イベントとこれからの映像制作部……

第25話 泊まり込みで編集作業

 階段の踊り場で香里奈から突き飛ばされた私は、そのまま下の床に落ちるのかと思っていたが、幸いにも落ちる直前に誰かに助けられたお蔭で、無事、ケガはしなかった。それと同時に、私を突き飛ばした香里奈は同情を隠せない為か、あやふやとし不安そうに階段の下にいる私を見ていた。

 そんな間にも、遠くから美紗と優の慌しい様子の声が聞こえてきた。

「一体、何事なの!?」

「だっ、大丈夫!?」

 美紗と優がこのタイミングで慌しい様子で駆け寄って来たという事は、私を助けてくれたのはおそらくキョウなんだろう? そう思いながら、私は確認をする為、後ろを振り向いた。

「とっ、とにかく、ありがとう……」

「全く…… 何やってんだよ!?」

「あっ、やっぱりキョウだったか!!」

「やっぱりだったかじゃないよ。もし、ボクがいなかったら古都は大ケガをしていたんだよ。イベントは今週末だというのに、こんな時期にケガでもしたら大変だろ?」

 私をギリギリで受け止めたのは、予想通りキョウであった。私が落ちてゆくタイミングで現れた件に関しては偶然を通り越し、奇跡としか言えないぐらいである。

「でも、キョウが私を受け止めてくれたおかげで、私にはケガは一つもないよ。それでいいじゃない」

「それでいいわけないだろ? もしボクがいなかったら、本当に大ケガをしていたところなんだよ。イベント前なんだから、もう少し行動には気をつけろよな」

「なんだよ、キョウは私の無事よりもイベントの方が大事なのかよ!?」

 私の無事以上に、今週末に開催をする自主イベントの方を心配していたキョウの事が気に入らなかった私は、少々不満な気分になりながら、キョウの身体の上に乗っていた状態から降りた。

「当ったり前だろ? 1人でも欠けてしまったら、今回のイベントは失敗するかも知れなんだぞ。それは言い方を変えれば…… 痛てっ!!」

 私に続き、キョウもその場から立ち上がろうとしたけど、どうも様子がおかしかった。キョウは私と同じ様に立ち上がろうとしたけど、立ち上がる際に床に手を付いた途端、手首を痛がりながら再び倒れてしまった。

「おいっ、キョウ!! 大丈夫か!? 私を驚かそうとして、ドッキリのリサーチなんかこの場でやらなくていいぞ?」

「リサーチなんかじゃないよ。本当に痛いんだ……」

 まさかの冗談抜きではなく真実。これってもしかして、私を助けたせいでこうなってしまったの? でも、それだとしたら、私を突き飛ばした香里奈が一番悪い!! 香里奈が悪いに決まっている!!

 そう自分に言い聞かせ、このまま起き上がろうとせず、倒れたままのキョウをどうすればいいか分からずただ見ていると、美紗と優が慌てた様子でキョウに駆け寄った。

「ちょっと、大丈夫!?」

「キッ、キョウちゃ~ん!!」

「あぁ、大丈夫さ。手と足と腰を痛めてちょっと動き辛いというぐらいかな?」

「それ、全然大丈夫じゃないじゃない!!」

「私、先生を呼んでくる!!」

 キョウの元に駆け付けた美紗と優は、すぐさまキョウの様態を確認し、それ相当な対応を行った。私が立ちすくんだまま何もしなかった中、美紗と優は何の迷いもなくキョウに対するすぐにやるべき対応を行った。自分が助けてもらって思うのもアレだけど、ケガもそんな大袈裟じゃないと思うのに、キョウもキョウだよ全く。



 その後、顧問の先生の指示の元、キョウは顧問の先生と優によって保健室に運ばれた後、私は香里奈と共にキョウが手と足と腰を痛めた原因について美紗から問いつけられていた。

「でっ、夏川さんの手と足と腰を痛めてしまった原因が、春浦さんを突き飛ばしてしまった四季神さんにあると?」

「そっ、そうだよ!! 香里奈が私を突き飛ばしたのが悪いんだ!!」

 美紗に怒られながら原因を問い詰められている私は、とにかく一番悪いのは香里奈であると、指で指しながら言った。

「なっ、なによ!! 元々は、あんたがいらない事で私に文句を言ってきたのが、そもそものきっかけでしょ!!」

「そんな原因を作ったのはお前だろが!!」

 私は香里奈と再び激しい言い争いを始めた。先程の言い争いの続きをやる様に思っていた事をそのまま言った。

「ちょっと、2人共!! 少しは落ち着きなさい!!」

 美紗の声など聴いている暇はない私は、美紗の存在を忘れるぐらいかのように、再び香里奈に思っていた不満を言い始めた。

「お前がこの部活に居なければ、始めからこんな事なんて起きなかったんだよ。だから今からでも部活を辞めろよ!!」

「部活に入らなくてもUTube活動が出来るなら、今すぐにでもそうしているわよ!!」

「学校を辞めたら、いつでも好きなようにUTube活動が出来るだろ? いっその事、キョウをケガさせた最大の原因者としての責任を取って学校を辞めろよ。そしたら、部活に入る事もなくなるし、誰にだって文句を言われずに自由にUTube活動が出来るし、それでいいじゃない!!」

