女勇者、現出
誰にも頼らず、『自分』と『魔王』のみと協力することを決意してから、レイン・シュドーは自らの剣術に加え、『攻撃』に用いる魔力の力を少しづつ上げ続けてきた。そして、それに応じて特訓に用いる標的も少しづつ難易度が高いものに変わっていた。
動かないレンガ作りの的から始まり、脚を用いて逃げ惑う的、レインの放つ魔術を跳ね返す的、そして勇者であった頃からずっと戦い続けてきた『魔物』――。
最初の頃は当然慣れておらず、ただの魔物ですら苦戦する日々だった。しかし、僅かな期間の間に攻撃のノウハウを掴み、彼女は一気に自らの魔術を用いた攻撃を使いこなすようになっていたのである。今や、レイン・シュドーにとっては背中に背負った自慢の剣のみならず、その全身――攻撃を放つ掌、空中を舞うための脚などに宿る漆黒のオーラも武器になって行った。
そして、いよいよレインの魔術の特訓の相手は、自らと同等の力を持つ多数の存在――レイン・シュドーになった。
「へぇ、結構広い所ね……」
「今までの闘技場よりも数倍も広い感じ……」
「見てみて、私もいっぱいいる♪」
「あ、ほんとだ♪」
別の場所で『剣術』の鍛錬を終えた300人のレインがぞろぞろと、魔術を鍛える新たな段階に入った100人のレインを見にやってきた。石の長い巣に腰掛ける大量の彼女からは、純白のビキニ風の衣装から覗く大きな胸元、整った腹、むっちりとした太ももが延々と並び続けている。
そんな彼女たちが眺める闘技場のフィールドでは、100人のレインが『魔王』の前で一列に並んでいた。お揃いの純白のビキニ衣装から、背筋を引きしめる度に大きな胸が同時に揺れた。
そして、魔王が右手をかざした瞬間、100人のレインの体から抜けるように現れた黒いオーラが、彼女の目の前に集まり、そして気付いた時には……
「あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」あぁ……!」……
嬉しさを爆発させそうな顔を見せる100人のビキニ姿の女性と、それと向かい合わせに立つ、全く同じ表情、同じ姿の100人のビキニ姿の女性がいた。ここからは、いちいちハンデを付けた『的』を用意せずとも、自分同士で一切の容赦なく魔術を鍛える段階に入ったのだ。
周りから聞こえる300人の歓声や拍手を耳にしながら、鍛錬を続けるようにと伝え、『魔王』はこの場を後にした。
「よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」よろしくね!」……
200人のレインが、やる気と自信、そしてまた自分が増えた嬉しさに満ちていたのは言うまでも無い。
~~~~~~~~~~~
一方で、攻撃や防御とは『魔術』の習得に励んでいた100人のレイン・シュドーは、かなりの苦戦を強いられていた。
「はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」はぁ……」
魔王の持つ『魔力』は、攻撃や防御のみに用いる訳ではない。無から全ての命を創り出す事すら可能な『創造』の力を始め、ありとあらゆる方面に用いる魔術を武器にしているのだ。この無限の力を自らのものにし、魔王と抗うだけの力を身につけると言うのもレインが鍛錬を続ける目的だったのだが、やはりその苦しみはかなりの物があった。必死に集中し、自らを磨こうとしているレインたちは、運動を続けている他のレインよりも純白のビキニ衣装が汗で濡れていた。
しかし、その様子を見守る魔王は相変わらずの情緒が見えない淡々とした口調で告げた。
「貴様らが出さなければ、今日の『夕食』は無しだ。分かっているだろうな」
とは言え、レインは一切の文句を言わなかった。彼女のイメージをより強く、より強烈にさせるには、こう言った追い込み式の方法も重要かもしれない、と考えたからである。ただ、実際の所どういう心なのかは、魔王の無表情の仮面から読み取る事は出来なかった。
「何とかしないと……」「私たちの夕食が……!」「無くなっちゃう……!」
他人との連帯責任よりも重くて辛いであろう、レイン・シュドー自身への責任に、100人の彼女は必死になって耐え続け、そして何とかお望みの品を出そうと懸命に努力を続けた。
そして――。
「はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」はあっ!」……
気合を込め、掌から出た闇のオーラは、次第に形を成し、実態を形成し始めた。まさに『無』から『有』が作り出されようとしていたのだ。そのまま100人のレインは気合を込め、自らのイメージをオーラに流し込み続けた。より精密に、より正確に、自らの心の中から限界まで引き出すかのように。
そして、必死になって瞑った目を開いた時、そこにあったのは、毎日夕食で頂く山盛りのパンやサラダ、そして肉――普段魔王任せにしていた、彼女自身の食料だった。
だが、レインの表情にあまり嬉しさは無かった。
「やった……」「……のか……な……?」「こ、これは……」「ちょっと……」
「……ふん」
魔王が鼻で笑うような声を出したのも無理はない。樽一杯に入ったスープ、巨大なパン、山と化したサラダ――どれもレインの許容量を遥かに凌ぐ量になってしまったのだから……。
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