第67話 シロVSガレイン
「来なさい、ルシフ」
シロは指に挟んだ一枚の札で空をはたき一羽の孔雀を召喚した。七聖獣の筆頭、ルシファーである。彼は現れるとすぐに
「七聖獣が筆頭、ルシファー、ただいま参上
「ごきげんようルシフ。早速だけど結界をふたつお願い。ひとつはこの周囲にこれから人が入り込まない様に広域な物を。もうひとつは後ろの友人達を守るための狭域な物」
「御意」
ルシファーは鮮やかな翼をバサリと大きく広げた。力を使う時の癖だ。
「……完了しました」
「ありがとう。おばあ様も早く後ろの結界の中に……」
「あたしゃ大丈夫だよ。自分の身は自分で守れる」
「そう……それじゃルシフ、私の援護、お願いね!」
言い残しシロは飛び立った。上空に浮かぶガレインを目指し風を切っていく。
「ウォーブル!」
突風を彼目がけて放つ。しかしガレインは飛ばされない様に翼で身を守りあっさりと防いだ。だが狙いは攻撃ではない。視界を奪う事だ。
「ベリアルフ!」
彼の目が翼で塞がっている間に次の魔術を唱える。両手に火の玉を作り、右、左……そしてもう一度右手で、計三発を投げ付けた。この間にも彼女はガレインにぐんと近付いていく。
「ウォーブル」
先の突風に耐えた彼は翼を開いて視界を確保すると、シロが使った物と同じ術で襲い来る炎を吹き消した。シロは軌道を少し変えてそれを避け、彼の目の前に迫ると腕をその顔にかざした。
「プロシオネクス!」
「!」
直後小さな爆発が起こる。反動でシロは後ろに吹き飛ばされた。
「うぐっ! ……ルシフ!」
「御意!」
合図を聞き取ったルシフはすぐに彼女の軌道上に薄い透明の板の様な結界を生成する。それを確認するとシロは体勢を整え、結界を踏み台にして加速しながら再びガレインに向かっていった。
「ぬおおっ!」
近接での体術戦が始まった。
「……あの娘……張り切っちゃってんなあ……」
戦いの様子をイヴは地上で腕組みをしながら見ていた。
「あんなゼロ距離で
「今の、あいつ自身も負傷したんじゃねーのか!?」
後ろの結界の中から不安混じりのクロの声が聞こえてきた。
「してるね、少し。ま、頭のいい娘だからちゃんと自分にとって出来るだけ最小限の反動になる様に、かつあのおっさんにとって出来るだけ大きなダメージを与えられる様に、計算はしたと思うんだけど」
「シ、シエルさん、凄いね……あんな風なの見た事無いよ……」
クロの隣で薫が少し怯えた様な声を出した。確かに彼の言う通り、やや荒っぽい戦い方をしている。
「それだけあの娘は必死になってるんだよ……この街のためにね」
「……っくしょー……! 俺も動ければ加勢出来んのに……! てかババア! お前見てないで手伝えよ!」
「あーあーおばあ様はもう年だからねー」
「まだスネてんのかよ! んな事言ってる場合じゃ……!」
「……ま、もう少しあの娘のやりたい様にやらせてあげてもいいじゃないか」
その時シロが空中から
「シロ!」
「大丈夫かい?」
直後、ごおと低い音と共に物凄い熱が走って来るのをイヴは感じた。
「ん……? うにゃ~~~~~~~っ!?」
続々と降りかかる巨大な火の玉。彼女らを燃やし尽くそうととどまる事無く落下してくる。
「ひぇ~~~~~~っ!!」
間一髪のところで彼女は魔術で盾を張り防いだ。火球攻撃は三十秒ほど続き、収まった頃には道路が砕かれ、オフィスビルの一部は決壊し、辺りにはコンクリートの焦げた臭いが漂っていた。クロ達はルシフの結界に守られ無傷であったが、街が損害を被ってしまった。
「す……凄いんだね、ルシフさんの結界……見えないけど、透明な膜みたいなので守られてるんだ……クロノ君のあの刀みたいだね」
変わってしまった街の景色を見ながら薫が安堵と不安のどちらも混じった様な声でクロに言った。
「その通りです。私の結界は魔界随一の防御力を誇ります。ゆえに守れない物はありません」
ルシフが得意気に返した。
「自信家だな、あいつ」
「ただの傲慢よ、クロちゃん」
クロの言葉にアスモが答えた。
「耐えたか……さすが七聖獣……といった所か」
空中でガレインが口を開いた時、シロがゆっくりと立ち上がった。彼女もルシフの結界によって火球からは守られていた。
「……そして、やはり立つか……王女よ。さっきの爆発は正直驚いたぞ。まさかあんな捨て身の様な攻撃を仕掛けてくるとは思わなかった」
「それは……どうも」
「近接戦闘は無理だよシロ、体格差があり過ぎる。単純に力の差もね」
「そう……だね。ねえおばあ様、ちょっとだけ手伝ってくれない?」
「……何すればいい訳?」
「おばあ様も王家なら……あの術は使えるでしょ? ……今夜は綺麗な半月だね」
「……それで?」
「私があの人の相手をするから、その間におばあ様にはこの道路に魔法陣を作って欲しいの」
