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来客とは山田勇作氏だった。
洋子の父親である。
すでに筆頭執事の木戸は、勇作氏を来客用の小部屋に案内していた。真行寺家にとって、そう重要ではない来客のあった場合、通される部屋である。しかし小部屋とはいえ、じゅうぶん広々として天井も高い。ほかの部屋から比べれば小部屋であるが、通常の家からすれば大広間といっていい豪華さだ。
その応接セットに山田氏はちんまりと膝をそろえて座っていた。
太郎が部屋に入ってくると、救われたような表情を見せた。真行寺家の屋敷の豪華さに圧倒されていたのだろう。山田氏が経営する執事学校はホテルとしてじゅうぶんな調度を備えているが、それでもこの屋敷からくらべれば相当おとる。
「やあ、太郎! ひさしぶりだな」
「はい、校長先生もお変わりないようで」
その校長先生はやめてくれ、と勇作氏は手をふった。
「わたしはここではただの山田勇作だよ。執事学校の校長うんぬんは意味がない。それより手紙をもらった。洋子が高倉コンツェルンの総帥、高倉ケン太氏のところへメイドとなっているそうだな?」
「はい、元気そうでした」
あいつめ……と、勇作氏はつぶやいた。顔が渋面になっている。ほっと息をつき、かれは椅子にふかく座りなおして腕を組んだ。
「まったくあの娘が置手紙を残して家を出たときほど驚いたことはなかったぞ。あれの母親はあれ以来、寝込んでいる始末だ。今日はなんとしても、小姓村に連れ帰ってやらねばならん!」
「と言うと、もしかしていまから高倉家に向かわれるおつもりですか?」
太郎の問いかけに、当たり前だと勇作は力んだ。
表情に決意があらわれている。
立ち上がった。
「それじゃ、これからすぐに高倉家に行かねばならん。君の顔を見たくて寄ったのだが、立派な召し使いになってくれて嬉しいよ」
太郎は頭を下げた。
勇作はつぶやいた。
「しかし、それにしてもこのお屋敷の筆頭執事の木戸という男。たいしたものだ。わしの執事学校とは関係ないそうだが、あれほど出来る執事は、そういないだろうな」
太郎はうなずいた。さすがに執事学校を経営するだけあって、一目見ただけで木戸の実力を見抜く勇作氏の眼力は確かである。
来るときと同様、山田勇作氏はあわただしく真行寺家を出て行った。
その後ろ姿を見送って、かれは首尾よく洋子を連れ戻すことが出来るだろうかと、太郎は思っていた。
結果としてうまくいかなかったようだ。
あとで山田氏から太郎に手紙が届いた。
その内容から、洋子と勇作氏のやりとりはつぎのようなものだった。
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