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「トーナメント? お嬢さまがそれに出るって?」
幸司のつぶやきに、コック長は長い顔をふってうなずいた。
真行寺家の厨房である。幸司の説得に、召し使いたち一同はふたたび仕事に立ち戻り、コック長以下、調理人たちもいつもの料理の下ごしらえにかかっている。
「そのトーナメントって、どんなやつだい?」
「お前、知らないのか。高倉コンツェルンが大々的に宣伝しているだろう? 優勝すれば、ものすごい大金をせしめることが出来るって……全国から、腕自慢が集まっているそうだぜ!」
「そんなのにお嬢さまが出るのか。つまり、その金で……?」
「そうさ、真行寺再興のためには、大金が必要だ。お嬢さまはそれに出場して、優勝するおつもりらしい」
ふうん、とため息をついた幸司に向け、コック長はぐすんと鼻をこすり、目頭をおさえた。
「なんと御いたわしいことだ……世が世なら、お嬢さまはそんなお金の心配などすることなく、ご勉学に励む年頃なのに……」
コック長の嘆きはつぶやきとなり、愚痴になった。
幸司はそんなコック長の愚痴を、まるで聞いてはいなかった。
かれの頭にある考えが渦巻いていたのである。
自分は腕っぷしなどまるでないし、喧嘩なんかしたこともない。だからお嬢さまの加勢をするなんて無理な話しだ。だけど、自分らしいやり方で、お嬢さまをお助けすることは出来るんじゃないか?
そうだ、これなら……。
幸司はコック長に向き直った。
「ね、そのトーナメント、高倉コンツェルンが主催するっていうことだよね?」
ああ、そうだとうなずいたコック長を尻目に、幸司は飛び出した。
おい、幸司と呼びかけるコック長の言葉を背中に聞き、屋敷を出て行く。
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