懐宙時計
消えかけた祈りの浴衣は 次にはためく風を待ちわびて
ぐらついた足元を
採光に行き詰まった私の指先を 惨たらしく
薫り、吹き抜けていく夜空の味は
僅かだけれど あの日のラムネの味がした
遅い、まっすぐに進めない
いつまでももげた翼に 気づくこともできずに
俯いた私を助けてくれるのは誰
焦げ付いた縁石の熱に 火傷した日はもう遠い
ぶらついた右腕を繋ぎ止めていたのは何
どこかに行ってしまった ひらひら舞う蝶のような温もりは
伝えるべき
私には無理だったその先を
視ている世界は きっと鮮やかに
散って
血を垂らしたアスファルトに 貴方の影を踏み潰して壊した
朝まで歌った帰り道 伸びた分身が黒く嘲笑う
ふらついた人格を舐める 怒らせ上手の食いしん坊は
最高に息詰まった私の喉元を 惨たらしく掻き切って
写り、移りゆく刹那の遠吠えは
微かだけれど 貴方の背中の色だった
浅い、膝までも浸かれない宵の
あくまでも離れた
新しい空気に入れ換えるのは誰
はしゃぎ回った砂浜の熱に 浮かされた昼はまだ白い
かさついた
かつての僕らのように くつくつ沸かしていた慕情は
ぶつけるべき想いを
私のね 手帳の角には
いまでも貴方の名が 鮮やかに
舞って
さようならは、綺麗な月の下で
もう枯れた、万華鏡のような光
溢れる一人芝居、雫、群青
ひとりぼっちでガラスケースに詰めた 煌めく二人の
夢の
重なったあの音に 近づける日はもう来ない
ざらついた格子に這わせていた指はいま
進みすぎてしまった がらりらり振り鳴る
敷かれざるレールに従わせて 針の行方を歪めたのか
私には無理だった
奏でていた世界は とうに鮮やかに
去って
私には無理だったその先を
視ている世界は きっと鮮やかに
散って
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