レイン、栽培
ここは、広大な「世界」の南側にある森の中。
多くの場所に人々が『町』や『村』を創り、日々の暮らしを送り、そしていつ魔物が襲ってくるか分からない状況で怯え続ける中でも、この鬱蒼とした森にはそのような不穏な空気は微塵も感じられなかった。どれほど人間たちがその住処を広げようとも、何が眠っているかすら分からない未開の地は必ず存在するものである。
だが、そんな森の中に、足を踏み入れる者たちが現れた。それも1人だけではない、数十人、いや数百人もの女性たちが、何の前触れも無く森の中心に突如出現したのである。しかも全員揃って、動物に襲われたり虫に刺されたりする事を恐れないかのような、純白に輝くビキニ衣装1枚のみと言う大胆すぎる姿であった。
しかし彼女たちには、それらの脅威に対して何の心配も抱いていなかった。決して油断から来る偽りの自信ではない。彼女たちは人間ではなく、世界を平和に導こうとする存在『レイン・シュドー』だからである。
「さ、時間はかかるけど……」「やりますか!」「そうね、レイン!」「そうね!」「頑張ろう!」
数百人のレインたちの手には、彼女たちのビキニ衣装同様に白く輝くポットが握られていた。歩く度に揺れ動くたわわな胸の前で彼女が持ち続けているこのポットの中には、こちらも白色の濁った液体がなみなみと注がれ、動く度に中から飛沫が飛び上がりそうになるほどだった。
やがて彼女たちはあちこちで静かにポットを傾け、液体を少量づつ、森の中に生えている木々や植物に注ぎ始めた。それも一箇所だけではなく、少し歩く度に立ち止まり、その周辺にある森の植物に次々に液体を与えていったのだ。
はるか遠く離れた『世界の果て』からレインたちがやって来た目的は、このポットの中の液体であった。彼女たちはこの白く濁った液体を全ての植物にかけるため、森のあらゆる場所を動き回っていたのである。
「うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」…
小鳥のさえずりをかき消すように笑い声を響かせながら、レインたちは楽しそうに作業をこなしていた。茶色のブーツで柔らかい地面を踏みしめ続け、純白のビキニ衣装のみで包まれた大きな胸を揺らし、滑らかな腰や整った形状の尻を動かしながら、彼女たちはほんの少しづつ、しかし満遍なく森中の木々、草花の全てに液体をかけ続けていった。純白のビキニ衣装のまま腰をくねらせ、胸や尻を見せ付ける姿勢となる自分自身の集団を見て、つい彼女は顔を真っ赤にしてしまった。
「もう、レインったら♪」「あ、ごめんごめん♪」「仕方ないわよ、レイン♪」「そうそう、つい興奮しちゃうのは当然よ♪」「そうねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」ねー♪」…
少し動いて液体をかけ、また少し動いて液体をかけ――その繰り返しは、非常に地道で根気の要る作業であった。しかし、彼女たちは焦らずじっくり、そして楽しみながらこの任務をこなし続けていた。レイン・シュドーの胸や尻、腰つきなどに魅了され続けているから、と言うのもその理由だが、この液体の効き目がすぐ現れるわけが無い事を知っているからと言うのもあった。だが、例の白い液体はほんの少量だけでも凄まじい力を発揮する。明日になればこの森は、劇的に変わる事になるのだ。
そして数時間後、森のほぼ全ての場所に例の液体をかける作業も大詰めとなった。残るは、近くに平地があるという川沿いの一角のみである。一斉に集まった数百人のレインたちが、皆で仲良く最後の仕上げをしようとしたその時だった。1人のレイン・シュドーが、自然豊かなこの森には非常に不似合いなもの――人間の手によって作られた、木造の大きな建物を発見したのである。
いざと言う時を考慮し、自分たちの姿をレイン・シュドーや彼女の協力者である魔王以外からは見えないようにしたのは正解だったかもしれない、とレインたちは考えた。もしあの建物に誰かが住んでいた場合、自分たちの秘密の作業がばれてしまう可能性があったからだ。とは言え、あの建物の正体が何なのかは、この場からはよく分からなかった。そこでレインたちは作業を一旦中断し、あの建物の正体を突き止める事にした。
数十人のレインたちが密かに川を越え、建物を取り囲みながらそっと中を見ると、そこには何人かの人影が見受けられた。筋肉質ながらもほっそりとした、バランスの整った魅惑の体つきであるレイン・シュドーとは異なり、その人影は皆どこかふくよか――悪く言ってしまえば太った体格をしていた。体もあまり鍛えておらず、あまり動く様子も無い。彼らは運動する必要が無い、贅沢な暮らしをしている人間ではないか、とレインは推測し始めた。
「贅沢な暮らし……」「貴族かな?」「町か村の偉い人かも……」
しかし、それなら人里離れたこの場所にいるよりも、元の町や村に留まっていた方が良いだろう。もしかしたら、自分たちが征服した町や村を治めていた人たちなのだろうか、と考えたレインだが、その推測を覆すようなものを、建物の周りで発見した。獰猛な野生の動物たちを引き寄せかねない、食べ物など様々な生ゴミの山である。それに酒樽などの贅沢品も多く蓄積されている。もし『魔物』に怯えているとしたら、ここまで不用心な事はしないはずだ。
