36 視・殺・戦 サプライズ
俺が生徒会長選挙に立候補するという噂が学校内を駆け巡った、らしい。
ボッチなので知る由もないのだが、学校生徒のSNSグループでは有る事無い事書かれていると
詳しくは聞かなかったが、なにを言おうと好きにすりゃいい。
あいつらが
「とりまアンケート作ってきた」
昼休み。
俺と男衾、和の三人は図書室に集まっていた。
「お、サンキュー。あとで目通しとくわ。俺のほうでも文系部のチェックリストを作ってきたから、これ使ってくれ」
男衾とプリントを交換する。
「それとお前、推薦人として署名してくれないか?」
「かまわんが、応援演説は面倒だな」
「文面は俺が考えるから、お前はそれを読み上げてくれりゃ十分だ」
「おk」
「和はどうだった?」
「はい──。母もながらで聞いていたので詳しいことはわからなかったですけど、兄は体育会系・運動部系の代表として頼まれたみたいです」
「やっぱりそうか」
「それとサッカー部の活動なんですけど、入部費とユニフォームやスパイクのような用具以外でも、かなりお金がかかるみたいです。母はなにも言わないですし私も関心がなかったので知りませんでしたが、学校からの部費だけでは足りないみたいで、父母会費や寄付のお願いをするプリントが家にありました」
「金額とか分かるか?」
「ええと……」
和がスマホを取り出してメモを読み上げる。
「父母会費が毎月5000円、寄付が一口2000円──試合遠征用のマイクロバスや大会参加費用に使われるみたいです。同じようなプリントが何枚もありましたから、たびたび募集しているのだと思います」
種目によるだろうが、運動系の部活って用具だけでかなりの金額になるはずだ。
思い返せば大きな部活はユニフォームだけじゃなくて、スポーツバッグですら学校とクラブの名前が入ったものをみんな使っている。
そういった個人の出費とはべつに、さらに年間で6万円以上を徴収しているということか……。
いくら私立といっても、多すぎないか?
それとも、そんなものなのか?
俺の家だったら絶対無理だ。
練習でバイトする時間もないだろうし、裕福な家でも兄弟がいたりしたら、その金が払えなくて入部を諦める生徒だっているかもしれない。
サッカー部の部員の正確な数はまだ調べていないが、最低でも50人はいるだろう。
つまりそれだけで300万円。
うちの学校じゃサッカー部が一番実績があるだろうから、学校からの部費支給も多いに違いない。
合わせれば数百万円になる。
その大金はいったい誰が管理しているんだ?
そしてそれを学校側がどこまで把握しているのか。他の運動部も同じようなものなのか。
「寄付まで募るってことは、もしかしたら会計報告みたいなのもプリントで配られてないか?」
「それは見なかったです。父母会の集まりを報せるプリントがあったので、そのときに配られるのでしょうか? 私の母は仕事で遅いので、たぶんそういう集まりには出ていないと思いますし……。お金のことなので母がどこかにしまっているのか、それとも兄が渡していないのかもしれません」
「それ、探してみてくれないか?」
「わかりました」
校則で部費について書かれているのは、生徒会が学校側と全体予算を決め、それを各部活動に分配するということ。
部活動側は毎年その会計報告を生徒会に行って、実績とともに予算交渉するってことだけだ。
父兄からの支払いや寄付については、なにも書かれていない。
「眉村が生徒会長になれば、体育会系運動部のあいだで部費の融通がかなり効くようになる────って考えは意地が悪いかな?」
「いえ……。兄はあんなふうですけど、キャプテンになるみたいなことは嫌がると思います。好き嫌いが激しいですから、気の合う友達だけと一緒にいたいタイプっていうか」
「まあ、そうだよな」
眉村
いくら人気者だと言っても、サッカー部だけの独占だと他の部から協力が得られないどころか、敵対されかねないので運動部全体で決めた。
生徒会長の
もうすこし裏付けが欲しい。
「……じゃ、メシ食いに行くか」
俺たちは連れだって食堂へ向かう。
和にはあらかじめ弁当を持ってこなくていいと伝えてあった。それで察していたらしい和は何も言わなかったが、表情は硬かった。
食堂に入ると、俺たちに気付いた生徒たちからざわっとした感情がそれぞれのグループに伝染していくのが分かった。
やがてそれが全体へと広がり、意識がある一角に向けられた。
それは眉村尊を中心とするサッカー部と取り巻きの連中がいるテーブルだ。
グループの男女みなが俺たちをじっと見つめてくる。宮原さんもいた。
今にもそこから走り出して、俺に飛びかかりそうな。
眉村の眼は、そんな激しい怒りで満ちていた。
俺は真正面からそれを見返した。
「和、お兄さんにあいさつしてやろうぜ」
俺は和の腕をとると、眉村に向かってひらひらと振って見せた。
和は困ったように笑う。
眉村は瞬きもせずに、じっとそれを見つめている。
宮原さんがなだめるように眉村の肩に手を置いて、きつく俺をにらんだ。
「ほう。日替わりは唐揚げか」
そんな空気をものともせず、男衾は入り口のメニューを見てから、食堂にいた生徒たちが注目する俺と眉村の間を通って、
視線が弾丸とすれば、十字砲火の戦場のど真ん中をふらふら歩いていくようなものだ。
一気に場がしらけた。
あいつの心臓やっぱおかしい。
「俺らも食うか!」
「はい」
「いつも悪いから、今日は俺に奢らせてくれ。なんでも好きなもの頼んでいいぞ!」
「わ、ありがとうございます。……どうしようかな?」
食券販売機の前で和は嬉しそうに笑う。
もしかしたら、あまり使ったことがないのかもしれない。ごく普通のありふれたことを、これから和にはやってほしい。
俺は天ぷらそば、和は月見うどんを頼み、イナリを半分にわけることにした。
「先輩って、あまり食べないですよね」
「そうかー?」
「運動部っていうのもあるでしょうけど、兄も父も私の3倍ぐらい食べます」
「あー、そういう元気な男子のほうがモテるんだろうな」
とくに考えもなく俺は笑った。
すると和が申し訳なさそうな顔をした。
「あの、違うんです。そういう意味じゃなくて、健康とか大丈夫かなって」
「俺、低燃費だからな。それに最近は和が弁当くれるおかげで、かなり調子いいぞ」
「そうですか」
嬉しさを隠すように和が笑う。
その顔が、唐突に変わった。
「先輩……」
「ん?」
食堂がまたざわついていた。
俺が振り返ると、入り口に
「柴田さん、来ます!」
いきなり俺の横にエレクトラが現れた。
「華子さんの
「は? ち、ちょっと待てっ!」
「
世界が暗転した。
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