「なんで、あんた如きに学校を辞めろとか言われないといけないのよ!? そんな事、別にあんたが決める事じゃないじゃない!!」

「私は自分の思っている事を言っただけだ!! 決めてなどいない!!」

「大して変わらないじゃない!! 私はあんたの指図なんて絶対に受けないんだから!!」

「部員になるなら、最低限、私の言う事を聞け!!」

「うっ、うるさいわね、弱小!!」

 私と香里奈の言い合いは、先程以上に増し、話が噛み合っているとは思えないレベルの、ただのパッと思いつきで嫌がらせを言っているだけだった。

「いいかげ……」

 そんな中、先程まで特に気にすらかけていなかった美紗の様子が、なんだか様子がおかしい。美紗を見ていなくても、その可笑しさはオーラから伝わって来る……

「いい加減にしなさい!! あんた達!!」

「ふぁっ!?」

「あぐっ!?」

 突然、美紗が私と香里奈の間に入り、私と香里奈の頭を手で掴み出した。美紗は強く掴んでいる為なのか、かなり痛い。

「痛てて、放して」

「はっ、放しなさいよ!!」

「とにかく、言い合いは辞めて落ち着きなさい。いくら言い合いをしたって解決しない問題だってあるのよ。それに今は、まもなく始まるイベントがあるのだから、言い合いの前に、まずはイベントという問題を片づける事を考えなさい」

 美紗に頭を掴まれたままの状態で、私は肉眼では見る事の出来ない美紗の恐怖のオーラを感じとり、これ以上怒らせてはいけないと思い、美紗の指示を無言のまま従う事にした。美紗って、怒らすとかなり怖いのかも?



 そして、一旦落ち着いた後、美紗は私と香里奈の頭から手を離した。

「それに今はケンカをしている場合ではないじゃない!!」

「そんな事ぐらい分かってるけど、私はコイツの事が嫌いだもん」

「今はそんな事を言っている場合ではないでしょ。イベントで上映をする映画の完成はどうするつもりなのよ?」

「どうするって、作ればいいだけじゃない?」

「その、いつも動画を作っていた夏川さんはケガで倒れてしまって、今は動けない状態にあるのよ。あなた達の言い合いと言うケンカのせいでね」

「あっ!? そうだった!! キョウがケガしてしまったんだ……」

 私は、美紗にイベントで上映をする映画の完成の件について聞かれた時、改めて事の重大さに気が付いてしまった。いつも動画の編集を担当しているキョウが私と香里奈の口論のせいでケガをしてしまい、すぐに動画を作る事が出来る状況ではないという事に。

「夏川さんが作れなくなった今、私達だけで動画を作らないといけなくなったのよ!! それは分かってるの?」

「分かってるも何も、キョウがケガをした原因となったコイツに残りの編集作業をやらせたらいいだろ? キョウがケガをした原因はコイツの存在なんだからさ」

「なんで私だけのせいなのよ!! キョウがケガをした原因はあんたにもあるでしょ!!」

「いやっ、お前の方が悪い!!」

「いい加減に黙りなさい!!」

「はっ、はい……」

 編集担当のキョウがケガをした最大の原因者として、香里奈に残りの編集作業をやる様に言い、再び口論を始めようとしたところ、美紗の怒り声によって強制的に止められてしまった。

「とにかく、夏川さんがケガをしてしまった原因は、四季神さんだけにある物ではないのだから、編集作業は1人ではなく、みんなでやるわよ」

「みっ、みんなでって」

「まさか」

「そうよ。残りの編集作業は、私達だけで行うのよ。時間も残されていないし、今更イベントを中止にするわけにもいかないし、となると、動画を完成させるしか道は残されていないのよ」

 キョウが動画をすぐに作れなくなった為、残りの編集作業を皆でやろうと美紗は提案をしてきた。いきなり編集作業と言われても、今までろくに編集作業をやって来なかった私がキョウの様な編集が出来るとは思えない。

「そんな事言うけどさ、私が編集をやっても下手なのは分かるでしょ? それでも、皆でやるつもりなの?」

「当たり前よ。残り日数がほとんどない今は、レベルに関係なく1人でも人数が多い方がすぐに終わるわ。それに、四季神さんがいるのだから、春浦さんと秋風さんは、私達の指示に従ってアシストをやるだけでも十分に間に合うわ」

