エピソード‣ゼロ フェイカーズ結成物語 前編

-12話 新しい出会いは全ての始まり●

 桜が満開になった4月の初め頃、今日は高校の入学式の日。今日から通う事になる学校の入学式に向かうのは僕、夏川京である。


 学校は隣県にある為、これから始まる毎日の通学が大変である。


 なぜ家から離れた場所の学校に通うようになったのかには、色々と理由がある……


 そんな理由は今は置いといて、これから始まる高校生活という今までとは一味も違う新生活にほんの少し期待を寄せながら、僕はスマホでニュース動画を見ながら学校までの道のりを歩いていた。


『ここ数年で一気に話題を集め、今や職業として世間からも認知されているUTuber。UTubeには毎日、たくさんの動画が投稿されています』


 見ていた動画のニュースは、今話題のUTuberに関するニュースであった。


 UTubeと言えば、中学の時に5人グループでやっていたことがある。世間ではそこそこ人気があったみたいだが、今から思うとそんな事はどうでもいい。


『今や、一般人だけでなく、芸能人達もUTuberデビューをするようになった時代。そんなUTberの数も増えれば増えるほど、UTubeには新ジャンルの動画も日々投稿されています』


 世間はUTubeに動画を投稿するとたくさんお金を稼ぐ事が出来るようになるという事しか報道しない為、大した実力もなく、ろくにやりたい事もない無能達が群がる。そのせいで、人が集まった今のUTubeには、そんな底辺達のゴミ動画が溢れかえっている。


『時代はまさに、大UTuber時代!!』


 ニュースでは綺麗にまとめようとしているが、メディア側もまたUTubeでどんな事が出来るかをメインに報道するのではなく、どれだけ稼ぐ事が出来るかがメイン。そう、世の中はお金がメインなのだ。


『そんな中、今日の特集では、今、中高生達の間で大人気のジャンルである、アイドル系UTuberについて特集をして行きたいと思います――』


「いてっ!!」


 スマホのニュース動画に夢中になっていたせいで、僕は誰かとぶつかってしまった。歩きスマホは事故の元だと事故の元だと言われているが、本当に事故を起こしてしまうとは。





 とりあえず、事故の大小とは関係なしに、ぶつかってしまった事には変わりはない為、ぶつかった相手に謝らなければならない。その為僕はイヤホンを外し、スマホを制服のポケットに入れた。


「ゴメン、大丈夫だった?」


 ぶつかった相手は小学生くらいの金髪の女の子であった。入学式という事もあり、兄姉の入学式について来た妹なんだろな? 自分の学校は? そんな疑問はさておき、1人でいるという事もあり、もしかしたら迷子なのかも知れない?


「痛ってぇ~なぁ…… 歩きスマホなんかしてるなよ!! 危ないだろが!!」


 なんだこの子。見た目とは裏腹に凄く言葉使いが悪い。でも、歩きスマホをやっていた僕が悪いのだから、言われても仕方がない。


「歩きスマホに関してはゴメン。ところで君1人? お兄さんやお姉さんはどこ? 家族とはぐれたのかな?」


 とにかく、1人でいたその子に対し、僕は家族とはぐれたのかを聞いてみた。


「何子ども扱いしてんだよ!! 私は付き添いの妹なんかじゃないぞ!!」


「えっ!? 痛っ!!」


 すると、その子は怒りながら、僕の足を蹴って来た。


「私の外見から、みんな私を小学生と間違えてるけど、私はれっきとした高校生だ!! 今日からだけど」


「そうなんだ。それはゴメン」


 まさかの高校生。外見だけではとてもそうは思えないくらい幼い見た目だった。この外見だと、小学生と間違えても仕方がないか…… よく見たら、この学校の制服を着ていた。


「ゴメンじゃないよ!! このオナベ野郎!!」


「いやっ、オナベって…… 僕は男だよ……」


「じゃあ、お前はオカマ野郎だ!!」


 外見で物事を決めつけてるのってどっちだよ? 


 確かにその子に言われるように、僕の外見は女の子そのもののせいで、初対面の人からは女性と間違えられる事はよくある。今となっては、それは慣れてしまっているが……


 まぁ、とにかく、外見だけで実際とは異なるイメージで判断されるのはお互い様だな。その子とは、変な共通点があるかも?


「オカマ野郎って…… 僕にはきちんと夏川京って名前があるんだよ」


「そう、お前の名前は夏川京なのか」


 今後、同じ学校に通う者同士になる事だし、オカマと言われ続けるのは嫌なので、とりあえず自分の名前を教える事にした。


「そうだよ」


「夏川京ね…… まぁいいや。私の名は春浦古都」


 僕が名前を教えた後、その子も自分の名前を語って来た。その子の名は春浦古都という名前であった。


 その後、そろそろ教室に行かないと入学式に遅れてしまうと思った為、古都という子とは、ここでおさらばをする事にした。


「そろそろ入学式が始まりそうだから、早いとこ教室に行った方がいいよ」


「そうだね。じゃあ、またどこかで」


 そう言うと、古都は走って僕の元から離れて行った。古都はまたと言っていたが、同じ学校内とはいえ、再び会う事はあるのか? 男女の違い、そう簡単には友達同士になる事もないし、意外ともう話をすることはなかったりして?


