●10日目 02 朝『白いメシを食おう1』
ガリっ。
「うっ」
栗松に差し出された微妙に茶色い米を口の中で噛み締めた途端、沙希の顔がひきつった。柔らかい米粒の中に何か硬い芯のようなものがあり、噛むたびにゴリゴリ米を食べているとは思えない感覚になる。
秋空の裏庭、目の前には即席で作られた火おこし場、その上にはでかい鍋、中にはホカホカになっている白米があるのだが、
「見た目は上手く行ったと思ったんだけどこれじゃやっぱり……無理?」
困り顔の栗原。沙希はうなりながら、
「非常時だし、食えるなら贅沢言わせるつもりはないけどさすがにこれはちょっとむずかしいわね。変なものを食べて腹を壊す生徒が続出したら体制が機能麻痺を起こす可能性もあるし」
「でもやっぱり火と鍋でたくさんのお米を炊くのは難しいかも……」
自信なさげな栗原に沙希も頭を抱える。
目下の最大の問題はやはり食糧でここ一週間は手のかからないインスタントラーメンなどを中心にスーパーから確保していた。しかし、校内には200人近い生徒がいるため、あっという間に在庫が枯渇しているという報告を受けていた。
一方でスーパー店内にはやたらと米があることが判明していた。沙希もこんなことになる前日にスーパーに立ち寄っていたが、新米入荷セールとか言って店頭などに10kg袋の米が山積みになっていたのを覚えている。裏のバックヤードにも相当積み上がっているらしい。ざっと数えた限りでは1ヶ月は持たせられる量だとか。
これを上手く食べられるものにできれば食糧問題の大部分は解決する。しかし、ガスが止まり火をおこして鍋で米を炊く技術を持っている生徒は残念ながらいなかった。少量ならサバイバル本でも入手して参考にすればなんとかなったかもしれないが、なんせ最大で200人近いものを炊く必要があるとなるとそれ相応の技術と経験が必要だろう。
おまけに火を焚くための燃料の問題もある。何度も挑戦して失敗作を作り続ける余裕もない。
「電気があればなぁ……」
いつも通りに街中に張り巡らされているを恨めしそうに見つめる沙希。
ふとここで梶原が少し何かを思い出すような仕草をしてから、
「近くにホームセンターがあっただろ。あそこに自家発電機が売ってなかったか?」
「うっ」
その言葉にひらめきより先にトラウマが蘇る。光沢も頷いて、
「あそこなら確かに色々売ってそうですね。しかし自家発電機とは盲点でした。よく思いつきましたね」
「思い出したんだよ。あいつが昔『街の中がゾンビだらけになったときゲーム』とかいってホームセンターに乗り込んでな。いろいろ物資があるからとか言って必要なものを物色したり身を隠せそうなところを探したり他の客をゾンビ扱いして避けるルートを探したりしていたんだ。あんまり騒いだせいですぐに店員に怒られて追い出されたが――っ」
「だからやめろっつってんだろ!」
履いていた靴を梶原に投げつけておいた。
そうだった。悪ガキ時代にやっていた忘れていたことのひとつを完全に思い出してしまった。梶原を連れてホームセンター内をのっしのっしと歩く。ペットボトルを無線機に見立てて梶原と通信ごっこまでしていた。
「痛い痛い痛い痛い痛い……」
頭を抱えてしゃがみ込む沙希に、栗松が驚いて、
「あ、あのどうしたんです?」
「いつもの発作ですよ。大丈夫です、すぐに収まります」
肩をすくめる光沢。
しばらく唸っていた沙希だったがようやくトラウマ発作も沈静化してきたので再度考えをまとめる。
「自家発電機があれば、電気が使える。あそこのホームセンターには炊飯器もあったから10台ぐらいかっぱらってくれば、一度にかなりの人数分の米が炊けるはず。そもそも電気があればパソコンとか通信機器とかも使える……」
これはいけるかもしれない。梶原と光沢、栗松も頷いた。
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