07/19/23:00――ギィール・物事の想定範囲

 叩きつけるような雨が頭上から降り注ぎ、森の入り口では木木がその音を増加させる。大木に背を預けてはいるものの、全身は濡れていて。

「んあー、濡れすぎると服が重いー」

 と、サラサはうんざりしたような表情で、座ったまま膝の間に顔を突っ込んだ。

「はは、まあ仕方のないことですが……」

「――ん? ああ俺? 問題ないよ、この程度なら。環境の変化への適応能力は叩き込まれてる。〝不快〟っていう感情そのものが欠如してるみたいで、ちょっと嫌だけどな」

 この場には、三人しかいない。フルールには一度、戻ってもらったのだ。どうせ夜には休むのだから、と。

「それと先に言っておく。俺、暗いと眠れないから」

「あーやっぱり? 前にじーさんとこで逢った時も、寝てなかったよね、夜」

「まあね。躰がもう、明るくないと眠れなくなってるんだ。普段はだいたい、昼寝をしてるくらいだけど」

「……それは、いえ」

「いいよギィールさん、生活環境だから。師匠に拾われる前までの俺は〝そういう〟生活をしてた」

「そうですか……」

「はは、詳しくはまた話す機会があるんだろうけど、一応言っておく。ギィールさん、今想像したことは〝甘い〟からな。唯一、コウノさんに褒められた部分だ、そういうもんだと思ってくれ」

「境遇はそれぞれだもんね。……ギィールは、まだ?」

「どうでしょうか」

 星も出ていない空を見上げて、思うのは発端だ。

「武器が嫌いで、どうにかしたいと足掻いた結果が今だとは、思いたくありませんが」

「そうじゃなかったのか?」

「ああいえ、最初は受け流しを独自で覚えて、武器を持った増長した人を倒したんですけどね。そこでカイドウさんとシュリさんに拾われて、サギシロさんのところで世話になったのですが」

「ああ、なるほどな。だから武器破壊系なんだ」

「突き詰めてみろと、言われたので。今は〝嫌い〟という感情はないのですが――」


 そこで、言葉を切って。


「どうなんでしょうね」


 やはり曖昧な言葉が出てしまう。


「自分は、ただ囚われているだけなのかもしれません」

 ゆっくりと、腰裏にあるナイフを、引き抜く。

「……ああ、それ。やっぱ抜かないんじゃなく、扱えない方だったんだな。いつ使うんだろうって思ってはいたけど。〝四番目〟――の、残骸か。カタチだけは残したんだな」

「あれ、知ってんのチィ」

「エグゼエミリオンだろ? 現存する五本の内、四番目までは散らばってるし、所有者もそれぞれだけど、最高峰の刃物だから特性まで頭ん中に入ってるよ。今はもう、そうなっちまった――ってのは、サギシロさんの関係だろ。となると〝全部〟そうなんだろうなと」

「博識だなあ」

「情報は命を握るって言うから、それなりに集めてるんだよ」

「チィマさん、自分の体術にはナイフなどの相性が良いと言われたことがあるのですが、想像できますか?」

「……誰が言ったんだ、それ」

「レーグさんです」

「雨の御大か……失言だろ、それは。あのクソ野郎、何を考えてやがる」

「おー、珍し。チィ怒ってる?」

「ん、ああ――まあ、半分は。野郎に関してはちょっと、遠慮がないっつーか、大きなお世話をさせられたっていうか……いや、これもまた、いつか話すよ。ともかく、相性が良いっていうか……俺としては頼むから使うなと言いたい気分でもあるんだけど」

「なんか曖昧じゃん」

「まあな」

「自分にも、あまり実感がないのですが」

「環境次第って部分ではあるんだけど……相性が良すぎるんだ。得物は手の延長なんて言うけど、ナイフなんてのは手そのものだ。牽制なんてのは話にならない。間合いを詰めさせたら〝終わる〟ってな……こいつは極端じゃなく、肩に触れられただけで〝心の臓〟を失ってる」