「スケールは?」
「出来るだけ大きく」
「……わかったけど、結構時間かかるよ」
「大丈夫。あの人にも手伝ってもらうから」
「は?」
「あの人お馬鹿さんだから、多分簡単だよ」
「……なるほどねえ」
イヴはシロが何を企んでいるのか見当が付き、にやりと笑った。
「あんたが人を馬鹿にするなんて、珍しいねえ」
「私はただ、悪い人が嫌いなだけです……一応これを渡しておくね」
そう言ってシロは召喚札を一枚彼女に手渡す。
「じゃあ、行くね……アトルフ!」
路上に転がっていたコンクリートの塊を五、六個浮かせると、それらを自分の後ろに付いて来させながら彼女はまた上空へと飛んだ。
「エヴォッシュ!」
そのままコンクリート片を弾丸にして飛ばす。だが単純に真正面から撃ったためにガレインは簡単に避けてしまった。
「つまらん。ただ石ころを投げてくるだけなど……」
「ルシフ! 『おはじき』!」
「御意!」
「! ごふうっ!?」
しかし数秒後、かわしたはずのコンクリートがガレインの背後から速度を増して戻って来た。彼はそれに気付く事が出来ず、弾は見事に命中した。
「まだまだいくわよ!」
シロは残りのコンクリート片を続け
「ぐっ!」
攻撃はこれで終わりではない。先ほどと同じ様に、避けたコンクリートが次々とガレイン目がけて戻ってくる。何度かわしても、その攻撃は止む気配が無い。
「……! ちょこざいなあっ!」
いつの間にか彼を中心とした360度全方向に小さな盾が張られていた。コンクリートはその盾を跳ね何度も何度も彼の元へ弾き返されてくるのだ。
これがシロが合図した「おはじき」だ。ルシフは様々な種類の結界を作れる。これは表面がやや
「ぬうう……! ブライオンヴィットッ!」
ガレインが弾を避け次の弾が来るまでのわずかな瞬間に両腕を大きく広げた。空気が振動し、飛び交うコンクリート片と彼を囲む結界はひとつ、またひとつと破壊されていく。その隙に……。
「ルシフ! 階段!」
「御意!」
空中に小さなプレートの盾が階段状に上へ上へと作られていく。シロは右肘を曲げ、唸りながらそれを駆け上がった。
「はああああああああっ!」
拳に力を込め、ブレない様にしっかりと左手でそれを支えた。
「ウォレップッ!!」
急に右腕がずしんと重くなる。筋肉がみしりと音を立てるのがわかる。力を強化する術だ。そのままガレインへと迫り……。
「んんんんんんんんんんっ…………………………んんんしょっっとっ!!!」
鉛の様な腕を彼の上体の中心に打ち込んだ。防御が間に合わなかった彼はそのまま突き飛ばされ、ビルの壁を破壊し中へと滑り込んでいった。
「はあ……はあ……はあ……!」
シロは肩で息をしていた。無理矢理力を上げた分、体には相当の負担がかかっていた。ましてやまだたった13才の幼い肉体。中級の術だが一度使えばこの
やがてぽっかりと空いた穴からガレインが姿を見せる。
「……この小娘があ!」
その叫び声からは確かに怒りが感じ取れた。
「……俺様は! 最強なのだ! 最恐なのだ! 『あの魔導士』をも超える力を持った! 現代に蘇った魔導士! ガレイン様だ! ちょこちょこと豆粒みたいな小さな体で動き回りおって……!」
頭に血が上っているのならシロにとっては好都合だ。扱いやすくなる。
「だったらその豆粒みたいな……ま、豆粒……?」
しかし言葉を返そうとした彼女は自分で言いながらふるふると身を震わせた。
「……ま、豆粒って何だー! ちゃんと毎朝牛乳飲んでるもん! 私だって頑張ってるんだから! す、すぐに150
……おいおい……地上でイヴは呆れていた。あんたまで頭に血を上らせてどうすんのよ。
「だ、大体何で毎朝お父様の言いつけ通りにきちんと牛乳を飲んでるのに、少しも背が伸びないのよ! しかも最近は何だかちょっとだけ……ほんとちょっとだけ二の腕が何かほんとに……って、もう! 何て事言わせるの! セクハラ!」
「いや、全部貴様が自分から言ったから。俺様悪くないから」
「……そんなに悔しかったらこの
「いや、大きいって字が含まれてるけどそれでも豆だから」
今度はイヴがツッコんだ。
「む~~~~~~~~~……! とにかく、捕まえてごらんなさいなおじさん!」
シロは膨れっ面で続けた。
「お……おじさん……だと……?」
「いいえ違うわね! おじいさん! 1000年も生きてるんだったらもう立派なおじいさんね!」
「おいぃ! それあたしにも喧嘩売ってんだろーっ!」
「……ぴくぴく……! この、この、この小娘がああああああっ! うがあああああっ!」
ガレインは怒りに身を任せ、床を蹴って勢いよく空へ飛び出した。
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