第23話 キャラ作りは大切
この日の放課後、映像制作部の部室には、優の幼馴染の千百合が久々に部室に来ていた。
「店で飾るチラシは、こんな感じにやってみたわ」
そう言いながら、千百合は部員達に自作のチラシを配った。
千百合が作ったチラシというのが、来月頃に自主イベントでの公開を予定している、フェイカーズとチョコチップとのコラボ動画である映画の宣伝チラシであった。このチラシを自分の家の和菓子屋の店内に貼ったり、店に来た客達に配り、少しでも多くの人達が自主イベントに来てくれる様にと、千百合が作ってくれたのである。
「うん、いいじゃないか!!」
「そうねぇ、このチラシなら客にも好意を持ってもらえるわよ」
「ホントですか!! そう言ってもらえると凄く嬉しいです」
千百合が作ったチラシは、古都と香里奈から好評の意見を貰えた。それを聞いた千百合は凄く嬉しそうであった。
千百合が作ったチラシであるイベントでの映画が公開されるのはちょうど1ヵ月後であり、今はその映画の完成を目指し、映画撮影の日々に追われている。
突然、イベントでの映画上映が決まった理由は、香里奈が映像制作部に入部をしたのをきっかけに、今まで不仲であった古都との仲を解消させる目的で思いついたコラボ動画から話が始まった。
そして、入部をしてきた日に行われた話し合いで普段から撮られている様な動画ではコラボを頑なに拒否をする香里奈を説得させる為、普段では出来ない事である大がかりなイベントというコラボをやる事になった。そのコラボこそが映画上映である。
コラボ動画をやる事が決まってからの毎日は、1ヶ月後に開催されるイベントでの上映会に向け、映画の撮影に大忙しであった。それと同時に、映画撮影の合間にも普段の動画の更新も忘れずに行っている為、今まで以上に忙しくなったと感じる毎日であった。
イベントで上映される映画の内容は、Utubeに動画を投稿するのを目的とした部活に所属している5人のアイドル系UTuber達の活躍を描いた青春ドラマである。
物語はアイドル系UTuberがメインになって来る為、劇中内では主に歌の練習やダンスの練習を行う場面が意外と多い。その為、撮影を行っていない時は、歌やダンスの練習も行わなければならない。この練習がまた凄く大変である。なれていない事をやる為だと思う。
そんな映画の脚本を書いたのは古都であり、劇中内で歌の曲や歌詞を書いたのは美沙であり、ダンスの振り付けを行ったのは香里奈である。同時に香里奈は、劇中内で着る衣装の制作も行っている。こちらに関しては、優も多少は手伝っているみたいだが。
ちなみにキョウが行っている担当は、言うまでもなく撮影された映像の編集担当である。映画の撮影となると、普段の編集以上に手の込んだ編集になる為、流石にすぐに終わる作業ではない。その為、映画撮影が始まってからの放課後は、今まで以上に部室内にあるパソコン席に座って作業をしている時間が増えた。
そんな感じで作られている映画が上映されるイベント会場は、千百合の知り合いの人が運営しているショッピングモールの中にある小さなホールであり、今回はそのモール内のイベントに特別ゲストとして、千百合の紹介から出場をする事になった。
今回は千百合のお陰もあり、無事にイベントを開催する事が出来たが、ホールそのものはモールの中にある為、入れる人数は精々50人程である。それでも、今のフェイカーズにとっては、凄く大きなホールにも感じる。それぐらい、当日に人が来てくれるかの心配もあるという事。
当日、人が来てくれるかという心配もあるが、これに関しては香里奈が自身のチャンネル内で定期的に配信している生放送内でイベントの宣伝をやってくれている為、多少の人は来てくれるはず。宣伝に関しては、フェイカーズの動画内でも行っているけど、現時点ではどれだけ効果があるのか? さすがに、映画に出演をしてくれたエキストラ達やモールのイベントに来る人達もいるので、流石に0人なんて事にはならないはず……
その後、千百合が部室を出て行った後、香里奈が何か言いたそうな表情をやりながら、こちらを見てきた。
「以前から思っていた事だけど、あんた達ってキャラ作りとかはしないワケ?」
「キャラ作り!? なんで、そんな事をやらなければいけないんだよ?」
「全く…… アイドルをやるんだったら、ファンの人達に人気が出る様なキャラ作りぐらいはしておきなさいよね」
「別にキャラ作りなんてやる必要はないと思うけどね。第一、私達はお前と違ってアイドル系UTuberでもないし」
香里奈が言いたかった事は、フェイカーズのメンバーにキャラ作りをやれという事であった。キャラ作りに関しては、日頃から女子高生を演じているキョウはこの課題を既にクリア済みだな!!