「なるほど、でも私に編集のアシストなんて勤まるのかな?」

「大丈夫よ。春浦さんは今まで動画の台本を書いて来たのだから、動画のプロットに関しては誰よりも詳しいはずよ。だから自信を持てばいいのよ」

「そう言われると、なんだか出来そうだ」

 編集のアシストとは言えども、実際に動画の編集をやらない私がパソコンでの編集作業なんて出来るのかと思っていたが、美紗の言葉を聞いていると、実は出来るのではないかと思い込み始めた。

「やっぱり、私がメインになるの?」

「まぁ、そうなるわね。私は音響の方が専門だから、夏川さんがやって来た部分の編集は、どうしても四季神さんに任せたいわ」

「私にキョウの編集技術を再現出来るかしら?」

「出来るかではない、やるしかないのよ。それに、四季神さんは1人でMVを作ったりしているし、夏川さんも編集技術に関しては褒めていたわよ」

「ホント!!」

「そうよ。だから、絶対に出来るわ!!」

 香里奈もまた、美紗の言葉を信じ、出来ると自信を持ち始めた。全く、私が言うのもアレだが、単純なヤツだな。



 そして、イベントで上映をする映画の編集作業を皆でやるというのは分かったが、未だに疑問に思う事があった。

「みんなで編集作業をやるというのは分かったけどさ、イベントは今週末だよ。今から編集作業をやっても、部活動として学校内にいる時間は3時間程。そんな短時間で間に合うのか?」

 私が疑問に思った事は、時間の問題であった。

「それに関しては大丈夫よ」

「ホントか美紗!?」

 美紗はどうやら、時間に対する問題も既に解決済みであったようだ。

「えぇ、今日からイベント当日まで、編集作業が終わるまで泊まり込みをやるわ!!」

「えっ!?」

「何言ってるの?」

 突然の美紗の発言に私は驚かされた。いきなりの泊まり込みの作業宣言に。確かに時間はないのは分かる。でも、そんな急に学校に泊まる事なんて出来るのか?

「だから、動画が完成するまで、つまり、イベント当日まで私達は部室に寝泊りしながら徹夜で編集作業をやるのよ」

「何でよ!! 私は嫌よ!! 泊まり込みなんて!! 動画の編集作業なんて、家でも出来るじゃないの!!」

「確かに1人でならどこでも編集作業を出来るわ。でも、今回は私達4人で編集作業をやるのよ。だったら、少しでも早くコミュニケーションを取れるようにする為に、お互いが近くにいた方が良いでしょ?」

「たっ、確かにそうだけど、泊まり込みなんて学校側からの許可がそう簡単に降りるとでも思ってるの」

「そうだよ!!」

 確かに香里奈の言う通り、級の泊まり込みに学校側の許可なんて下りるとは思えない。

「そっ、それは…… 頼み込みしかないわよ」

「あらっ、泊まり込みで編集作業を? だったら、私が許可を取っといてあげるわ」

 すると突然、タイミング良く顧問の先生と優が保健室から私達のいる場所まで戻ってきた。それと同時に、顧問の先生は私達の話を聞いていたのか、姿を見せるなり、泊まり込みの許可をした。

「いいんですか先生?」

「当たり前じゃない。泊まり込みをやればイベントまでに間に合うというなら、間に合わせる様に持っていくのが、顧問の勤めよ」

「それに、みんなでお泊りだなんて、すっごく楽しそうじゃない!!」

「全く、秋風さんったら…… 遊びではないのよ」

 顧問の承認と同時に、優も姿を見せるなり泊まり込みの件に関して賛成をした。

「分かってるよ。でも、泊まり込みとなったら、今から夜食用のお菓子を買いに行ったりと、すっごく忙しくなりそうだね」

「だから秋風さん、遊びじゃないって言ってるでしょ」

 どんな状況においても、優は相変わらずマイペースだ……


 その後、顧問の先生からキョウの安否について大したケガではない事が伝えられ、数日安静にしていればケガは治ると伝えられた。それを聞いて私達は一安心。

「夏川さんのケガの方は大丈夫の様だし、残りは私達で頑張るわよ!!」

「まぁ、グループで動画を作るのって面倒くさそうだけど、キョウに私の凄い編集技術を見せつけてあげるわ」

「私はあくまでもアシストしか出来そうにないから、メインはお前らに任せるぞ!!」

 これからイベント当日までの間、部室でも泊まり込みでの編集作業が始まる直前、私達はそれぞれ泊まり込み作業に対しる意気込みを語った。

「泊まり込みとなったら、まずは美味しいお菓子探しからだ!!」

「だから、お菓子は忘れなさい!!」

 そんな中、優は相変わらずマイペースだ。こんな調子で泊まり込みの編集作業なんて出来るのだろうか? 少し心配である。


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