第42話 虹色騎士団、南へ(前編)

 半壊したドミネイト帝国の城、自室で落ち着きなく往復運動を繰り返すドミネイト13世の姿があった。


「あ~~~っ!!何故儂がこんな目に遭わなければならぬのだ!!」


苛立ちを隠そうともせずテーブルを蹴とばすと、その上に載っていたワインのボトルと、中身が注がれているグラスがカーペットに落ち赤いシミを広げていく。

帝国は数日前の虹色騎士団レインボーナイツとの一件で、シェイドの謀略にかかり領土の大半が壊滅状態に陥っていた。

その後のエターニア王国の介入で帝国の復興が開始されているのだが、それにあたり帝国軍は一時凍結され、ドミネイト皇帝もその指揮権を一時剥奪されていたのだ。

そして彼は自室に押し込められ、半ば軟禁状態に置かれていた。


『…荒れておりますわね、ドミネイト皇帝陛下』


「誰だ!!?」


自分以外誰もいない筈の部屋で女の声がする…部屋中見回しても誰もいない。


「ここですわ…」


天井の板がはずれ、一人の黒ずくめの人影が床へ降り立つ…それは暗殺者装束のリサであった。


「お前は…!!シェイドの手下ではないか!!」


「はい…シェイド様の命であなた様をお迎えに参りました」


リサは片膝を着きドミネイトにかしずく。


「あなた様が帝国領に居て下さって助かりましたわ、もし王国の城内でしたらその張り巡らされた結界で私以外の仲間は立ち入れませんもの…」


淡々と語るリサに反してドミネイトの表情は見る見る怒りを湛えていく…顔色はこれ以上無く真っ赤になり、こめかみには血管が浮き出ていた。


「何が迎えに来ただ!!誰のせいでこんな目に遭っていると思っているのだ!!

儂は行かんぞ!!」


遂に貯め込んでいた物が爆発しリサに向かって怒鳴り散らし始める。

しかしリサは全く動揺していない。


「ではあなた様はこんな所でご自身の野望を終わらせるおつもりなのですか?…あの『征服王』と恐れられたドミネイト皇帝陛下ともあろうお方が…」


「何だと!?」


その言葉に逆に動揺したのはドミネイトの方であった。


「先の一件は虹色騎士団レインボーナイツが介入して来た故の不測の事態だったのです…シェイド様も今度はあの者らを遠ざけた上でじっくり作戦を遂行しようとしておりますわ」


「では儂に対してのシェイドの振る舞いは何だったのだ!?儂に罵詈雑言を浴びせた上に乱雑に放り投げおって!!」


「あれは芝居ですわ…あそこであの様に振舞わなければ我々と帝国が繋がっていると思われ、あなた様は今頃この程度の軟禁では済まなかったのですよ?」


「うっ…」


ドミネイト帝国は国政として侵略行為を長年に亘って行って来た、しかしそれは一国で起こしていたもので、国際問題にはなっていたが世界の存亡に係るものではなかった、あくまで人間の国家間の問題だったのだ。

しかし裏で魔王の眷属と結託していたとなれば話は別だ、そうなれば世界の守護を謳っているエターニア王国としては黙っていられない。

今回はシェイド達の起こした行動で有耶無耶になっているが、本来なら軍事介入してでもドミネイト皇帝を拘束し、それ相応の裁きが下されるところであった。

勿論その中には処刑も含まれている。


「シェイド様はこう申しておりました…あなた様には古代魔導兵器の一つ『災厄の日ドゥームズ・デイ』をお貸しすると…』


「何だそれは…?」


「ありていに言えば巨大戦車と言った所でしょうか…こればかりは現物を見て頂いた方が良いかと」


「ムムッ…」


「さあ急ぎましょう…先程のあなた様の大声のせいで王国兵がこちらに来るでしょうから…アークライト、お願い」


リサがそう言うと彼女の側の空間がグニャリと歪む。

そこから現れたのは漆黒のローブを着た魔導士風の人物が現れた。

エターニア遺跡の地下でシャルロット達とシェイド達が一戦交えた時に居たあの魔導士だ。

アークライトと呼ばれたその魔導士はドミネイトに杖を向け何やら呪文を唱えている…するとドミネイトの周りの空間が先程アークライトが出現した時と同じく歪み始め、三人を包み込んだ。


