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「お兄ちゃん!」

 がくっ、と勝はたたらを踏んだ。

 へ? という顔でふり返る。

 たたた……と、一心に走ってくる少女が目に入った。

 勝の目がおおきく見開かれた。

「茜……?」

 お兄ちゃ~ん! と、大声をあげ茜は表情を泣き顔でぐしゃぐしゃにして飛び込んでくる。勝の胸に顔をうずめ、泣きじゃくる。

「お、おい……茜、お前どうして?」

 茜は顔を上げた。

「馬鹿! お兄ちゃんの馬鹿! 探したんだよお……」

 よお……の語尾が泣き声でかすれた。

 勝は苦い顔になった。

 ぐっと茜の肩を掴んでいる腕を伸ばし、言い聞かせる。

「ちょっと待て! いまおれが何をしているか、判んねえのか?」

 だってえ……と茜はぐずった。

 その時、砂利を踏んで近づいてくるふたりの足音に勝はそちらに注意を向けた。

 かれの目がさらに見開かれた。

「真行寺美和子……」

 つぶやいた。

「なに、いまなんと言った?」

 それまであっけにとられ、ふたりのやりとりを聞いていた俊平が緊張した表情になり、勝の見ている方向に目を向ける。

「その女か……一度お目にかかりたいと思っていたんだ」

 にやりと笑った。

 その笑いに、美和子は眉をひそめた。

 ぎらりと俊平の口もとが日差しを反射する。

 かれの歯はすべて義歯になっていた。しかも鋼鉄製の。

 

 かれらが顔を合わせたのは偶然のようだが、しかし偶然の要素は少ない。

 すでに島のトーナメントが始まって数日経過している。それまで大多数の参加者が落伍し、参加者は十数名に限られていた。参加者の数が減るにつれ、島のあちこちに用意された宿泊所、食堂はその数を減らしている。少ない人数のためにすべての施設を開く必要はないからだ。

 とうぜん、その施設を利用する参加者たちの活動範囲もせばまっていく。勝たちが施設を利用するかぎり、顔を合わせることは必然でもあった。

 バッジ獲得者上位の者がここに集結したわけだ。

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