第38話 とある魔導士の帰還

 ドミネイト帝国領内での戦闘から数日後…

エターニア王国からシャルル王率いる王国騎士団とシャルロット率いる虹色騎士団レインボーナイツが帝国内の調査に赴いていた。

目的は古代の魔導兵器に関する事だ。

一行は赤い巨人が出現した辺り…現在は地面に巨大な穴の開いた瓦礫だらけの市街地跡に来ていた。


「一瞬で城下が全滅とは…古代魔導兵器とは実に恐ろしいものだな…」


大穴を見下ろすシャルルが眉をひそめる。


「ええ…こんな物が何体も同時に暴れ回ったら世界は数日と持ちますまい…

未知の兵器を戦力に加えようとしてこの様ですからね…しかし巻き込まれる民にしてみたら堪ったものではない…」


グラハムも王の側で憤る胸の内を吐露する。


「…ところでシャルロットの所のあの娘は本当に大丈夫なんだろうな?」


やや離れた所に居るシャルロットとその傍らにいるサファイアを見ながらシャルルはグラハムに小声で耳打ちした。


「はい、今の所は…実の所、私もあの巨人の娘を姫様のお側に置くのは反対なんですよ、いつこの様な惨事が起らないとも限りませんから…」


「やはりお前もそう思うか?グラハム」


「はい、でも姫様ですよ?何とかしてしまうと思いませんか?…今はこのまま様子を見た方が宜しいかと…」


「ああそうだったな…我が娘ながら何故か根拠の無い安心感がある…」


シャルルはフフッと鼻で笑った。




シャルロットたち虹色騎士団レインボーナイツの面々は大穴を慎重に降りていく…瓦礫と砂で滑りやすくなっているせいで探索にも非常に時間が掛かっている。


「どう?何か分かりそう?」


探知の魔法を使い穴の底を歩き回っていたイオにシャルロットが声を掛ける。


「いいえ、特には…巨人が地下を通って逃走できる程の横穴があった形跡はありませんですね…」


「そう…ところで巨人の様な大きな物を転移魔法で移動させる事って出来るのかな?」


「そうですね…不可能では無いのですがかなり難しいと思いますです」


「と言うと?」


「複数人の魔導士が協力して魔法陣を地面に描いて時間を掛けて魔法の詠唱を行うのであれば可能でしょうけど、とても一人では…まして瞬時に効果の出る詠唱不要の簡易版の転移魔法となると尚更無理でしょうね…」


「なるほど…分かったよ、ありがとうイオ」


巨人が地下を潜って移動したという線は無くなった…と言う事はやはりサファイアの様に少女に擬態した上、敵方に居る魔導士の転移の魔法を使って逃走した可能性が強くなった。


「うわぁ、何この惨状は…?一体何がおこったらこうなるの?」


グロリアが大穴全体を見回す。


「おいグロリア、今日はここに観光に来た訳では無いんだぞ?サボってないで何か変わった物が無いかよく見てろ」


「分かってるよ兄上…」


グロリアの足の具合はすっかり良くなり、メンタルの面も皮肉な事にシェイドと会話をした事で回復していた。

こればかりはシャルロットはおろか身内であるハインツにも口が裂けても言ってはならない事はグロリア自身も自覚していたし、後ろめたく思っていたのであった。

これをもって晴れて虹色騎士団レインボーナイツへの復帰を許された…謂わば彼女にとっての初陣と言った所だ。

しかし調査に来たはいいがここまで荒れ果てていては良い収穫は期待できそうにない。


「おいイオ!!こっちも探知魔法をやってくれないか?」


穴の上からアルタイルが覗き込みイオを呼ぶ。


「あっお師様!!済みません姫様、お師様に呼ばれたのであちらに行って来ます」


「うん、ご苦労さま…こっちはもういいから行って来て」


「では失礼します」


イオは穴から這い上がりアルタイルの元へと向かった。


「ねえサファイア、もう一度君のお姉さんの居所を探る事は出来ないかな?」


『はい、姫様…』


サファイアが虚ろな表情になり棒立ちになった…何やら彼女からカチカチと機械音が聞こえる…どうやらこれが仲間と交信する状態の様だ。


(姉さん…姉さん…姉さん…)


暫く交信を続けるサファイア…すると反応が帰って来た。


(オマエハ…B‐3ビースリーカ?)


(はい、B‐3ビースリーです…今は新しいマスターを迎えサファイアと命名されています…そちらはR‐1アールワン姉さんで間違いないですか?)


(ソウダ…シカシ新シイマスターダト?…我々ノマスターハ|唯一ダケノ筈…何故先日ハ邪魔ヲシタ?何故オマエハアノオ方ニ造反シタノダ?)