 そんな事を思いながら、僕もまた教室へと向かう事にした。





 そして、入学式も終わり、高校生活の一日目が終わろうとしていた。教室内では早い人は既に友達を作っている人がいた為、僕にも少し焦りが出てしまった。


 自分から話しかければすぐに友達は出来るかも知れないが、どうも初対面の人に友達になろうと言うのは得意ではない。


 最も僕の場合は、相手から話しかけられて友達になって行くタイプだ。


 そう思いながら、友達作りは明日以降でいいだろうと思いながら、帰りの準備をしていた時、突然、教室の入り口の方から、高い声で僕の名前を呼ぶ声がした。


「あっ、京って人、まだいた」


「いたら悪いの? ちょうど今から帰ろうと思っていたところだよ」


 突然、僕の名前を呼びながら教室に入って来たのは、今朝初めてであった古都という小学生の様な外見をした女の子であった。


「夏川京の顔を見た後、どこかで見た事がある顔だなって思ってずっと考えていたんだよ。そしてついに思い出した。お前、あのグループ系UTuberのマイスターズのメンバーだっただろ?」


 まさかの発言に僕は驚いた。かつて僕がやっていたUTuberグループの名前を言って来た事に。


 活動当時は偽名で活躍をしていたが、顔出しで活動をしていた以上、一歩外に出れば少なからず見ず知らずの人から見た事があると言われてしまうリスクがある。そう、今みたいに。


「僕がマイスターズのメンバーだったら何があるんだよ? それに今はマイスターズのメンバーじゃないし」


「だからこそ、私は京に話しかけたんだよ!!」


 どうやら今の僕がマイスターズのメンバーではない為に話しかけてきたようだ。


「でっ、マイスターズじゃない今の僕に何の様なの?」


「マイスターズに入っていない今だからこそ、大チャンスたと思って頼みたい事がある」


 頼みってなんだろ? マイスターズのメンバーではない今だからこそ頼める頼みとは?


「私のUTube活動を手伝って!!」


「えっ!?」


 古都からの頼みは、まさかのUTube活動の手伝いだった。古都がどんなレベルのUTuberなのかは知らないが、僕のレベルだと手伝いをやるのは難しくはない。でも……


「それは出来ないね。最も、僕はもうUTubeをやりたいと思っていないし」


 僕は古都からの頼みをあっさりと断った。


「なんでだよ!? 今日初めて出会ったばかりの女子からの頼みだよ? お前はそんな女子の頼みをあっさりと聞き逃すのかよ!!」


 確かに古都の言う通り、僕は今日であったばかりの女子の頼み事を断った。


 古都が今日初めて出会った、どんな性格かもわからない異性へ勇気を出して言ったのかと思う頼みを。


「僕でなくても、UTubeに関する事なら、別の人に頼めばいいだろ?」


「そう言われても、私の近くにはマイスターズの様にチャンネル登録者数が10万超えのUTuberなんていないし」


 僕の地元を含め、この周辺には大物クラスのUTuberはどこにもいない。要はUTuber後進地区なのだ。だからこそ、10万超えでも珍しく思うのだろ?


「チャンネル数に関係なく、教える事の出来る人なんてどこにでもいると思うけど?」


「教えてもらう人は、やっぱり一流の方がいい!!」


「別に、僕は一流ではないんだけど……」


「そう言うけどさ、才能があったからこそ、チャンネル登録者数が10万人を超える事が出来たんだろ? それはもう一流だよ」


「よく分かんないけど、マイスターズは5人組だったし、僕一人では10万超えなんて絶対に出来なかったと思うよ」


「それでも、才能がある事には変わらないじゃない!! だからこそ、私のUTube活動の手伝いをやってよ!!」


 僕はやる気がないというのをアピールしながら話をしていても、古都は引き下がろうとはしなかった。


 古都の言う通り、他人の目から見れば、本当に才能があったのかも知れない。少なくとも、同年代の人よりは動画の編集技術は上手いと自分でも思っている。


「いくら君が頼み込んでも、僕は断り続けるよ。それは僕が単に面倒だと思っているのではなく、君自身に迷惑をかけたくないと考えているからだよ」


「なんだよ!! そう言って逃げるだけだろ!?」


 これは僕自身が考える通り、まだよく分からない古都という子に迷惑をかけたくないという考えもあった。


 もし、このまま僕が古都の手伝いをやっているのがネット上でバレてしまうと、古都もマイスターズの一部のアンチによる嫌がらせを受けてしまうかも知れないと。そんな思いもあり、僕は古都の頼みを断っていた。


「君がどうしてUTubeをやっているのかなんて知らなければ聞く事もないが、とにかく、UTubeの手伝いを頼みたいのなら、同性の女子にでも頼めばいいだろ? その方が、自分のやりたい事が見つかると思うよ」


 そう言いながら、僕はカバンを持って教室を出ようとした。


「なんだよ!! 私は一流に手伝って欲しいんだよ!! 諦めないからな!!」


 教室を出ようとする僕の後ろで、古都は怒り声で叫んでいた。


 入学式の日からやっかいなヤツに目を付けられてしまった僕。これから始まろうとしている高校生活はどうなるの? そんな不安を抱きながら、僕は教室を出た。

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