「あー…………うわっ! ほんとだ!」

 想像してみたのだろう、驚いたようにサラサは飛び上がって立ち、きょろきょろと左右を見てから、ゆっくりとまた腰を下ろす。

「あーびっくりしたー。ちょっとギィール、想像しちゃったじゃん!」

「いえ自分にそう言われても……それに、やはり抵抗があるので、今はまだ」

「それでいいとも、思うけどな。ただ――なんつーか」

「なんでしょう?」

「あくまでも俺の考えなんだけどな? ギィールさんの体術そのものは、ほとんど完成の領域にある。対武器破壊っていうものだろうけど……ただ、弱い部分もある」

「あ、興味ある。チィならどう戦う?」

「今のギィールさんなら、遠距離で〝足〟を封じてから接近戦に持ち込むよ。まあ初対面じゃないから、この説明だと齟齬が出るけど――近距離が苦手っていう〝勘違い〟を誘発させておいて、ぎりぎりの隙間から踏み込んできたら、そこを〝抜く〟のが手っ取り早い」

「ちなみに、その理由をお聞きしてもよろしいですか?」

「ん? だってギィールさん、接近戦闘で〝封殺〟されたこと、ほとんどないだろ。そこらの経験不足もあるし、何よりナイフと違って致命傷を避けやすいからな」

「確かにそうですが……」

「それできるの?」

「まあ心理戦を含めて、やろうと思えばでき――ちょい待った。あのな? 一応言っておくけどな? 俺はどっちかっていうと椅子に座って研究メインの魔術師で戦闘専門ってわけじゃないからな⁉ そこんとこ勘違いすんなよ!」

「あーはいはい。知ってる知ってる」

「ちくしょう!」

「そう言ってはいますが、戦闘慣れは随分としていますよね」

「そりゃ魔術師だって、戦闘できなきゃ生き残れないって部分もあるんだ。師匠なんかその典型だし……だからって戦闘系に括られると俺は困るんだよ? まあ、なんとかするけど、戦闘系になろうと思ったことはないっつーか」

「え、ギィールを封殺とか言ってる時点でちょっとおかしいけど」

「あー、あーなんだろ、あー、コウノさんたちがよってたかって遊んだの、この結果をわかってたからって気がしなくもなくて、あー、あれだ、今度殴ろう」

 それができればいいが、コウノが生きている内はたぶんできない。

「どうやるかってのは別にして――たとえば、イザミさんが戦闘で一番気にしてることって、何かわかるか?」

「気にすること?」

「間合い――ですか?」

「いやいや、もっと単純で、かつ、根本的なことだ。まあつまり、刀が抜けなくなること、それを一番――まあ、恐れているって言ってもいいかもな」

 極端な話をしてしまえば、そもそも居合いができなければ、楠木としてはやっていけない。

「あ……そゆこと?」

「なるほど、だからこそ戦闘系ではないと?」

「理解が早いなあ、さすが。いやまあ、腕比べとか、そういうのはどうもね。戦闘技能でやり合うんじゃなく、俺の場合は目的が〝そこ〟なんだ。まあ簡単に言えば封殺ってことなんだけど――そこまでに必要な技術は身に着けよう……っていうかね、もうあのコウノさんとかね、否応なく身に着いたっつーかね……」

 ちょっと落ち込みそうだった。

「よく言っていますが、それほどですか?」

「俺、魔術師だって言ってんのに、今日は魔術抜きでなー、とか言って、コウノさんや師匠、コノミさん辺りだと、あっさり術式封じされるのな。解除してみろってことなんだろうけど、んな時間ないし。マジで嫌だったから森に逃げたことが何度かあるんだけど、あの人らの追い込みが半端ねえんだよ! なんで逃げた方が楽しそうなんだよあいつら!」

