コロシアム~その2~

「すげえ……」

 勝は感嘆の声をあげた。

 いつの間にか洋子は勝の腕から手を離していた。

 厳しい顔つきで、美和子は杏奈を見つめている。

「あなた、なにを考えていらっしゃるの?」

 口調は怒りに満ちていたが、言葉はあいかわらず丁寧なままだ。が、それがかえって迫力がこもっていた。

 びく、と杏奈は震えた。

「ここは真剣な対決の場です。あなたのようなかたが、いらっしゃるべきところではないのよ」

 くす、くすん……と、杏奈は鼻を鳴らす。

「だ、だって……あたし……あなたがお兄さまを……」

「これはあなたのお兄さまとは関係ありません! それにわたしは、あなたのお兄さまと結婚する気持ちはありません!」

 ぽかん、と杏奈は口を開いた。

「え……? でもトーナメントに優勝すれば……」

「そう、優勝すれば真行寺家は再興できるでしょう。あなたのお兄さまとわたしはたしかに許婚でした。でも、それはわたしのお父さまが生きていらっしゃったころの話です。それはそれ、これはこれ。わたしの気持ちはまた別なのですよ」

 はあ……と、杏奈はため息をつく。

 くすくすと笑いがこみあげてくる。

「あたし、あたしって……なんて……」

 美和子もまた柔らかな表情になっていた。

 す、と片手を杏奈に差し出した。

「さあお立ちなさい。あなたはこんなところにいてはいけません……大京市に帰って、お家に戻るのです」

 杏奈は美和子の手を掴み、立ち上がった。

 美和子と杏奈は見詰め合う。

 杏奈は恥ずかしげにうつむいた。

「ご免なさい……」

 小声でつぶやいた。

 そして歩き出す。うつむき、やや肩を落とし淋しげであった。洋子と護衛の召し使いたちも後に続いた。

「洋子……」

 思わず太郎は彼女に声をかけていた。

 太郎の声に、洋子は立ち止まった。

 彼女の視線に、太郎はたじろいでいた。

 冷たい、なんの感情もこめていない視線。

 これがあの山田洋子なのか?

「何か用?」

 平板な声音に、太郎は言うべきことを失っていた。洋子は太郎が黙っている側を、さっさと杏奈の後に続く。

 出入り口にくると、彼女はふっとふりかえる。

 コロシアムの中央に立っている勝と美和子を見つめた。そしてなにか振り切るようにさっと顔をそむけると、小走りに建物の中へ消えた。

 太郎は胸の中でつぶやいた。

 洋子、いったい君になにがおきたんだ?

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