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 さっとケン太が片腕を上げた。

 それを合図に、いきなり観客席から賑やかなオーケストラの音楽が鳴り響く。けたたましくトランペットが甲高い音をたてると、軽やかなステップと共にトミー滝が現れた。トミーは片手にマイクを掴み、やや前屈みの姿勢で声を張りあげた。

「グーッド・イブニーング! 視聴者のみなみなさま! いよいよ番長島トーナメント、最終日でござんすよう! 今日で最後の勝者が決まるんでございますねえ、いや、ワクワクドキドキいたしますです。あたしゃ、ゆんべからぜんぜーん、眠れませんでしたよ。ほれ、この眼真っ赤に充血……していないか。うそ! いまのは真っ赤な嘘! へへへへ、ばっちり眠っていなけりゃ、今日の重大な司会、できませんですから!」

 喋りながらくねくねと腰をふり、大げさな身振りを交えるトミーはまるで躁病患者のようだった。

 そのトミーを、何台ものカメラが同時に捕らえている。宙に浮かぶ飛行船のスクリーンには、その様子が中継されていた。

 トミーはさっとケン太にむけ、指をさした。

「こちらにこのトーナメント主催者であられますところの、高倉ケン太さまがご光臨なすっております。それではケン太さまにトーナメント最終日のご挨拶を願いましょう!」

 トミーの紹介を受け、ケン太はステージの真ん中に立った。後ろ手に腕を組み、すこし踵に体重を移してゆっくりとコロシアムの全景を目におさめる。

 ざわついた会場が徐々に静かになっていく。

 ケン太は口を開いた。

「トーナメントもこれで最終日……」

 ケン太の声は静かで、抑揚もおさえていたが、コロシアムの設計がよほどすぐれているのだろうか、マイクなしでも、会場のすみずみまで響き渡っている。

「みな、よくやった! 君らの戦いはすべて見させてもらった。じつに感動的な闘いだったといえる……。君らはこの島で、伝説を作ったのだ!」

 ケン太の顔は紅潮し、口調にも熱が入ってくる。

「いよいよ今日、最終日にあたり、最後のそして最強のバンチョウ、スケバンがその称号を得ることになる。最後まで勝ち残ったものには、賞金そしてこの僕に対する挑戦権が与えられる」

 ぐっとマントに手をやり、それを跳ね上げた。背中を見せつけ「男」の刺繍をよく見えるように上半身をひねった。

「この〝伝説のガクラン〟、手にしたくはないかね?」

 うおおお……、と参加者たちからどよめきが沸き起こる。全員、手をふりあげ、足を踏み鳴らし興奮を抑えきれないようだ。

 勝もまた顔を真っ赤にさせ、拳を宙に振り上げている。

「その〝伝説のガクラン〟絶対、おれが貰ってやるぜ!」

 その騒ぎの中、美和子と太郎は静かに立っていた。ちらりと太郎は隣の茜を見ると、彼女もまた頬を紅潮させ、目をきらきらと輝かせていた。

「そんなにたいした褒美なのかい?」

 太郎が話し掛けると、茜はあきれた、という目つきで見つめ返した。

「知らないの? あれは代々のバンチョウが伝えてきたガクランなのよ! あれを着ることができるのは、最強だと認められたバンチョウだけなんだから……。昔っから、あのガクランを巡っていくつものバンチョウ連合が戦ってきたわ……」

 そう言う彼女の目は、憧れにうるんだ。

「素敵だったでしょうね……一着のガクランをめぐって、何人ものバンチョウやスケバンたちが勝負しただなんて、あたしもそのころに生まれたかったわ……。いまはあの高倉ケン太さまが受け継いでいるけど、いまだにかれを倒すバンチョウは現れていないの」

 なるほどね、と太郎はうなずいた。ともかく、なにか判らないが、一着の学生服がこんな騒ぎを巻き起こすことだけは理解できた。もっともあんな学生服、金をやると言われても受け取る気はないが。

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