第24話 星に願いを(黒)
日が沈んでしばらくが経ち、夜はどんどん更けていく。闇が深くなるほどに少女の心は高揚していった。
今夜は数十年ぶりに流星群が観測される。時刻は十一時過ぎとちょっと遅い時間帯だが、運のいい事に今日は金曜日。いつもよりも夜更かししても問題はないのだ。
さらに、今日は七月七日。一年に一度、この日にだけ会う事が許されるという男女の伝承がこの世界、この国にはあるそうだ。そんな特別な日に訪れる流星群。きっと天もふたりを祝福しているのだとテレビの中で騒いでいた。
この話を聞いた時はシロもときめいた。好きな人に一年に一度しか会う事が出来ないというのは、一体どんな気持ちなのだろう。きっと想像もつかないほど悲しいに違いない。私がもし同じ立場だったら、一年に一回しかクロと会う事が出来なかったら……駄目だ、考えたくない。
何てロマンチックなの。
「早く早く!」
もう少しで観測時刻が訪れる。シロはばたばたと外に出る準備を始めた。
「そんなに焦るなよ。まだ10分もあるだろ」
一方クロは対照的に、まだのんびりとしている。
「そんな事言って間に合わなかったら怒るよ!」
「……ったく……」
シロの剣幕に圧された彼の準備が整うと、ふたりは外に出て共に翼を広げ、ぐんと上昇し屋上へと向かった。ロイヤルハイム浅川では最上階から非常階段を上ってしか屋上に行く事が出来ないが、その入口には鍵がかかっているため管理人や関係者しか立ち入れない。したがって、今この屋上はシロとクロのふたりだけの空間となっていた。
「うわ~~~~~街がきれいだね!」
そこには360度のパノラマが広がっていた。遠くに見える街の灯り。その只中にいると何も感じないが、こうして離れた場所から見てみると闇の中にある無数の煌めきは魅力的に見えた。
「んじゃやるか」
クロは手に提げていたビニール袋から缶ジュースを取り出す。
「ほらよ、オレンジ」
シロは差し出されたオレンジジュースを受け取った。冷たくて気持ちいい。クロはグレープジュースを手に取る。プシッとふたりしてプルタブを開けると、小さく乾杯をしてごくりと一口飲む。大人の真似事だ。
夜景はとても美しかった。景観や自然に対してあまり関心を示さないクロも珍しく、確かにきれいだな、と言った。あなたがいるからだよ。ひとりじゃきっと、この景色は見れない。
するとシロは彼が彼女の顔をじっと見ている事に気付いた。
「なっ、何……!? な、何か付いてる?」
恥ずかしい。薄暗くてよかった。
「……いや……ちょっと……お!」
彼は何かを言いかけたが、突如空に目を留めた。
「……始まったな」
「え!?」
彼女も慌てて仰ぎ見る。幾多の星々が夜空に軌跡を描いていた。この街に、この
「……」
言葉が出なかった。息が詰まりそうなほどに少女は空に見入っていた。
「……凄いね」
やっとの思いで出た言葉がこれだった。言い表すのが難しい。本当に凄い物を見た時は凄いねとしか言えないんだ。
「……ああ」
クロも夢中になって見ていた。缶にはずっと口が付けられていない。
「……魔界ではね、流れ星を見ると次の日いい事が起こるって言われてるの」
シロは空から目を逸らさずに言った。
「1000年前、流れ星が現れた次の日にね、天使と悪魔の戦いが終わったんだって。だから」
「へー……どこでも同じような事言ってんだな」
クロの言い方から天界でも同じような言い伝えがありそうな様子が窺えた。どの世界の人々も宇宙の彼方にある星というものには何か特別な思いを抱いているのだ。
そこでシロははっとした。魔界でも境界でも、流れ星に願い事をすれば叶えてくれると言われている事を思い出したからだ。しかも今日は七夕。短冊には書いていないけど、流れ星+七夕の力で願い事が叶う確率が二倍になるんじゃないのかな……! 少女は隣に立つ彼をちらりと見てから強く祈った。どうかこの思いが伝わり……ううん。
この思いを伝えられますように、と。
星々の競演はしばらくの間続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます