第1話
入学式から数週間が過ぎ、授業が本格的に始まり出した頃。
それくらい過ぎれば緊張というものがなくなり、寝る人が多くなる。もちろん、俺も寝ている。
しかし、それも束の間、
「おい!寝てないで答えろ!秋庭!」
国語の教師の大きな声により、俺の安眠を妨げられた。
眠い目を擦りながら顔を上げ、黒板を見る。
そこには、「薄氷」と書かれていた。
どうやらこの漢字を読めということなのだろう。
「はくひょう」
と俺は答え、席について惰眠を貪ろうとした。が、しかし
「ほかの読み方は?」
そう聞いてきた。
どうしても寝かさない気らしい。ただ俺は昔から本を読んでるだけあってか漢字と読解、つまり国語は得意なのだ。
「うすごおりとうすらい」
平然と俺はそう答えた。
周りでは不審の声が聞こえる。普段はこれを「うすらい」とは読まないからであろう。
現に俺も書籍の中でしか見た事もないのだ。
しかし、教師だけは違った。まさか読めるとは思っていなかったらしい。苦虫をつぶしたかのような顔をしていた。
そして俺はそんな教師を傍目に眠りに落ちた。
4限が終わり、昼休憩。
皆はそれぞれの固まったグループで昼食をとっていた。
俺はひとりだ。
本を読みながらサンドイッチをかじる。
学校が正式に始まってからクラスの本好きと話したが、やはり趣味が合わなかった。
やはり、というのは中学生の時も同じような事があり、少し肩身が狭かったからだ。
俺は基本的には何でも読むが外国人作家の本の方が好きだ。日本だけの価値観や感じ方に囚われずに外の世界を見れるからだ。
それに、翻訳者によっても文が違っている。それもまた一つの醍醐味だと思っていたりする。
しかし、クラスでは小説だが「ライトノベル」と言われる若者向けの本しか読まないらしく、俺が過去に読んできた本と一つも掠らなかった。
それ故に俺は今、ぼっちという訳では無いのだがそれに近い形になっている。
別にいじめられているわけでもないし、無視されている訳でもない。挨拶をしてもちゃんと帰ってくるのだからあまり気にしていない。
だが
(参ったな…この本すごく気に入ったから皆に読んでもらおうと思ったのに)
俺は人と感想を言い合うのが好きだ。
自分だけ読んで、はい終了とすると、どうしても自分の中にある固定観念に囚われて同じ感想しか出て来なくなる。
しかし、他人にも読んでもらい自分とは違うとり方や意見などを聞くと新しい発見が生まれ、自分の世界がまた少し広がった気がする。
その感覚が俺は結構気に入ってる。
が、このクラスではその感覚が得られそうにない。
俺は食べたものを片付け、机から普段よりも分厚い本を開く。
今読んでいるのは少し古い外国人作家の本だ。
栞を挟んでいるページを開け、静かに自分の世界に落ちた。
そして、終礼。
佐々木先生が明日は職員会議があるから早く帰れると言う主旨の話をして終わった。
カバンの中にファイルと参考書、本を忘れずに入れて、席を立つ。
その時俺は今日のホームルームで委員長になったクラスの女子が目に入った。
普段なら気にもとめずに無視して帰るのだが今日は無視出来なかった。
なぜならその女子の机の中から俺が昔読んだ本が出てきたのだから。
思うより先に体が動いた。
体の底から来る衝動が止められない。
「なぁ、委員長。その本…面白いだろ?」
咄嗟に出た言葉がこれだった。
心臓がバクバクと激しいリズムを刻みながら俺は肯定と言う理想の返事を待つ。
すると、委員長が頷く。
うん!と元気な肯定の返事とともに。
その時に今までジメジメと曇っていた天気が晴れて綺麗な赤色の光が彼女の濡れ羽色の髪に当たり、幻想的な風景を作り上げていた。
最期の告白を ファウスト @Faust777
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