レイン、推理

「「「「「……はぁ……」」」」」

「「「「「……本当にお疲れ様、レイン」」」」」」


 本拠地にある地下空間から戻ってきた自分自身の記憶を確かめたレインたち――ダミーレインからの奪還に成功した『村』で待っていた彼女たちからの最初の言葉は、理解しがたいゴンノーや人間たちの行動を体験してきた自分たちへの労いの言葉であった。記憶を共有し、全く同じ体験をした事になった彼女たちにとっても、あの会議の内容は常識が欠落したような異常なものだったのである。


「「「キリカたちは完全に、人間たちの敵にされたって事ね……」」」

「「「「そういう事になるわね、レイン」」」」


 レインたちの心には、今回の代表者たちの会議によって人間たちから裏切り者の烙印を押されてしまったキリカ・シューダリアや彼女の関係者への哀れみの思いが浮かんでいた。世界の情勢に抗い続け、自らの意志を懸命に訴え続けたばかりに、そこに呑みこもうとする連中から抹殺されようとしている――まさに屈辱的な悲劇と呼べる光景だった。

 しかし彼女に生まれたこの哀れみの心は、あくまで限定的なものだった。それどころか、レインたちはここまで追い詰められた面々を、これまでの行いや心から生まれた自業自得のようなものだ、とまで考えていたのである。それはキリカのみならず、彼女に関係する全員に対する思いだった。


「「「今まであの連中、散々自分勝手だったもんね」」」

「「「そうよねレイン、勇者を目指すって言いながら……」」」

「「「「結局自分の考えを押し通したいだけだったもん、酷い有様よね」」」」


 自分たちこそが人類を守る盾となる、あのダミーレインとか言う人間のような何かに任せるわけにはいかない――確かに今となってはその考えも一理あるようになってきたものの、根底にあるのは自分さえ良ければそれで良い、と言う利己的なものだ、とレインたちは推測していた――いや、知っていたと言ったほうが正しいかもしれない。今やそういった考えを持つ者たちが集う『村』は疲弊しきっており、いつ崩壊が始まってもおかしくないような状況だったからだ。


 改めてそう思いを巡らせた時、レインたちはふと気づいた。

 あまりこういった事は考えたくないが、もし自分自身が魔物軍師ゴンノーだったとしたら、目の上のたんこぶのような存在が危機に陥っているこの機会を逃すはずが無い、と。


「「「「もしかして……ゴンノーは!」」」」

「「「「そうよね、絶対に間違いない……」」」」

「「「「でも、そうなるとしたら……」」」」


 彼女たちの抱いた思い――あの会議を通じて、ゴンノーは件の『村』を排除する絶好の機会を得たに違いない、と言う思いは、言葉を交わす中で革新へと変わっていった。恐らく、同じ思考を有するレイン・シュドー全員も全く同じ結論に至ったのだろう、と彼女たちは考えた。だが、どのような方法で排除を行うのかと言う具体的な事までは、思い描く事ができなかった。ダミーレインを駆使するのは間違いないが、彼女たちがどうこき使われ、冷酷な兵器として扱われるのか、頭の中で描きたくないという思いもあった。


「「「これは確かに魔王の言う通り…」」」

「「「「ええ、偵察の機会を増やすしかないわね」」」」


 世界のあらゆる場所に自分の『目』を張り巡らさなければ、ゴンノーの策略に勝つ事はできない――互いにその思いを確認しあう中、レインたちは地下空間で魔王と交わしたやり取りを思い出していた。

 つい先程行われていたという会議を直接心の中に映し出すと言う方法で、魔王はレインたちにその内容を伝えていた。巨大な泉の中に遥か遠くの世界の様子を映し出すというこれまでの手段とはまた違ったやり方であったが、どちらとも共通するのは、あの会議場の様子をレインたちはその目、その肌で確認する事が出来ず、魔王の力を介してしか知る事が出来ないというものであった。しかも、世界各地で行っているレインによる偵察も、この会議場がある世界最大の都市では決して行ってはならない、と言う通告まで出していたのだ。

 その理由を尋ねたレインたちに返ってきたのは、意外と呆気なく、それでいて重要な言葉であった。


 例え光のオーラを身につけたとしても、のゴンノーのいる場では偵察など筒抜けだ、と。


「「「「間接的だけど、魔王ははっきりと私たちに伝えたって事よね……」」」」

「「「「「まだゴンノーの力にも及んでいない……」」」」」

「「「「「いや、でもちょっと待って……もしかしたら……」」」」」」


 しかし、彼女たちはただ悔しがるだけでは無かった。敢えてゴンノーの名を呼ぶ前に『今の』という言葉をつけたという事は、レイン・シュドーにも勝算は十分にある、と言う事だ、と強気の考えを抱いたのである。流れはこちらに向いている、と魔王がはっきりと伝えた事も、大きな後押しとなっていた。


「「「光のオーラを2種類も使えるんだから、ね、レイン♪」」」

「「「そうよね、独力で学んだものと、ダミーレインから学んだ光のオーラがあるもんね」」」


 この両者を上手く組み合わせ、より実力を高める事ができれば、いつか訪れるだろうゴンノーやダミーレインとの最終決戦にも勝利する事が出来る――やる気が戻ってきたレインたちの顔に、笑顔が戻り始めていた。

 ただ、光のオーラの鍛錬を始める前に、彼女たちにはやる事があった。日が丁度良い具合に傾き、辺りが暗闇に包まれ始めている時間は、美味しい夕食を食べるのにふさわしい時間でもあったからである。ダミーたちと同様に、飲まず食わずでも平気で過ごす事が出来るレインたちであったが、規則正しい生活やご飯の美味しさを前にすればそちらの方を優先してしまうのであった。


「「「「それに、私たちは『レイン・シュドー』だもん♪」」」」

「「「「そうそう、世界に平和をもたらす者」」」」

「「「「「愚かで哀れな人間たちから、世界を取り戻す者……」」」」」


「……あはは、なんか格好つけちゃった♪」あはは、なんか照れちゃうよねー♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」あはは♪」…



 思いっきり笑いながら溜まった鬱憤を晴らした後、レインたちは夕食の準備を始めた。

 暗い夜の中でもたっぷりと思う存分鍛錬ができるよう、漆黒のオーラを使って普段よりも多めに食事を無から創造する、と言う手段で……。

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