(造反は正しくありません、どうやら私は強い衝撃で機能を停止してしまった様なのです…それで今のマスターであるシャルロット様と契約をして再起動しました)


(ソウダッタノカ…ナラバ今スグ私ノ元ヘ合流セヨ…私ハ今、アノオ方ノ眷属ノシェイドト一緒ニイル)


(折角ですがそれは出来ません…私の今のマスターはシャルロット様なのです…マスターが絶対なのは姉さんにも分かるはずです)


(ソウカ…ナラバ仕方ガナイ…次ニ会ウ事ガアレバ私トオ前ハ敵同士トイウコトニナルノカ…ソレマデ達者デナ…)


(さようなら姉さん…)


ここで交信が途絶えた…サファイアの瞳に光が戻る。


「結構時間が掛かったみたいだけど、どうだった?」


『姉さんとお話が出来ました…しかしそれ以外の情報共有を遮断されていて居場所までは特定できませんでした』


「お姉さんは何て言ってたの?」


『どうやら姉さんがシェイドと一緒に居るのは間違いないようです…次会う時は敵同士だと言ってました…』


「そう…ゴメンね…」


シャルロットがサファイアを抱きしめる。


『シャルロット様、何を…』


「僕のせいなんだよね?サファイアがお姉さんと敵対してしまったのは…

でも仮に君が地下遺跡であのまま僕と戦っていたらどちらかが確実に命を落としていた…だから僕は君がこちらに来てくれて良かったと思ってるよ…」


シャルロットは敢えて『破壊』ではなく『命を落とす』と表現した…それはサファイアを本当の仲間だと思っている事の証であった。


『トライアルモード終了…以降は無期限契約に設定変更…』


サファイアがうわ言の様にしゃべり出す。


「サファイア?」


『いえ、何でもありません…これからも末永く宜しくお願いしますシャルロット様』


「うん!!」


シャルロットはより強くサファイアを抱きしめ、サファイアもそれに応えた。




「あらら~?どうなってるのこれは~?ここはドミネイト帝国だったのではなくて~?」


聞きなれない女性口調の男性の声が聞こえる、俗に言う『オネエ言葉』だ。


「あっ!!お前は!!」


アルタイルはその声の主を見て大声を上げた。

その人物は話す言葉の印象通り男性ながらひらひらとした女性的な服装で身体をくねらしながら歩いてくる。

茶髪を頭の右側面にリボンで纏めており、睫毛は瞬きで風が起きそうな程長く、顔だちは悪くないが化粧はかなり濃かった。


「お知り合いですかお師様?」


「そうか…時期的にお前は知らないんだったな…あの者こそエターニア三大魔導士の一人…ベガだ」


「えっ!?この方がお師様が以前お話ししていた!?」


自分への視線を感じそのオネエ…ベガがアルタイルとイオの所へと近づいて来た。


「あら~?そこのお嬢ちゃん…どこかで見た顔って言うか~知り合いにそっくり~~?」


「久しいなベガ…私だ、アルタイルだよ…」


「まあ!!どうしたのアルタイル~?子供になった上に女物の服なんて着ちゃって~!!」


「ああ…色々あってな…今はシャルロット姫様の騎士団に所属している」


「んまぁ~!!シャルロット様~!?赤ん坊の時にお会いしたっきりね~!!

…ところでまだ男の子だって事はバレて無いのね…?」


「ちょっとお前!!」


アルタイルが慌ててベガの口を押える。

そして人の来ない塀の陰に引っぱっていった。


「んもぅ…何よ急に?」


「まだシャルロット様が男だと言う事は公言されていない…口を慎め!!

…って言うか何で十年以上お城に帰ってこなかったお前がその事を知ってる!?私だって二年前に初めて知ったんだぞ!?」


「何でって…普通、見れば分るでしょう~?男か女かなんて~そっちの子も男の子なんでしょう?」


「えっ!!何で分かるですか!?」


イオを一目見ただけで性別を言い当ててしまった…イオも女装しているので知らない人が見たら女の子にしか見えない程完成度が高かったのだが…。

ベガはオネエだからなのだろうか、十五年前にシャルロットが生まれた当時から男の子と見抜いていたのだった。


「ただ、王様や王妃様が我々三大魔導士にまで性別を隠すなんてよっぽどでしょ~!?だからず~~~~っと詮索しなかったのよん!!」


「そうか…それは賢明な判断だったよ…実は本人も自分を女だと思ってるから絶対に言うなよ?」


「分かってるって~」


ベガは思い切りウインクして見せると、本当に風が起りアルタイルとイオは顔が引きつっていた。


「折角だから姫様に引き合わせよう…いや国王様も来ているからそちらが先だな…」


「シャルル様は相変わらずガチムチかしら~~~ん?」


「からかうのは程々にしておけよ?曲りなりにも一国の王なんだからな」


「いいじゃない~久しぶりの再会なんだから~ん…って言うかそれ、シャルル様に微妙に失礼じゃない~?」


古代魔導兵器や遺跡に詳しいと言われる魔導士ベガが舞い戻った。

果たして彼はシャルロット達にどのような情報をもたらすのだろうか…。

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