「では行きましょうか…皇帝陛下」


「ウム…分かった…ここにこうしているよりはいくらかマシだからな」


その直後空間が閉じ三人は部屋から姿を消した。




 翌日…。

シャルロットは虹色騎士団員全員に招集を掛けた。

今回は特別にベガも同席している。


「みんな集まったかな!?今日は重要な連絡があるよ!!

遠征の目的地の変更…目指すは南方のマウイマウイだ!!」


シャルロットの発表に昨日の経緯を知っているハインツとグロリア、王妃やグラハム経由で情報を知ったアルタイルとシオンは普段通り落ち着いていたが、事情を知らないイオとツィッギーは驚きを隠せない。


「何故行き先を変更されたですか!?」


「いい質問だねイオ、実は僕たちが探していた『現在の盾』がマウイマウイにあるという情報が入ったんだよ」


シャルロットはあえてマウイマウイ公国から自分への縁談があった事はここでは伏せた…いやどちらかと言うと言いたくなかったと言った所か。


「『現在の盾』…遂に在処が分かったのですね!?…でもシェイドは放っておいてよろしいのですか?」


「シェイドの動きも確かに気になるけど『三種の神器』を手に入れる方が優先かと思ってね」


「なるほど!確かに『現在の盾』があった方がシェイド達との戦いも有利に進められますものね、さすがシャルちゃん!」


「そう言う事」


微笑むシャルロットに胸の前でポンと手を打つツィッギー。


「私は参加しないよ」


皆が盛り上がる中、水を差すような言葉が飛び会議室内が静まり返る…声の主はアルタイルだった。


「どうしたのアルタイル…?何か不満があるの?」


アルタイルのいつもと違う空気を感じ取り、シャルロットも神妙な表情になった。


「ああ大有りですよ…ここの所あなたの思い付きに近い突発的な命令に振り回されて私の研究は遅れに遅れているのですよ…私は暫く研究に没頭したい」


「お師様?」


イオは信じられなかった、面倒くさがりで殆ど魔道工房から出ずに半ば引き籠りの様な生活を続けてきた師であるアルタイルを見てきたが、最近の世界の存亡に係る行動に関しては積極的に行動していただけにここでアルタイルが我を通そうとするなど信じられなかったのだ。