 だが、逆に言えば、それでも生きられるだけの実力は備わっている証左でもある。

 小さく苦笑した瞬間、雷鳴が轟いた。

「だいぶ風も出てきていますね」

「――あれ、そういや話してなかったっけ、俺。今日は〝竜巻注意〟だ。この感じだとデカイのが来る」

「作るのですか?」

「はは、まさかそんなことはしないって。ただ誘導することくらいはできる。……んだけど」

 どうしたもんかと、チィマは頭を搔き。

「思ってたよりも規模がでかい。そろそろ来るんだけど、どうしようか」

「……え? 呑気にしてる場合じゃなくない?」

「まあ、うん、そうだな。あーほら、ほら、木が倒れる音が聞こえてきた」

 雨の音に負けないよう、みしみしという音色が届いた直後には、地鳴りのような音を立ててどこかで大木が倒れる音がした。

「あははは」

「笑ってる場合じゃないって! どーすんのチィ!」

「とりあえず、避難場所くらい作りますか。チィマさん、誘導は?」

「志向性を与えるだけだし、難しくはないよ」

 立ち上がったギィールは森の入り口から外に出ると、振り返るようにして一度確認する。


 ――夜だというのに、空の色が〝濁って〟いた。


 深呼吸を一つ、距離が空いているのを確認してから、拳を握ったギィールは右腕を振りかぶり、まっすぐ振り下ろした。


「――っ」


 拳があたった場所から周囲に、この雨だというのに煙を立てるほどの土砂が舞い上がった。感覚としては水を吸った土に対して〝重い〟という一言。〝暴〟と〝包〟の応用だが、三人が入れるほどの穴ならば問題ない。深さは1メートルと少しなので、躰を倒さなくては入れないが。

「結界張るよー」

 横からするりとサラサが中に入り、印を組む。いくつかの術陣を地面に手早く描いたチィマが入ったのを確認してから、最後にギィールも中へ。広さはあるので、触れ合うほどでもない。

「手早い対応だなあ。あと八秒くらい」

「や、もっと早く言ってよ」

「どう対応すんのかなーって思ってな。悪い悪い」

「うっわ、音が凄い」

 近づいて来る気配が強くなるたびに、サラサは違う印を組む。

 やがて、大声を上げても届かないほどの轟音が、頭上をかすめるようにして、移動していった。軽く目を伏せるようにしていたチィマが、しばらくしてから顔を上げ、もういいよと言う。

「外に〝眼〟を置いていたからな。方向も敵陣に向かって行ったし、多少は騒ぎになるから、夜間の準備もおぼつかないだろ」

「……いつからですか?」

「ん? ああ、今朝からこの展開は予想してた。ここらの気候は頭に入ってるし、経験もしてる。……ま、実は作る手段もあった。軽く発生に干渉はしてるしなあ。自然現象で散らすのは効果的なんだよ。敵にやられたんじゃなけりゃ、散った後も〝集まろう〟とする。疲労を抱えたままね。俺一人の場合だと、さすがに〝ここ〟からの進軍は難しくなるから、アレを追うようにして夜間行軍をしていただろうな」

 ひょいと穴から顔を出せば、先ほどまでいた森が、半壊していた。

「ヒュウ、こりゃいい。どうせ通り道だ、ベースでも作っちまおう。手伝えるか、ギィールさん」

「野営はよくしましたが、ベースを?」

「倒木を利用して屋根を作れば、即席の休憩所だ。簡単なもんだし、地面の傾斜を使えば雨水だって流れる」

「やるなら早くー、私もう眠いー」

「はいはい、姉ちゃんはそこで寝ててもいいから」

「あ、じゃあそうする」

「……ちなみにあんな感じ?」

「ええ、いつもそうです。逆に手がかからないので良いのですが」

 森の入り口付近にある木を動かし、あるいは手ごろなサイズに切断しつつ、屋根は小枝などを使って整える。

「これから先、どうなりますか?」

「それは想定ってことでいいんだよな。んー、まあ障害になるような相手じゃないし、この戦力だけで充分進めるよ。気を付けることは一点だけ」

「一点、ですか。自分には多くあり過ぎて、一体どれなのかわかりませんが……」

「〝残党狩り〟に、ならないよう場面を過ごしていかなくちゃいけないって点だ。そうなると、戦力というより手数の問題になっちまう。俺らにとっての弱点は、手数が少ないことだってのは、もうわかってるだろ?」

