるでしょう。先程はリラックスした状態で、どこへ狙って飛ばすでもない炎を出せたってだけです。そこから戦闘へ使うレベルへ引き上げるとなると長く地道な訓練が必要になります。他の魔法にしたって同じく」


 ましてや、あなたたちは戦闘の素人なんだからなおさらです。照治へそう結んだ彼女の言葉は実にごもっともで、だからこそ誰もが顔色を失う。


「ちなみに、私も流石にそんなに長期であなたたちの身を預かってはあげられません」

「そうだよね……」


 項垂れながら幹人はそう答えるしかなかった。いつまでも頼り続けるわけにはいかないのだ。

 だからこれはまっとうな、実に手厳しいただの現実である。


「あの! 私はどうでしょうか! 私ががんばってお兄ちゃんたちを養うというのは!」

「……あのね、ある意味では一番練習をしなければいけないのはあなた。火属性で言えば、制御を失敗しても他の人なら火傷で済むけど、サキの場合は黒焦げなんだから」

「……う、うぅ……黒焦げ」


 健気な事を言ってくれた咲がしゅんと小さくなる。しかしザザの言っている事は正しいだろう。確かに、一番危ないのはこの子である。


「一番早くまともに戦えるようになるのは、順当に行けばミキヒトさんでしょう。サキほど突き抜けたレベルではない範囲、ちょうどいいくらいの塩梅で素質がありますので……そうですね」


 少し考えて、ザザは言う。


「一年でしょうか、順調にいって」



 魔法を前に浮かれていたテンションが、急速に沈んでいった。



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