そしてもう一人、納得のいかない人物がアルタイルに詰め寄る…ハインツである。


「アルタイル…あなたが南方の遠征に同行してくれなければ誰がこのお姫様の暴走を止められるんだ?正直、今の俺ではアイツを補佐するのには限界がある…」


「暴走って…君は僕を何だと思ってるんだい?」


シャルロットが腰に手を当て不機嫌そうに頬を膨らます。


「実際そうだろう!!今までは運よく危機を乗り越えて来れたが今回もそうとは限らないんだぞ!?」


二人が口喧嘩を始めてしまった…しかしアルタイルは口を閉ざしたままだ。

それを見かねてベガが口を開いた。


「姫様のお目付け役…アルタイルに変わってこのベガが承ろうじゃない…それならどう?」


「えっ…!?」


一同、目を丸くしてベガに注目する。

まさか虹色騎士団レインボーナイツに所属していない上に三日と同じ土地に居ないと噂される風来坊のベガがこんな申し出をしてくるとは誰も予想していなかったのだ。


「アタシは世界各国を放浪していた関係で旅慣れもしてるし、マウイマウイにも多少のコネがあるわ…これ以上うってつけの案内人は居ないでしょう?」


ベガが目配せし、アルタイルは軽く頷く…実は昨日のバーでの話には続きがあった。




「なあベガ…お前に頼みがある…」


「あ~らどうしたの?そんなに改まっちゃって…アタシたちの仲でしょう?」


アルタイルのいつに無く真剣な眼差しにさすがのベガもいつもの様に茶化す事が出来なかった。


「無理を承知でお願いするがお前…マウイマウイまで姫様たちを導いてやってくれないか?」


シャルロットたち虹色騎士団レインボーナイツは出来たての騎士団故に遠征の経験はおろか遠出の経験が全くないのだ。

行って隣接する大森林とドミネイト帝国が関の山、マウイマウイは海を挟んでいるため船を使わなければ渡れない。

そうなると渡航経験がある者…ベガが適任とアルタイルは考えたのだ。


「その口ぶりだとあなたは来るつもりがないのね?」


「ああ…私は行けない…フランソワ様の動きに目を光らせなければならないからな…」


「理由はそれだけじゃ無いんでしょう…?あなたの身体、随分と女性化が進んでいる様だけど」


「気付いていたのか…さすがにお前に隠し事は出来ないな…」


「当たり前よ!!言ったでしょう?アタシに性別を偽るのは無理だって!!」


「お前には敵わないよ」


自慢気なベガを見て苦笑いするアルタイル。


「私がエリクサーの研究をしてたのはお前も知ってるだろう?」


「ええ…私が旅立つ遥か前から研究してたわよね…」


ベガがピッチャーからグラスにオレンジジュースを注ぎアルタイルに差し出す。

彼はそれを受け取り軽くのどを潤した。


「それとは別に今、男を女に変える薬を研究中なんだよ…王家の要請でね」


「ふ~ん、それでそんな事になってるんだ…」


「…驚かないんだな」


「大方アレでしょう?王家の女で無ければ扱えない三種の神器をシャルちゃんにも使える様にするためなんでしょうけど…それは危ないかも知れないわよ?」


ベガもエターニアに帰って来てから伝説に纏わる話をエリザベートからある程度聞いていた。

それもシャルロットの為に頼りになる協力者を一人でも増やそうという彼女なりの親心なのだろう。


「危ないとはどういうことだ?」


「う~ん…確証がある訳じゃないけど、薬で無理に身体を変化させることで逆に女勇者の力が失われる危険性もあるって事…じゃあ聞くけど、モイライと言ったかしら…その三女神は何故生まれてすぐのシャルちゃんを女性化しなかったのかしら?仮にも女神ならそれくらい出来そうでしょう?」


「それは…」


「アタシが思うにしなかったんじゃなくて出来なかったのよ…今言ったのが理由か、はたまた別の理由があるのかは分からないけど…」


「………」


アルタイルは押し黙ってしまった…それもそうだ、自分の身体を実験台にしてまで研究していて完成間近まできた性転換薬が無駄に終わるかも知れないのだ。

ベガもそれを察していた。


「だ~いじょうぶ!!その薬は無駄になんかならないわ!!きっとあなたの為になる!!」


「はあ?何で私の為なんだ?」


「いずれ分かるわよ!!アタシの仮説が正しければね!!」


「何だよ、教えろよ気になるだろう?」


「ダ~メ!それは後のお楽しみ!」


少しだけ場が和んでからベガが言った。


「さっきの件だけど、分かったわ…アタシがシャルちゃん達をマウイマウイに案内してあげる」


「やってくれるのか?」


「ええ…任せて頂戴!!あなたもあの女の動向には気を付けなさいよ?」


「ああ分かってる…」


二人は乾杯してグラスの中身を飲み干した。




「一緒に行ってくれるのベガ!?」


「ええ…アタシに二言は無いわ!!大船に乗ったつもりでいて頂戴!!」


胸を張るベガを見てシャルロットに笑顔が戻る。

アルタイルは人知れず一人会議場を後にした。

数日後には海を越えてマウイマウイ公国へ旅立つ事になった虹色騎士団レインボーナイツ…彼らの行く手には一体何が待ち受けているのであろうか…。

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