拾文目 別れは桜吹雪と共に

 翔太に別れを告げてから、二週間程過ぎた頃。夜も遅かったので、僕は昼頃までぐっすりと寝ていた。

「ねーちゃん、起きてー」

「ん…… どうしたの?」

 寝ぼけながら、揺すられてる身体を起こす。

「彼氏さんが来てるわよ」

「えっ?」

 母さんの口から出てきた言葉に、耳を疑った。何で今頃、翔太が来たのか。急いで服を着替え、僕はリビングに降りた。

「おはよう」

 そこには、椅子に座ってる翔太の姿があった。

「何でいるの」

 顔をしかめながら、彼に向かってそう言う。

「その…… 今まで来れなかったし」

「少し、外で話をしようか」

 僕は彼の腕を引きながら、家の外に出る。向かう場所はわからない。だが、親に聞かれて色々と言われるよりは、二人で話した方がよかった。近くの公園まで歩いて、そこにあったベンチに腰かける。桜が既に開花していて、花弁が舞っていた。

「今更、何しに来たの?」

「一目、会いたくて……」

「今まで来なかったくせに」

「ごめん……」

 そう呟き、翔太は俯いた。謝るくらいなら、始めから動いていれば良かったのに。

「そう言って、仕事も探さないで僕に奢られてばかりだったよね? 離れていかないと思った?」

「……」

「黙ってないで、何か言えば?」

「……もう一度、チャンスが欲しい。今度は、仕事も探すから」

「どれだけ待ったと思ってるの? あなたは、僕に完全に見捨てられたの」

 いまだにチャンスがあると思ってる翔太に、僕の答えを突きつける。酷く冷たい答えを。だが、彼はいまだに理解してないような顔をしている。

「どこが駄目だったかな…… ちゃんと直していくからさ……」

「そうやって理解しようとせずに、現実から逃げるところよ。わかったら、僕は帰る。明日も大変だから」

 そう言って立ち上がり、着た道を帰ろうとする。だが、腕を捕まれて進めなくなる。

「ま、待って! お願い、もう少し……」

「いい加減にして!」

 腕を振り払い、そのままの勢いで平手打ちをする。乾いた音がして、衝撃が僕にも伝わる。

「どう、して……」

 頬を押さえながら、翔太が呆然とした顔で僕を見る。その顔を睨み付けながら「帰って!」と、僕は告げた。

「そんな…… 折角、久しぶりに会えたのに……」

「もう、僕は会いたくなんかなかった」

「嘘でしょ…… まだ、俺のこと好きだよね? 真琴さん、答えて?」

 どれだけの馬鹿なら、こんなことを聞くのだろう。内心、怒りを通り越して呆れを募らせながら、今まで明確にしなかった言葉を伝えるために口を開く。酷く鋭い刃のような言葉を、桜吹雪と共に告げる。


「川瀬翔太さん、私はあなたが大嫌いです」

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