第十六章:青春
昭和三十九年四月
俺達は二年生になった。二年ではクラス替えがあり、あとは卒業まで一緒となる。月音とは兄妹という事で一緒にはならないかと思っていたがそうではなかった。俺は月音と同じ七組となった。ただ、それだけではなかった。北川遥香、ま、こいつは別にいい、問題はこいつだ永井将太、月音に近づくために根回しでもしてるんじゃないか? そして栗山清、こいつはホントどうでもいい。もう一人、一年の時一緒だった
「木谷君? 木谷君? あれ? ハル君?」
「あ、はいはい」
ついつい木谷と呼ばれる事に慣れてないので自分ではないと思ってしまう。まずいますい。気をつけよう。
「ハルって呼び捨てでいいから、みんなそう呼ぶから気にせず呼んで」
「あ、そう? じゃ、そう呼ばせてもらうわね」
「それで、何か用?」
「別に用事とかそういうのじゃないんだけどハルく・・ハルって月音さんと仲いいよね」
「ああ、一応双子の妹ってことで」
「兄妹であんな仲が良いって羨ましいな~って思って」
「そうか? 笹原さん兄妹は?」
「あっ、あの、私も呼び捨てで・・・舞って呼んでもらえれば」
「ああ、そうだよね、じゃ舞は兄妹いるの?」
「は、はい! います」
舞は顔が赤くもじもじしている。
「弟がいるけど、ハルみたいには出来ないかな~って」
「そうか、他の人がどうか俺には分からないけど、きっと弟さんも親御さんも、舞のこと愛してると思う。家族ってそんなもんじゃないのかな? 俺はそう思ってる。俺はそれを表に出してるというか、ま、そんな感じ」
「愛してる・・・か」
舞の顔が益々赤くなっていく。
「だから普通に月音の事愛してる。俺の家族だから」
すると後ろからいきなり殴られた。ポカッ
「痛って!」
振り向くと怒り顔の月音がいた。
「ハル! 何学校で語ってんだ、恥ずかしいじゃないの! まったく!」
月音は嵐のように去っていった。
「痛い・・・愛も過ぎるとこうなるのかな、ハハハ・・・」
「月音ちゃんかわいいもんね」
「でしょ~分かる人には分かるんだな~」
「うらやましいな・・・」
「舞もかわいいよ」
「えっ!!」
舞は赤い顔を手で覆う。
「一年の時クラスの男子みんな言ってたよ」
「で、でも私、誰も話しかけてくれなかったけど・・・」
「みんな高嶺の花だって言ってたもんな~、相応の男じゃないと声掛けづらいのかもな」
「そんな・・・」
「もう少し砕けた感じにしてみたら? あっ、一人いるよ相応なのが」
「おい! 永井! ちょっと来い」
永井が不機嫌そうな顔で近づいてくる。
「なんだよお兄さん」
「だ・か・ら、兄さんって言うな」
「はいはい、それよりこちらに注目、この方は笹原舞さん、舞って呼び捨てで呼んであげてください。見かけたら話しかけ、たまに遊びに連れてってください。以上」
「よろしくお願いします」
舞はぺこりとお辞儀をする。
「は? いやいや、友達なら友達になろうとかそういう話からだろ、笹原さん、こいつの話をまともに聞いてたら良いもんもダメになっちゃうぜ」
「おいおい永井君、そこは舞と呼び捨てだと言ったろ」
「ダメだこいつ」
しかし永井はピコンッと何か思いついたような表情をした。
「ああ、分かった分かった。そういうことなら考えがある。ダブルデートしよう! 俺と月音、ハルと舞、どうよ、これ決まりだな」
「却下! 月音は関係ねーだろ! 俺は許さん! その前に、舞の意見も聞かず勝手な事を言うな、アホ」
「それを言うなら俺の意見も聞けってんだよ」
「私はいいですよ」
赤面した舞がそう答えている。間違いない。そう答えている。
「えっ?? 舞さん? 何を言ってるのかな?」
「おいおい木谷君、そこは呼び捨てで、まい、だろ~」