そんな事はさておき…… 確かに、アイドルとしてやっていくのなら、ファンの人達に人気が出る様なキャラを演じておく方が良いと思う。最も、アイドル系UTuberでなくても、UTubeに動画を投稿するのであれば最低限のキャラ作りぐらいはやっておいた方が良いのかも知れない。
「確かに最低限のキャラ作りぐらいはしておいた方が良いかも知れないけど、どうしてそう思ったんだよ?」
「どうしたもなにも、ここ数日のあんた達の撮影中の演技力を見ていると、どうもアイドルを演じれていない気がするのよね」
「まぁ、香里奈と違って、アイドル系UTuberじゃないし、アイドルらしくなくても仕方がないよ」
「そんな考えがダメなのよ!!」
「えっ!?」
突然、香里奈は机を両手で強く叩きながら立ち上がった。
「動画を出すのであるなら最低限は誰かにその動画を見せているという事を忘れてはダメという事よ!! UTubeに動画を上げている以上は、例えアイドル系UTuberでなくても、少なくともその動画を観てくれているファンの人達に喜ばれる様なキャラを演じながらやるのが一番じゃない?」
「なるほどね…… それは香里奈の言う通りだな。ただ単にカメラを持って人を撮影しているだけだったら、それはUTuberではなくてただのホームムービーになってしまうよね。最低限UTuberを名乗るなら、最低限の作りぐらいはやらないとダメだよね」
「そう思うなら、なぜ演じる事が出来ないのよ!? 出来ないのは、今のあんた達がファンサービスを志す意思がないからよ!!」
香里奈が熱く語る内容は充分に理解出来るが、それとは別に、今のフェイカーズはなれないアイドルを難しくも頑張って演じているだけであって、決して香里奈の言うファンサービスを志す意思がないのとは違う!!
「せっかくだから、今から私が特別に今後のアイドル活動にも活かせる演技力の指導をやってあげるわ」
「えぇ!? お前の指導なんていらないよ」
「私だって好きであんた達になんか演技指導なんてやらないわよ。ただ、上手く出来ない事にはイベントに来てくれたファンの人達には凄く失礼でしょ。私はあんた達の為ではなくて私自身のファンの為にやるんだからね」
そう言いながら、古都が渋々と反対をするにも拘らず、香里奈は自分のファンの為だと言い切りながら、この日の部活の活動を演技練習と勝手に決めてしまった。
その後、香里奈の指導の元、急遽、今後の動画内でのキャラ作りに活かす為の演技力の特訓が始まった。
「じゃあ、まずはキョウと美沙から演技をやってみて」
「えっ!? ボクが?」
「なんで私が!?」
突然、香里奈から名を呼ばれ、身体中に電気が通ったの様にビッと来た。
「演技をやれって、一体何をやるんだよ?」
「そうねぇ…… ここは壁ドンの告白の演技をやってもらおうかしら?」
壁ドンで告白!? ちょっと待て!! さすがに演技でもこればかりは!!
「ちょっとなんで私達がこんな事をやらないといけないのよ!!」
「そうだよ、もっと別の演技でもいいだろ!?」
「演技の練習なんだから、細かい事は気にしないの。いろんな場面を演じれる事が出来れば、動画作りの幅も広がるでしょ!!」
「だからって、これとアイドルとは関係ないと思うわ」
「つべこべ言い訳をしないの。ホラッ、サッサと配置につくの」
そう言いながら香里奈は、キョウと美沙を指定の配置につかせた。
「お前達の迫真の演技をしっかりと見届けてやるからな」
「2人共頑張ってね!!」
全く、香里奈のヤツ、絶対にただ自分が面白いモノを見たいと思ってやらせているだけに違いがない。香里奈だけでなく、古都も優も香里奈と同じ気持ちで見ているかも知れない。今はただそう思うばかりであった。
そして、香里奈の指示の元、美沙は壁側にキョウはその対面側に立つ事になった。つまり、キョウが美沙に対し壁ドンで告白をやるというシチュエーションになるという事に。告白される側でも凄く緊張をするというのに、まさかの告白をやる側になるとは思ってもいなかった。そんな事を考えている矢先にも、早速演技は始まった。
「おっ、おっ、おっ…… お前の事がっ、がっ、すっ、すっ、きだぁ……」
例え演技とは言え、このセリフを言うのはホント凄く恥ずかしい…… 美沙を目の前にして、こんなセリフが言えるか!! そのせいで、キョウは緊張のあまり、ガクガクとした硬い喋り方でセリフを言った後、美沙が持たれていた壁に強く手を当てた。
「えっ!? えっ? …… ふぁあ!!」
目の前にいた美沙もまた、キョウの顔を見ながら凄く恥ずかしそうに顔を真っ赤に照らしていた。まぁ、突然、演技でも好きとか言われたら、誰だって顔を赤く恥ずかしくなるよね……
こんな感じで凄く硬い演技を行ったのであった。
