2-1
「戻りやしたー」
イナバは疲れを隠すつもりもなくアルミの扉を開けながらそう言った。
どれくらい走り回っただろうか。アズサがススキノ駅に着いたのはまだ日が沈んで間もないころだったはずだが、今はもう夜中と呼べる時間帯だ。ススキノ中を走り回り、ようやく直線距離なら歩いて数分のこの魔術統治局ススキノ駐在所に辿り着いた。
他の地域の、いわゆる交番のようにいかにもな建物ではなく、ススキノ駐在所にはどこにでもある雑居ビルの2階しか与えられていない。イナバ曰く、目立たないくらいでちょうどいい、とのこと。
簡素なアルミ扉の向こうには二枚目の扉。冬季の防寒用だろう。
扉は閉じられており、返事が返ってくる様子はない。イナバも返事を待っているわけではないようで、二枚目の扉を開けて進んでいく。
アズサもアルミ扉を閉めてイナバの後を追うと、二枚目の扉の向こうからいびきが聞こえてきた。どうやら誰かが寝ているようだ
二枚目の引き戸の扉の向こうは、一応、応接室、兼、待機室、のような感じだろうか。寝ている人がいるためか灯りがなく、目を凝らして何とか部屋の全様を掴む。室内には大きめのソファが二脚。向かい合うように置かれたその間ローテーブルが備えられている。壁際にはテレビのようなものがうっすらと見える。
――うわぁ……。
アズサは自分が酷く嫌そうな顔をしているのがわかった。だがこれは常識的に考えて、そういう顔をするのが適切だとアズサは開きなおる。
部屋の間取りだとかそんなこと以前に、その部屋にはゴミが多すぎた。テーブル、ソファ、テレビ台に至るまで、どこにでもゴミが目に入る。
紙屑や食べ残し飲み残しはもちろん、ゴミの詰まったビニール袋も多数見える。この情報化社会によくもまあこれほどのゴミを溜めこめるものだと感心しそうになってしまう。その上部屋中に無数の衣服が脱ぎ捨ててあるのか、洗濯物を畳まずに放置してあるのか、はたまた処分してよいゴミなのか、とにもかくにもゴミと見分けがつかない。
当然床など足の踏み場があるはずもなく。そんな道なき道を、イナバは当然のように強引に突き進んでいく。
「おかえりんさい」
その声は部屋のさらに奥から聞こえた。どうやらこの待機所兼客室の向こうにもう一部屋あるようで、イナバはその部屋に向かっているようだった。アズサもイナバの後に続き、道なき道を突き進む。
「遅かったわね」
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