「ええ確かに、その通りです。しかし……〝戦略〟に関しては、どうやら随分と劣っているようだと、痛感していますよ」

「んー、そんなに難しいもんじゃないけどな」

 先ほどの穴よりも、やや広い感じの屋根ができた。基本的には屋根だけ、というのは、周囲を見渡せるようにするための配慮だ。もう随分と濡れてしまったが、それでもまだ雨は降り続けているし、土の中よりは落ち着く。

 チィマがサラサを運んでから、改めて口を開いた。

「たぶんギィールさんにとっては、悪い癖なんだろうな。ちなみにイザミさんやコウノさんの場合は、あえて、そういう選択をしてるんだけど――闘技場で戦った時、ギィールさんは最初に何をやったか覚えてる?」

「……試し、ですね」

「そうそれ。牽制って言えば聞こえは良いんだけど、はっきり言ってイザミさんレベルだと、それじゃ〝遅い〟んだ」

「それは〝一手〟の話に繋がりますか」

「ああ、それが核心。はっきり言って、俺もイザミさんの一手には対応できない。俺の中で手の早い術式を使っても、せいぜい二手……か、三手くらいは使う。そうでなくとも、牽制をすると見切られるんだよな」

「こちらの実力を、ですか」

「そう。ちなみにこれ、どんな相手でも同じだからな。まずいと思った相手は、全力で逃走に意識を向ける。逃がしてもいい相手ならともかくも――」

 なるほど、確かに、逃がしてはならない相手に、全力で逃走されては厄介だ。

「だとしたら、どうすべきなのですか?」

「これ、あくまでも俺の感覚だけどな? まず状況確認。相手を倒すのか、捕獲するのか、殺すのか……ま、いろいろある。その〝目的〟に順じて行動を決めるわけ」

「失礼。その時点では相手のことは、何もわかっていないと、そういうことですね?」

「というか、だいたいそうだよな」

「まあ、そうですが……」

「だから〝ケン〟を鍛えろってことだろ。できれば見た瞬間、相手よりも早くそれを知らなきゃならないし、対応しなくちゃいけない」

「……理想では、一歩目ですね」

「その通り。ようと、気軽に声をかけるようにして一歩、その一歩目から捕獲か殺害か、そういう目的が決まってないと、次に繋がらない。更に言えば、そのためにどうすべきか――相手の実力、判断、対応、そうしたものを全部ひっくるめて〝把握〟できないとな。あくまでも理想だけど」