「はいっ、カット!! 全く、キョウの演技は全くダメね。完全に棒読み。この演技ではファンの心はつかめないわよ。逆に美沙の演技は良かったわよ。本当に恥かしそうに緊張が出来るなんて。セリフが残念だったけど」
そんな棒読みの様に硬い演技に見かねた香里奈が、突然演技を止めに入った。
「ファンの心を掴めないって、こんな演技をまともに出来るかよ!!」
「出来ないってのは言い訳よ。本物のアイドルを目指すなら、どんなシチュエーションでも出来る様にこなしてみなさい!!」
香里奈は人差し指をキョウの方に向け熱く語るが、別にアイドルは目指していないんだよね。ただ、コラボでの映画の為に一時アイドルを演じているだけなんだから。
「どんなシチュエーションもね…… だったら、一度手本を見せてよ」
「そうよ、手本を見せなさいよ」
「そうね、別に手本を見せてあげても良いわ。本物の芸能界でも通じるであろう私の迫真の演技力を見せてあげるわ!!」
ほんの軽い気持ちで香里奈に手本を見せる様に言ってみたら、意外にも香里奈はすんなりと自身の演技力を見せると自信満々に答えた。
そして、香里奈の自信満々な演技力を見る為、キョウと入れ替わり、今度は香里奈と美沙が演技を行う事になった。
「今から、私と美沙でさっきと同じ演技を行うから、あんた達はしっかりと目に焼き付けておきなさい!!」
「わかった」
「がんばってね」
「今度も面白いのを期待してるよ」
演技指導の実演が始まる前の香里奈の一言に、それを見ていたキョウと優と古都は元気よく返事を返した。2人がどんな演技を見せるのか、優と古都と一緒に楽しみながら見守る事にした。
「それじゃあ、私達の迫真の演技を見せつけてあげるわよ、ウサミサピョン大先生!!」
「ウサ?」
「ミサ?」
「ピョン!?」
突然、香里奈の口からどこかで聞いた事がある様なそうでもない様な変わったニックネームが出てきた。ウサミサピョンって、まさか美沙の別ニックネームなのか?
そう思いながら、香里奈と美沙の様子を見てみると、どうも香里奈は取り返しのつかない禁句を言ってしまったみたいに見えた。
「し~きぃ~がぁ~みぃ~さぁ~ん…… その名前を人前で言わないでって言ったわよね?」
「あぁ!! つい、思っていた事を言ってしまった!! でも、別に良いじゃない。事実なんだから」
「事実だからって、言って良い事と悪い事があるでしょ? そんな事も分からないのかしら?」
明らかに美沙にとっては言われたくないニックネームであったのだろう。その証拠に、美沙は凄く怒った様子で香里奈の方をジッと見ていた。
「別に良いじゃない!! アイドルなら、細かい事は気にしないの!! それに今は演技中よ!!」
「そう、演技だったわね…… ちょうどいいわ。同時に悪い子のお仕置きもやらなくちゃ……」
「えっ、えっ!?」
「悪い子には、どんなお仕置きをしてあげようかしら?」
そう言いながら美沙は、香里奈を壁側に追い込み、完全に先程とは立場が逆転した状態で、香里奈の頭部の隣の壁に右手を付けた。その時の美沙の顔は完全に獲物を仕留めようとしているセクシーな女豹のようであり、それを真近で見ている香里奈は、今にも肉食獣に襲われる小動物の様に怯えていた。
「すっ、凄い演技力!!」
「それこそが、まさに迫真の演技だよ!!」
香里奈と美沙の様子を見ている優と古都も、あまりの迫真さから目が離せない状態でいた。本当にこれは演技なのか? なんだか演技ではない気がする。
「この口がいけないのかしら? 悪い事を言う口は、閉じておかないとダメよ……」
「ふがっ!?」
美沙の左手の人差し指と中指が香里奈の唇に止まると、香里奈は驚きながら目を丸くした。
「口で言っても聞かないのなら、身体で覚えさせてあげようかしら? どんな事をされて欲しいの?」
「ちっ、ちょっと!! ボタンを外さないでよ!! アイドルだって本当に好きな人に初めてを捧げたいのだから!! 誰か助けてぇ~!!」
すると、その直後に、美沙は左手で香里奈の制服のリボンのヒモを緩め、ボタンを外し始めた。さすがにこれは少しばかり過激ではないか!? これ以上は見てはいけない気がしてきた。
「すっ、凄い過激!!」
「わぁ!! これ以上はダメだ!! キョウはこれ以上見るな!!」
「わぁっ!?」
香里奈と美沙の迫真の演技が、あまりにも過激さを増して来た為、古都が後ろからキョウの両目を防ぎに来た。
ここからは、古都によって両目を塞がれてしまった為に、続きは見る事が出来ないが、声を聞く限り、凄く過激な内容の様にも感じる。
壁ドンの告白ではなくなったが、これはこれで凄い迫真の演技だな。って、明らかに演技ではないだろ。
こんな感じで、本日の部活動は終了してしまった。
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