地下街の辻斬りと、それぞれの願い
第62話
赤い髪に、赤いギターを持ったロック・ギタリストが映る背景画面に、黄色の可愛らしいフォントの文字が浮かぶ。
・赤髪ギタリストアイコン
『今から家でゼルダの伝説やらねぇ!?』↓
・うさ助アイコン
『ごめんなさい、今日は学校の友人達との予定があるので。それに、ゼルダの伝説は基本的に1人でプレイするゲームではないでしょうか? スプラトゥーンなどの対戦や協力プレイが出来るゲームならまだしも』↓
・赤髪ギタリストアイコン
『えーそんなのヤダヤダヤダァ! 荘子がいないと神々のトライフォース守れないー!!!』
スタンプ↓
スタンプ↓
スタンプ↓
既読。
マキナはスマホを畳の上に放り投げた。
「ちぇー、荘子来れないって」
口を尖らせ、チェックのスカートから伸びる脚をバタバタさせている。
「いいじゃにゃいか。たまには学校の友達と遊ぶ時間もあげないとさ。それに、この件は直接的には荘子と関係ない事だし、みぃ達だけでちゃちゃっとやっちゃおうにゃ」
志庵は、皮を剥いたみかんを1房、ぽいっと口の中に放り入れた。
「なづきはどう思う?」
なづきは串の刺さったアイスを口に咥えながら、ブラウン管のテレビでがんばれゴエモンをプレイしている。ちょうど、ゴエモンインパクトの戦闘が始まったところだ。
「いいではないか。荘子にも休息は必要であろう」
「なんか、みんな荘子には優しいよなー!」
そう言うと、マキナは飛び上がりくるっと側転して立ち上がった。
「じゃ、行くべ!」
「にゃにゃ」
「いいトコだったのに」
なづきは、スーパーファミコンの電源をオフにした。
羅刹区錦の地下街入り口に、けたたましく赤色灯を光らせるパトカーが何台も止まり、付近の道路を封鎖している。
警察官が慌ただしく動き回り、黄色いテープが日常と非日常を隔絶する。そこに、黒いV37スカイラインセダンを先頭に黒塗りのセダンが数台現れた。スカイラインから、金のメッシュが入ったオールバックの男が現した。納屋橋捜査一課長だ。
そして、少し遅れて反対側の助手席から女性が降りてきた。ストレートの黒いロングヘアーをしているが、少し寝癖が残っているのか毛先が所々跳ねている。白いブラウスに黒いロングスカート、その上に茶色のロングコートを羽織っている。今目覚めたばかり、というようなとろんとした表情をしているが、これが彼女の常だ。
「柴田、早く来い」
「はい、すみません」
柴田と呼ばれたその女性は、白いトートバックを抱えて小走りで納屋橋の後についていった。
「納屋橋捜査一課長、柴田管理官、お疲れ様です!」
「ご苦労」
「ご苦労様です」
敬礼する捜査員の間を抜け、納屋橋を先頭に捜査一課の刑事達が現場の中を進んでいく。
「捜査一課が入られます」
黄色いテープの張られた規制線の前に立っていた捜査員が敬礼する。
「ご苦労、状況は?」
「はい、こちらへ。遺体は——」
所轄の刑事の説明を受けながら、納屋橋は地下街の入り口に向かう。屋根のついた地下街への入り口は白いシートで覆われており、地下へ降りる階段の手前に、血の海に伏せる男性の姿があった。納屋橋は身をかがめ、観察する。
「鋭い刃のような物で、胸をひと突きです」
側にいた、若い女性の鑑識官が言った。納屋橋は、女性の鑑識官の顔を見上げる。
「君は、新しい鑑識官か?」
その女性の鑑識官は、小柄で、化粧っ気がないせいか幼く見え、ショートボブの頭に乗せた帽子や鑑識官の制服がコスプレのように見える。
「はい! 荒子麻美です。よろしくお願いします!」
麻美はピシッと敬礼した。
「あぁ、よろしく……荒子?」
「ははは、そうなんですよ、納屋橋課長」
麻美の後ろにいた、熟年の男性鑑識官が言った。
「僕の娘です」
「荒子さんの」
納屋橋は、麻美と荒子鑑識官の顔を見比べた。
「似ているな」
「え、そうですか?」
麻美は驚いたような顔をした。
「ところで」
納屋橋は話しを遮り、本題に戻した。
「この手口は……」
納屋橋は、荒子鑑識官の方を見た。鑑識官は丸い眼鏡を外して言った。
「やはり、あの時と同じでしょうか」
納屋橋は返事をせず、何かを考えるように口元に手を当てて俯いた。
「先に起きた他の2件は?」
「はい、全く同じ手口です。地下街と、その付近で殺害されていました」
納屋橋は再び遺体の方に視線を移した。
「3年ぶりですね」
荒子鑑識官が言った。
「あぁ、地下街の辻斬りだ」
納屋橋は立ち上がった。
「EV機動隊(エボルヴァーの使用を許可された特別な機動隊)を呼べ。錦を中心に地下街の出入り口に配置しろ」
「はい!」
刑事の1人が、走ってシートの外に出て言った。
「柴田、私のエボルヴァーを用意しろ」
「おぉ、とうとう伝説の百人斬りの納屋橋の姿が見られるのですね!?」
柴田は両手を胸の前で組んで瞳を輝かせて言った。
「おい柴田、それでは私が人殺しみたいじゃないか」
「え、違うんですか?」
納屋橋は手袋で柴田の頭をはたいた。
「あいてっ」
「馬鹿言ってないでいくぞ」
「はいぃ」
納屋橋たちは、シートの外に出た。
「柴田、捜査本部はお前が指揮を取れ」
「はい、納屋橋課長は?」
「私は地下に潜る。何か進展があったら報告しろ」
「自由な捜査一課長ですねぇ」
「お前に言われたくない」
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