5

「どうすんだよ、お前ら」

 ふてくされた俊平は不機嫌にうなった。

 せっかく勝と一勝負できると思ったとたん、邪魔がはいって気分がしらけたらしい。

 俊平は思い切り不満であった。

「おれが美和子を倒す!」

 勝は叫んだ。そして俊平を見る。

「だがその前に、おめえと勝負してえ! おめえを倒して、その後美和子とやる!」

 断言した。

 俊平は笑った。

「面白え! そうじゃなくちゃな……だが、そこの女と勝負するのはおれだ! まずはおめえ、勝又勝を倒してからだが……!」

 それを聞いた勝は背をそびやかした。

「承知! おい、美和子!」

 美和子を睨む。

「逃げるんじゃねえぞ。この勝負が終わったら、かならず勝った方と勝負するんだぞ!」

 指先を突きたてた。

 美和子はゆっくりとうなずいた。

「よろしくてよ。わたしはどなたの挑戦も受けましょう」

 あちゃー、と茜が額をたたいた。

「ね、美和子姐さん。そんなんじゃ駄目だよ……もっと格好よくきめないと! そんなんじゃ、いいところのお嬢さん、まるだしじゃない!」

 茜の言葉にくすり、と美和子はほほ笑んだ。

「ご免なさいね、わたくし、あなたの言うような喋り方はなれていませんの」

「うるせ────い!」

 いらいらしているように勝は顔を真っ赤に染めて怒鳴った。

「どいつもこいつもペチャクチャさえずりやがって! 茜、おめえはどいていろ!」

 どん、と茜の肩を突いて俊平に向き直った。

 腰を落とし、目を怒らせた。

「来い! やり直しだ!」

 俊平はうなずくと勝に身体をむけ、闘いの構えをとった。

 

 ふたたび廃墟にふたりの闘気が満ちていく。

 勝と俊平の視線による火花が、目に見えそうである。

 

 …………。

 

 どちらかともなく、ふたりは動いた。

 目にもとまらぬ速さといっていい。

 ほとんど同時に「がつーん!」という、衝撃音が響いていた。

 ひっ、と茜は目を閉じた。その側に立つ美和子は、彼女の手を握りしめている。

 

 静寂。

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