「チィマさんは、どうですか?」

「んー、どうだろ。速度に関してはともかくも、あー……わかるか? 状況ってさ、目的が一つだとは限らないし、その目的までの道筋も一つじゃないだろ?」

「……なるほど、ようやくわかりました」

 戦略と言ったのはギィール自身であり、その差はこの一日で嫌というほど感じた。

「想像力、あるいは想定範囲。どのように行動すれば、どのような結果になり、それがどのように変わるのか――」

「経験も必要だけど、相手の人数に関わらず、日常的にやってれば鍛えられるよ。表には出さないけどな」

 だがしかし、困ったことに。

「コウノさんはなあ……」

「ん? どういうことです?」

「いやあの人、その〝想定〟がどこまでできているのかまで、挨拶ついでに〝見抜く〟んだよ。どうかしてる。ああくっそ……! そりゃ五神くらいあしらうよなあ!」

「はは……もう随分とご高齢ですが、そうですか」

 それは確かに、頭を抱えたくなるほど厄介だ。

「というか、勝ちたいのですか?」

「んー、勝ちたいというか、今までの恨みを晴らしたい? 俺、コウノさんを首だけ出して地面に埋めたら、すげー気分良くなると思うんだよな!」


「――俺が死ぬまでにやれよ」


「うおっ⁉」

「コウノさん……!」

 ひょいと、真横から顔を見せたコウノは、煙草に火を点けてこちらを見た。

「あーびっくりした……何してんだよ、コウノさん」

「ん? ……暇だったからな。というかチィ、ギィールやサラサに合わせる必要はないだろう。煙草いるか?」

「合わせるっつーか……まあそうなんだけど」

 ひょいと外に出たチィマが外套の表面を撫でるようにすれば、一気に服が乾く。煙草を受け取る姿に、違和――そこでギィールは気付いた。

「お二人とも、この雨の中なのに濡れていませんね」

「術式でどうにかできる範囲なら、こんくらいはね。ほら、行軍中にこれやると、姉ちゃんが羨ましがって、やれって言うだろうから、やんなかっただけで」

「はは、確かにサラサ殿ならばそう言うのでしょうね」

「この場は任せておけ、チィ」

「……ん?」

「聞こえなかったのか?」

「聞こえてた。すげー嫌な予感もした」

「煙草やっただろ、それを言い訳にしてもいいぞ」

「くっそう! そりゃ確かに、そろそろ〝仕込み〟もしとこうとか、そういう算段をしていたけれども! けれどもね! ああくっそ、もうちょっと遠回しに誘導とかしてくれないのか⁉」

「……してるが」

「これで遠回しなの⁉ あーもう! いいよわかったよギィールさんちょっと出てくるから姉ちゃんよろしく!」

「あ、はあ、わかりました」

 去り際に、箱ごとコウノは煙草を投げ渡していた。

「……まったく、あいつは」

「なにか?」

「気遣って、多少は遠慮してたんだよ。仕事を取るわけにはいかないってな。ギィール、お前はどこまで見抜いてる」

「見抜いている、と言われても……行軍速度から多くのものまで、管理されているのは気付いていましたし、チィマさんだけならもっと早いのではとも思っていましたが」

 たぶんそれは、サラサも感じていたはずだと、視線を向ければ熟睡中だった。怖いので、もう少し距離を空けておく。

「ん?」

「ああ、寝ている最中のサラサ殿は半分自動的なので、意識も曖昧なまま攻撃されたことが、何度かありまして」

「未熟の証左だ、甘んじて受け入れておけ。ついでに言えば、チィマだけなら倍くらいの速度で進んでる」

「倍、ですか……」

「開始から二十時間で済む。つまり夜明けには〝決着〟するってのが、俺の判断だ。戦略とお前は言っていたが、こいつはただの〝戦術〟だ」

「なるほど、そうでしたか。……しかし、あまりにも慣れ過ぎているような気がします」

「戦場だって、お前らが経験してきた普段の〝戦闘〟を拡大させたものでしかない。基本は同じだ。――つまり、チィの方がよっぽど〝悪い〟やり方を知ってるってことだ」

「悪い? それとも、――エグイ、あるいは酷な?」

「……容赦のない残酷な、だ。生きるためには必要になる時もあるからな」

「コウノさんが教えたのですか?」

「それは本人から、いつか聞け。同行するなら、そのうちにわかる。まあ普段は結構甘いだろ、それも余裕の表れだ。残酷なこともできちまうから、甘くなるんだよ」

「ああ、なんとなくわかります」

 できるけれど、望んでやりたくないのならば、軽い方を選択して穏便に済ませたくなるものだ。

「愚問かもしれませんが、コウノさんも?」

「――はは。知ってるか? 拷問にも〝技術〟が必要だ。教えてやろうか?」

 その笑みを見て、ギィールは迷わずに。

「いえ」

 即座に首を振った。

「必要になった時に、頭を下げてお願いしますよ」

「それでいい。さて、そろそろ休め。周りを気にせずにな」

「わかりました。では、お願いします」

 そう、まだ明日の行軍もある。何もかもが終わったわけではない。

 だったら、休める時に休むべきだ。今回はその言葉に甘えることにしよう――。


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