レイン、連敗

『消えなさい、のレイン』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』消えなさい』…


 声や足音、胸の揺れ方を揃えながら、全く同じ姿形の美女『ダミーレイン』が、純白のビキニ衣装のみを身に纏い、四方八方から次々に押し寄せる。

 

「「「あ、貴方こそ……」」」

「「「ダミーの癖に……!」」」


 倒しても倒してもその分次々に増えながら現れ続ける敵に対して、自分たちは全く武力で対抗できず、ただその言葉を否定しつつも漆黒のオーラで悪あがきをするしかない。だが、それもやがて不可能になる事は承知済みだ。自分を含めた周りに居るレイン・シュドーの全員は、体のあちこちに自分たちの偽者によって与えられた痛みが走り、これ以上戦うことは出来なくなっていたからだ。


『何を言ってるの?』貴方達もダミーじゃないの』魔王に創られたんじゃないの』いい加減認めたら?』


 無表情のまま、自分たちと同じ言葉を投げかけるダミーレインたちの攻撃を、誰も防ぐ事はできない。彼女たちが次々に放つ「光のオーラ」を防御したり、対抗したりする手段を、レインたちは誰も持ち合わせていないのだ。いくら鍛錬を繰り返しても、所詮それは自分たちの考えられるだけの力を増す効果しかない。彼女たちには、この「光のオーラ」に対してどのような鍛錬をすれば良いのかと言う知識すら存在しないのだ。


 そして、今回もダミーレインの猛威に対して何も出来ないまま、レイン・シュドーたちは――。


『さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』さようなら、レイン』…


 ――また1つ、人間たちから奪い取った「村」を奪還される事となる――。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「……はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」…


 ――決して悪夢ではなく、が経験してしまった忌まわしい過去の記憶であるという事を頭の中で何度も繰り返し確認し続けながら、レイン・シュドーは一斉に溜息をついた。


 あちこちに座り込む彼女たちには、その傍で横たわる自分自身とは異なり、ダミーレインの攻撃による痛みは生じていない。だが、それ以上に心の中に生じた無力感、敗北感が大きかった。最初の敗北から、レインたちはこれまで一度も勝利を収めることができなかったのである。当然だろう、これまでレインたちが無我夢中で必死になって行っていた鍛錬が、相手には全く通用しない状況なのだから。

 『勇者』であった頃から、彼女はずっと日々努力を重ねる事で強くなる、と言う事を心に刻んでいた。地道に鍛錬を重ねる事で、どんな強い魔物にも対処できるほどの力を身につけることが出来るというのを、自分自身の経験から学んでいたからである。そんな姿勢は、愚かな人間たちにもそれなりに影響を与えていた事も、彼女はしっかり承知済みだった。鍛錬こそが勝利の秘訣である、とレインは考えていたのだ。

 しかし、それこそがまさに彼女の思い上がりそのものだった。日々勝利を収め続けていた事で、レインたちは自分の常識の中でしか物事を考えられなくなり、それを超えた力や現象に対してどのように対処するか、どんな戦いを挑むか、と言う心を忘れきってしまったのだ。彼女たちがずっと蔑んでいた、愚かな人間たちのように。何度も油断大敵、油断大敵としつこく魔王が言っていたのは、もしかしたらこの事を指摘するためだったのかもしれない、とレインは考えていた。


「……はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」…


 だが、今の彼女たちはここから先何をすれば良いのか、全く分からなかった。今までの鍛錬が全否定されるような事態を経験した以上、何の気力も起きなかったのである。その事を突きつけたのが、よりによって世界で一番美しく清らかで、真の平和に最も近いはずの自分自身と全く同じ姿形をしたダミーの大群である事もまた、レインにとっては痛手であった。

 やはり自分は、世界の全てに見放された敗北者だったのか――そんな事を考えていた時、突如広い空間の一角が黒い渦に包まれた。レインたち全員がそこに注目するも、動けたのはずっと眠りに就いていたレインたちだけだった。まだ痛みが止まらない自分たちを避けながら急いでその場に向かった彼女たちの前に現れたのは――。


「れ、レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」レイン……」…


 ――ダミーレインの急襲に遭い、何も出来ないまま町を奪還させられてしまった、別のレイン・シュドーの大群であった。やはり全員とも凄まじい猛攻を受けたようで、揃って体の各部を手で押さえ、非常に辛そうな表情を見せていた。慌てて数を増やし、倒れかけたその体を何とか支えるレインたちだが、それに安心しきったように、別のレインたちは一斉に意識を失い、彼女たちに身を委ねてしまった。まさに自分たちが経験したものと、全く同じ状況だったのだ。


 何も成長できないまま、ここまで一体どれだけの敗北を味わってきたのだろうか。大量の自分たちの介抱をしているうち、レインの心には敗北感や無力感、そしてこれまでの自分への反省の念が混ざり合い、やがて1つの大きな感情が生まれてきた。彼女たちは必死にそれを押しとどめようとした。ここでそれを発散する訳にはいかない、と必死に強がっていたのだろう。しかし、それは無駄な抵抗に等しかった。

 再び現れた漆黒のオーラの渦の中に現れた、彼女にとって最後の綱となるであろう存在が現れた瞬間――。


「……ふん」


 ――レインたちは、一斉に自らの気持ちを溢れさせた。目から、鼻から、そして口から、彼女たちは今までの『悔しさ』を一気に表したのである。倒れ込むレインもまた、全く同じ気持ちを発散させ続けていた。

 

「うわあああああ!!!」うわあああああ!!!」ああああん!!」うわあああああ!!!」ああああん!!」あああああ!!」もうやだあああああ!!!」ああああん!!」うわあああああ!!!」ああああん!!」うわあああああ!!!」ああああん!!」あああああ!!」うわあああああ!!!」ああああん!!」うわあああああ!!!」ああああん!!」あああああ!!」もうやだあああああ!!!」もうやだあああああ!!!」うわあああああ!!!」ああああん!!」あああああ!!」もうやだあああああ!!!」うわあああああ!!!」ああああん!!」うわあああああ!!!」ああああん!!」うわあああああ!!!」ああああん!!」あああああ!!」もうやだあああああ!!!」うわあああああ!!!」うわあああああ!!!」ああああん!!」うわあああああ!!!」ああああん!!」あああああ!!」もうやだあああああ!!!」ああああん!!」あああああ!!」もうやだあああああ!!!」うわあああああ!!!」ああああん!!」うわあああああ!!!」ああああん!!」あああああ!!」もうやだあああああ!!!」…


 地下空間に延々と響く泣き声の大合唱を、魔王は止める事なく、一切の感情を見せないまま眺め続けていた……。

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