わあわあと騒がしい廊下に、杏奈はふらふらとさ迷いだした。

 廊下を進むと、放送室のドアの前に数人の部下が顔をつきあわせ、なにか作業している。ドアを破ろうとしているのだろう。と、反対側からガス・トーチを持ってきた部下がやってきて、ドアの前に陣取った。

 ぱん、とガスが引火する音がして、トーチの青白い炎がドアの取っ手に近づいた。

 見る見るドアの一部が真っ赤に焼け、ペンキの焼けるいやな匂いがこもった。

「お嬢さま!」

 声をかけられふり向くと、木戸がそのひょろ長い身体を運んでドアの前に立ったところだった。

「杏奈さま、ここにいてはいけません! お兄さまのところへいらしてください」

「お兄さまのところへ?」

 木戸はうなずいた。

「そうです、非常事態です。なにがおきるかわかりませんから……おい!」

 と、これは洋子に向けて木戸は命令した。

「お前はお嬢さまをつれて、飛行船に乗り込むんだ」

「飛行船? どういうこと?」

 杏奈はじれったげに足踏みをした。説明されないのが頭にきたのだ。

 木戸はじろりと冷たい目で杏奈を見つめた。

 その視線に杏奈は身をすくめた。

 そっと背後から洋子が杏奈の腕を取った。

「さあ、行きましょう」

 ささやくと、ぐいぐい引っ張り、その場を離れていく。

 杏奈が洋子によって連れられていくと、もう関心をなくしたのか、木戸はトーチを持った部下に命じた。

「ドアをとにかく、破るんだ。いつまで勝手なことをさせるわけにはいかん!」

 はっ、と部下はうなずいてさらにトーチの火を近づけた。

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