くっそ~! 呼ぶんじゃなかった、こいつそこそこ切れ者だった、完全なる俺のミスだ。
「じゃ、俺が段取りして決まったら連絡入れますんで、では、おに~さん」
永井とは一生相容れないな、と思いつつ隣を見ると舞が喜んだ顔をしている。
「私、男の人と遊びに行くとか初めてで、緊張しちゃうかも」
舞は赤い頬を手で押さえている。
あら、舞さんかわいいかも。いやいや、まずい、三十六歳が発情したら犯罪だ。というか、どこからか痛い視線を感じる。ああ、月音だ。月音が怒りの目でこちらを睨んでいる。くわばらくわばら。
そして永井が設定した日時場所へ集合となった。
某喫茶店にて、参加者コの字型の長いす左から順番に、笹原舞、木谷ハル、木谷月音、栗山清、北川遥香、そして発案者の永井将太である。
「いやいや、色々と違ってるんですけどこれはいったい・・・」
永井が頭を抱えている。
ふと横を見るとハルがニヤニヤとしていた。犯人はあいつか・・・くっそ~
「っていうか! 栗山おまえなんでそこに座ってんだよ! 場所替われよ!」
永井が怒り心頭で叫ぶ。
「栗山、おまえ誰に呼ばれたんだ?」
俺は呼んでない、いったい誰が?
「え? ハルが呼んだんじゃないの?」
月音が答える。
「俺がこいつ呼ぶ理由が無い」
「まあまあ、誰でもいいじゃないですか、女性が三人、男性が三人、丁度良いではないですか」
「ええ・・・勝手に来たのか、ある意味すごいなおまえ」
さすがの俺も脱帽だ。
「い、いいじゃなですか、みんなで楽しみましょう」
さすが舞さんである。
「っていうか、この集まりはなんなわけ?」
遥香が誰となく疑問を投げる。
「はい、私、木谷ハルが説明を致します。今回の会合発案者は永井将太さんです。拍手」
皆が力の無いパチパチをする。
「この集まりの名前は“七組仲良し会”、今回のみプラス栗山でございます」
「木谷~俺も入れてくれよ~悲しいじゃないかそんなこと言われると~」
「ハル、入れてあげたら」
月音が珍しく栗山にやさしい。
「はいはい、え~“七組仲良し会”の趣旨ですが、みんなで楽しく学園生活を過ごしましょう、という会です」
「特に議題はありません。皆で歓談、流れでどっか行ったり、ま、そんな感じです」
「リーダーは発案者の永井君です。今後何か案がありましたら永井までよろしくお願いします。ではご歓談を」
「おいハル! なんで俺がリーダーなんだよ!」
「おまえ発案者じゃね~か」
「色々と違ってるじゃねーか、参加者増えてるし・・・」
「ちょっと、将太! 私、発案者の将太に声掛けられてないんですけど、どういうこと?」
「遥香はハルに呼んでって頼まれたから私が呼んだんだけど、もしかして段取り間違えちゃった?」
「いや、全然、月音が呼ぶことを想定してたからあえて声を掛けなかっただけだから・・・はは」
くっそ~木谷、覚えてろよ!と、心の中で怒りを燃やす永井であった。
「私、人と集まって遊ぶとか初めての事でとても楽しいです」
舞の言葉に一同静まりかえる。
「あれ? 私何か変なこと言いました?」
「舞さん、私、木谷月音、友達になりましょう」
「私は北川遥香、よろしくね、笹原さん」
「はい! 私は笹原舞です。皆さんよろしくお願いします」
「ああ、そうそう、七組仲良し会はみんな呼び捨てということで」
「分かった~」「は~い」皆の返事が返ってくる。
何だかんだ言ってみんな楽しそうに話している。皆根はいいやつばかりだし。月音がなにより楽しそうにしている。舞と月音、遥香をつなげられただけでも成果はあったといえるだろう。また機会を見つけて集まれたらいいな。
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