一体どういう事なのだろうか、悩み始めたその時であった。彼女の「頭の中」に直接語りかける声がした。1つではなく、何十、何百も。
『聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』聞こえる、レイン?』…
「あれ、レイン?」どうしたの?」あれ、レイン?」どうしたの?」あれ、レイン?」どうしたの?」あれ、レイン?」どうしたの?」あ、レイン……」どうしたの?」あれ、レイン?」どうしたの?」あれ、レイン?」どうしたの?」あれ、レイン?」どうしたの?」あれ、レイン?」どうしたの?」あれ、レイン?」どうしたの?」あれ、レイン?」どうしたの?」あれ、レイン?」どうしたの?」あれ、レイン?」どうしたの?」あ、レイン……」どうしたの?」あれ、レイン?」どうしたの?」あれ、レイン?」どうしたの?」あれ、レイン?」どうしたの?」あれ、レイン?」どうしたの?」あれ、レイン?」どうしたの?」あれ、レイン?」どうしたの?」…
その声の主は、森から遠く離れた場所にある世界の果て――無数のレインが日々増え続ける『本拠地』から、魔術を用いて自分の声を直接送信してきた別のレイン・シュドーであった。森に派遣され、魔王からの指令をこなすレインたちにアドバイスをするために動いてくれたのだ。その内容は勿論、この謎の木造家屋に関してだった。
「「「「やっぱりあれ、貴族の家なの……?」」」」
『うん、最近建てられた家なんだって』『魔物がまだいたって言う噂を聞いて……』『それを怖がって作らせたみたいよ』『避難所みたいなものよ』
魔王やレインによって調べられた内容によると、あの建物で見た太った人物たちは、この場所から遠く離れた鉱山の町で巨万の富を築き上げた貴族の夫婦と、それに仕える執事だと言う。様々な情報を手に入れてはそれを基に多大な利益を上げてきた彼らは、各地の村や町に『魔王復活』と言う情報が伝えられる前にそれを事前に入手し、大量の飲食物や贅沢品を伴ってこの森へと逃げ出してきたと言うのだ。魔物に襲われることが無いであろう、未開の『安全』な森の中に。
「やっぱり噂、流れてたんだね……」
『仕方ないわよ、レイン』『隠し事なんて出来るわけないもの』『不穏な空気を人間は感じやすいものよ』
「それもそうよね……」「あ、でも……」
レインの1人が気づいたとおり、この場所に逃げてきた、と言う事は、町に住む人たちのことは完全に見捨てたと言う事になる。さらに、人から遠く離れた『森』なら安全だ、と勝手に思い込んでいると言う事にも。
本拠地からの進言に従ってもう1度中を覗いて見ると、完全に油断しきって寛いでいる体格が太めの男女と、それに笑顔で従う老執事の姿があった。勿論、魔術の力で見えないようにしたレインたちの姿には一切気づいていなかった。彼らは完全に、魔物を舐めきっていたのだ。かつてあれほど大変な出来事を経験してきたにも関わらず。
ぶくぶく太り、油断しきっていたその姿を見てレインたちは決意した。
あのような存在がいては、平和など訪れる事はない。世界に真の平和をもたらすため、あの面々をこの世界から消し去ってしまおう、と。
『魔王から連絡が来たわよ♪』何時ものように好きにしろって♪』うふふ、良かったわねレイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』レイン♪』…
「了解、レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」レイン♪」…
そして、連絡を受けた数百人のレインたちは白い液体に満たされたポットを手に、森の木々に内部の液体を注ぐ最後の作業を行うレインと大空へと飛び立つレインの二手に分かれた。
大空へと向かったレインたちは、一旦魔術でポットを別の空間に収納した後、空に浮かぶ雲を取り囲みながら手をかざし始めた。すると、掌から光を遮る巨大な漆黒のオーラがあふれ出し、やがて雲の色を闇の色へと変えてしまった。漆黒のオーラを雲に注ぎ続けながら、レインたちは、額に汗を流しながら互いに笑顔を見せあった。これで、あの汚らわしい人間がいる石造りの建物を『浄化』出来る、と。
やがて漆黒のオーラが満杯になると、どす黒い色をした雲は静かに動き出し、作業を終えて一足先に本拠地へと帰還したレインたちが先程までいた森の真上で停止した。そして、そこから大粒の雨を降らし始めた。その様子を見たレインたちは、互いに笑顔を見せあい、作戦の成功を祝った。
突然のにわか雨を受け、町の人たちを見捨ててこの森の中に逃げ出した貴族たちは慌てて窓を閉めていた。だが、時既に遅しであった。今まで様々な情報や噂を元に動き、常に成功を収めてきたこの貴族は、取り返しのつかない過ちを犯してしまったのだ。この森は安全であるどころか、彼らの存在そのものを消し去る『墓場』である事を。
「うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」うふふ♪」…
次に訪れた時、劇的に変わるであろう光景を楽しみにしながら、レインたちは本拠地へ戻っていった……。
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