レイン、模擬

「「「「えっ……!?」」」」


 かつての難敵・ダミーレインの生産施設を復活させ、自分自身の実力とレイン・シュドーの戦力向上を実現させる――その計画がいよいよ実行に移された事を聞いたレインたちは、楽しみのあまり自分の数を増やしたり、別の自分を創り出し留守を託したりしながら、世界中の町や村、いや、今や居住区域と呼んでもよいであろう場所から、次々に『世界の果て』に訪れた。

 しかし、そこで彼女を待っていたのは、少々意外な光景だった。普段のレインたちならば、新たに創ったダミーレインが完全に自分たちの味方、いや一部を除いて全く同じ『レイン・シュドー』である事を確かめさせるかのように、大量のダミーが笑顔で別のレインたちを迎える、と言う形でお披露目を行っていただろう。だが、瞬間移動した彼女の視界に入ったのは、似たような表情をした無数のビキニ衣装の美女に取り囲まれる中で――。


「「「「「「はあぁっっ!」」」」」」

「「「「「「ぐっ!!」」」」」」


 ――得意の剣戟を相手に示すの如く戦いを続ける、1万人のレインと1万人のレインであった。


 一方が剣を振りかざせばもう一方がそれを剣で受け止め、その隙を狙おうとビキニ衣装から大胆に露出した生脚の一撃をその半裸の体に当てようとすれば、漆黒のオーラで防御力を大幅に向上させた腕で無傷のままその攻撃を退け、逆に拳をそのたわわな胸に命中させようとする――『勝負』はまさに、五分五分と呼んでも良い状況であった。

 そして、それらの攻撃や防御の後、目の前の自分がどのような攻撃を行うか、レイン・シュドーはほぼ読みとる事が出来た。特に一方のレイン・シュドーの行動は、まるで自分の考えが体を抜け出し、そのまま乗り移っているかのようであった。だが、対する『別』のレインの行動はまた違っていた。確かに、次に何をするかと言う予想は幾つも出来るし、それに見合った反応を考える事も可能だったのだが、実際に何を行うかと言う完全な確実性を帯びた部分までは読めなかったのである。


 それはまさに、あの決戦の時――ゴンノーが創り出した、自分自身とは別の、純白のビキニ衣装の身に身を纏った美貌の存在・レイン・シュドーそのものであった。


「「「「「「ぐうううっっっ……はっ!!」」」」」」

「「「「「「ふんっ……!」」」」」」


((((((……なるほどね……♪))))))



 その様子を見ている中で、ようやくレイン・シュドーは揃って目の前で何が起きているのか察する事が出来た。あちらにいる1万人の自分と1万人のダミーが持つ記憶を共有すればあっさりと理解が可能であったが、それでは何でもダミーレインに頼りきりになり、世界を救う事さえ勇者に任せっぱなしの人間たちと同じだ、とレインたちは考えていた。こうやって自らの心を使って謎を解くと言う思いも、彼女にとっては快感になっていたのだ。

 今のレインは、些細な内容でも大半の物事に嬉しさや楽しさを見いだす事が出来るようになっていたのかもしれない。


 やがて、彼女たちが立てた予想通り、目の前の2万人のビキニ衣装の美女は、一斉に互いの剣がぶつかる音を響かせ、その姿勢でしばらく睨みあった後、そっと戦闘態勢を解いた。そして、一斉に目の前の自分相手に慈愛と幸福に満ちた笑顔を見せ、その手を握り合ったのである。勿論、手袋や靴、肩のアーマーなどの武装を全て解き、純白のビキニ衣装1枚のみを相手にさらけ出す格好で。

 ダミーレインを完全に自分たちの戦力――いや、レイン・シュドーそのものに加える事に成功した事を称える拍手や歓声が、世界の果ての荒野に咲き乱れる純白の花のように広がった。


「おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」おめでとう!」…


~~~~~~~~~


「「「「本当にごめんね、レイン……えへへ……」」」」

「「「「ちょっとレインたちに『私たち』の実力を見せたくて……」」」」


「「「「「「いいのよレイン、気にしないで♪」」」」」」

「「「「「「だって貴方もレインなんでしょ?」」」」」」



 敢えてレインたちの前で『何が起こるか完全に読めない戦い』を繰り広げる事で、ほんの僅かな疑念があった打倒魔王に至るまでのこの計画が絶対うまくいくと言う実証を行う――先程まで行われていたレイン対ダミーレインの模擬戦の理由を知った後、レインたちの顔には一斉に笑顔が満ち溢れていた。生産施設を用いて最初に生み出された1万人のダミーたちに、しっかり自分たちと同じ『レイン・シュドー』の心が宿っている事も、互いの記憶を共有し合い統一した存在になった事でしっかり確認する事が出来た。


 実際の所、ダミーレインの生産施設をレインたちの手で蘇らせる事は予想以上に簡単な作業だった。確かに残骸を見つけるまでに若干の苦労が必要になってしまったが、そこに眠っていた生産施設の設計図は、野に生えていた草木をレイン・シュドーを永遠に生み出し続ける存在に変貌させた『レイン・プラント』とあまり変わらない構造だったのである。

 ただ、全てが同じだった訳ではなく、例えばこの生産施設には、純白のビキニ衣装の美女をレイン・シュドーたらしめる『心』を宿させる構造は含まれていなかった。前の持ち主が透明な卵を思わせる物体の中で日々創り出し続けていたのは、何も考える事が出来ない、そもそも考えると言う概念すら持たない美女のような何かだったのである。


「「「「確か、その空っぽの心に色々と上書きしてたんだっけ……?」」」」

「「「「「そうそう、ゴンノーとトーリスを尊敬するように、とか……」」」」」


 きっと、ダミーレインが本来宿していたであろう『心』と言うものが、ゴンノーやトーリスにとって不必要、非合理的なものだったのかもしれない、と語ったのは、それらの魔術の部分をレイン・シュドーたちによって改めて書き換えられ、世界の平和を他の自分たちと一緒に望み続けるレインの意志を始めから持って生まれたダミーレインたちであった――ただし、記憶を統一した後なので、完全にレイン・シュドーそのものになってしまったのだが。

 もうダミーたちはあんな胸糞悪い事をされずに済む、と安堵の顔を見せあったレインたちは、次の行動に移り始めた。先程の記憶の共有の中で、ずっとこの場所で準備を重ねてきた2万人のビキニ衣装の美女が既に別の自分を永遠に創り出し続ける事が出来る体制を整えていた事を教えたからである。そんな素晴らしい光景なら、記憶を何度も味わうよりも実際に見た方が楽しい、と考えた彼女たちは、早速その記憶に基づき、自分たちの体を世界の果ての荒野の下に広がる巨大な地下空間へと移していった。勿論、その間の地上や空の留守を――。


「「「「「いってきまーす♪」」」」」

「「「「「「いってらっしゃーい♪」」」」」」



 ――新たに生み出したもう1組のレイン・シュドーへ託した後で。



 そして、地下に降り立った彼女たちを出迎えたのは――。



「「「「「ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」ようこそ、レイン♪」…



 愚かな人間や最後に残された最大の壁である魔王を打ち破り、自分たちと共に、いや自分たちの一員として世界に真の平和をもたらす存在、ダミーレインの笑顔と歓声であった。この日のために準備してきた最強にして最愛のビキニ衣装の美女は、地下に広がる空間をぎっしりと埋め尽くしながら、世界中から集まって来た自分たちを待っていたのである。

 そして、それらのレインたちは揃って地上にいる自分たちとは思考判断が微妙に異なっていた。普通の人間なら、その僅かな違いに不気味さや嫌悪感を抱いたかもしれないが、ここに集うレインたちは全く別の感情を持っていた。普段の自分たちでは思いつけないとびきりのアイデアや様々な発想を互いに交わし合い、今まであまり味わえなかった様々な快楽を楽しむ事が出来る事を、全員とも確信していたからである。勿論、たっぷりそれらの思いを堪能しきった後、記憶を共有して全く同じ存在になると言う癒しに近い経験も含めた上で。



「「「「「「今日からよろしくね、レイン♪」」」」」」



 笑顔で声を響かせたレインたちに対し、地下空間で待っていたレインたちが発した返事は、先程よりも若干大きくなっていた。その理由は、彼女たちの周りに広がる歪んだ空間の外側にあった。



「「「「「ふふ、生産施設は順調に稼働してるみたいね♪」」」」」

「「「「「そうね、また新しいレインが生まれてきたみたいだもん♪」」」」」



 早速その様子を見に行こう、とレインたちが向かったのは、まるで脈打つかのように振動を重ね、内部に新たなレイン・シュドーとなる物体が浮かび続けている卵型の透明な物体が数珠繋ぎになり、幾つも遥か高い天井からぶら下げられている生産施設の中枢であった。

 改めて見ると、確かにあの『レイン・プラント』のようだ、とレインたちは一斉に感じた。卵型の物体の色や大きさ、そしてどこまでもぶら下がり続けている光景こそ違うが、内部でどんどん新しいビキニ衣装の美女が宿り続けていると言う部分は全く同じだったからである。遺されていた設計図通りに創った結果なのだが、改めてレインはゴンノーと言う存在の厄介さや鬱陶しさを思い知らされた。だが、どこまでも気持ち悪い声で自分を追い求め続けていたあの魔物はもう存在しない。魔王による介入が無い限りは、自分たちの思い通りにこの設計図を操作する事が可能になったのだ。


 そして、レインたちの目の前で新たに自分たちが書き変えた設計が上手く働いている事が実証され始めた。既に大量にぶら下がり続けている生産施設の中の1つ、レイン・シュドーが集う場所に一番近い所にある卵型の物体の下の部分が膨らみ始めたのだ。それはあっという間に人間大にまで成長し、やがて内部に小さな丸い物体――1日経てば新たなレイン・シュドーとして生まれて来る存在を宿したのである。

 しかも、彼女たちの前で起きた出来事はそれだけではなかった。上空に目を向けた彼女の視界に飛び込んで来たのは、まるでレイン・シュドー自身が分裂するかのように『生産施設』そのものが新たな生産施設を創り出し、地下空間を歪めながら増えて行く光景だった。『レイン・プラント』と基本的な構造が変わらないと言う事実を応用し、レインたちはこのダミーレインのみならずこの生産施設そのものも自力で増殖できるよう改良を加えていたのである。改めてそれが成功し、無限に自分が増え続ける新たな拠点を手に入れたと言う事に万感の思いを抱いたレインたちの中には、目に嬉し涙を浮かべる者までいた。



「「「「「やったわ……ついにやったわね、レイン……!」」」」」

「「「「「「これでもっとに近づいて行くわね……!」」」」」」」



 そして、そんなビキニ衣装の美女の数は、どんどん増え続けていた。

 生産施設から絶え間なく現れ続ける新たなダミーレイン――いや、レイン・シュドーたちが、次々にその輪に笑顔で加わり続けたからである……。



「おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」おーい!」…

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