09/18/10:00――雨天紅音・偽物の転移者

 嘘も方便、なんて言葉がある。

 時には嘘も必要であり、嘘そのものが悪いことであっても、状況の中には使うべき時もある――事実、真実ばかりを伝えることが逆に悪にもなりうる、なんて意味合いだろうけれど、しかし僕、雨天紅音うてんあかねに言わせれば間違いではないものの、ただしそのツケは必ず嘘を吐いた当人へ戻ってくる、と前置したい。

 嘘を吐けば吐いただけ、均衡や整合性が取れているかどうかはともかくも、ましてやそれが嘘だと相手に気付かれなかったとしても、必ず自分に返ってくるものだ。これの性質が悪い時は、往往にしてすぐに返ってくるものではないところだが、それを見越さなければ気軽に嘘など吐くものではない。

 人は仮面をつける。相手によって対応を変えるのは当然であり、それは自然な行動である。正晴もそれと似たようなことを言っていたけれど、否定はしないにせよ、果たしてそこに必要以上の意図を含め、勘違いを誘発させる行為は自然なのだろうか。

 言うべきことを言わず、言わなくてもいいことを口にして、本音を隠しながらも、あたかも本音のように聞かせる。さて、どうしてそんな面倒なことをしているのかと問われれば、つまるところ本音を隠したいからであって、それは僕の真意を悟られないための一手だ。大げさなものではなく、小さな積み重ねであり、それが結果として強い効果を発揮してくれればいい。そのためには、ある程度、僕という本質を出す必要もあるけれど、それによる警戒は、むしろ好ましくもあるのだが、こうした事前の一手に関しては、結果が出ないとなかなか、当人である僕だって半信半疑だ。

 ――まあ、この状況を僕が楽しんでいる、というのも間違いじゃない。人が悪いと言われても、僕はきっと否定できないだろう。

 エンジシニでの生活も一週間ほどが過ぎた。能動的な部分を演出するつもりもなかったけれど、あちこちと歩いて地形確認をした七日間であったことは振り返るまでもなく、現在も継続中である。今日は何度目かになる学区内部の散策だ。生活の中心であり、寮もある学区内部には慎重に慎重を上乗せするくらいが丁度良い。表向きの目的としては授業でもそろそろ受けようかというもので、実際には様子を窺いつつも監視の死角を見定めることが重要だ。

 とはいえ、学区はかなり広い。寮を除外したところで、のんびりと表向きの理由を行いながら徒歩移動を繰り返していれば、一日が終わってしまう広さだ。つまり、この施設全体では目的地を確定させてスフィアで移動するのが一般的であり、僕のようにふらふらしている人間の方が珍しくなる。ここ一週間で迷った時の対処は上達したのでいいが、しかし、この場所では迷わずにいられる方がおかしい。だからこそ、レッドを片手に移動している人が多いのだけれど、生活時間もあるだろう。記憶力と慣れ……だが、しかし。

 頼れるものが身近にある以上、成長はしない。記憶しなくてもいい状況が持続されれば、そもそも覚えようとすらしない。それがここでの〝常識〟だ。

 さておき、調べた限りでは授業科目は相当数ある。まだ決めてはいないが、一般授業ならば無難かと思っているけれど、そこに時間を取られるのも問題だろう。僕が得意――ないし専門にする技術開発系のものならば効率は良さそうだが、僕の正体を察せられるのは避けたい。特に、総合管理課が気付いた時の対処はまだ確立していないのだから、余計なことをするべきではないだろう。もっとも、管理課が既に気付いている――そんな可能性についても、考慮しなくはないが、アクションがない今ならば、こちらも静観すべきだろう。僕はそれほど積極的ではないし。

 支給された所持金には猶予が充分にある。もう十日くらいは大丈夫だろうし、身の回りの買い物以外もそこそこしたが、それでも余っている上、僕はこれといって高い買い物をしたいとは思っていないわけで、さて、どうしたものか。

 生活だけに主点を置くならば、大した支出がそもそもないのだ。食事は学食でなくとも格安であるし、僕はそれほど娯楽に金を使う方でもない。食事ですら我慢せずとも一日一食でも充分なのだから、どうかしている。かつての生活でも、給料をどう使おうかよく悩んだものだ。金の使い方が下手、とも言われたことはないけれど。

 さて、時刻はまだ十時。商店街はとっくに賑わっているだろうけれど、本格的なのは学区の人たちが買い物に出る時間帯だろうし、できればそうした時間に紛れたい。となれば図書館にでも行って調べものでもしようか――そんなふうに、僕は行動に優先順位をつけながら脳内で羅列していたが、それは残念ながら中断された。

「かーくほー」

 間延びした声と共に僕の左腕を掴み、あまつさえ抱きかかえたのはリイディだ。いつの間に――というよりも、その接近には気付いていたため、どちらかといえば、どうしてここにいるのかが疑問なのだが、ぎゅっと握って離さない力から僕を探して確保しようとしていた意志が伝わり、驚きの仕草だけを作りつつも、女性の柔らかい感覚を愉しみながら、僕は口元に笑みを浮かべた。

「リイディ、今はまだ全体で授業中だろう? 正晴だって今日は授業に出るって言ってたけれど、リイディは違うみたいだね」

「にやにや……もうちっと反応してくれても、いいんじゃないかにゃあ。こう、あれじゃよ、うん」

「そうだなあ、邪魔な衣類を脱いでくれる予定があるのなら、そうしてもいいけれど?」

「つまらんぞ」

「リイディを喜ばせるためにいるわけじゃないんだから」

 とはいえ、僕は充分に喜ばせてもらっている。巨乳の部類は苦手だが、並みよりも少しあるくらいのボリュームはなかなか感触が良いものだ。しかも、僕よりも小柄というポイントがまた良い。つまり好みのタイプに分類されるのだから、嫌なわけがない。僕だって男だ、そのくらいは思う。

「アカよ、お主暇かね」

「嫌な予感がするなあ。暇じゃないと言いたいところだけれど、状況がそれを許してくれそうにないね。何かあった?」

「あたしの研究室にご案内」

「へ? ――うん、まあそれはいいけれど、リイディは技術研究部だったよね。個人の部室があるの?」

「部屋は余ってっからねえ」

 こっちじゃこっち、と先導するのではなく僕の腕を引っ張る。バランスは取れているが少し歩きにくい――が、望むところだ。僕はきっとこの感触を忘れない。

「にやにや、お揃いじゃのう」

「そういえば、そうだね。このセットはリイディの選択だったから、どちらかといえばリイディが合わせたんじゃないかな」

 僕はあまり服装に詳しくはないけれど、全体としてみればこれはワンピースになるのだろう。丈の長居スカートで、手袋とソックスまで指定された。リイディの方がぱっと見た感じ、濃い色合いだが、色違いだからこその似た格好だ。ペアルック――である。

「どおだい?」

「服のことなら、不具合は特にないかな。ただ歩幅を気にしないとひっかける可能性について、留意しているよ。そのくらいかな」

「そっちじゃなくてえ、生活には慣れたかなあって」

「まあ、それなりにね」

 そもそも、この施設での生活において、生きるために必要なことは限りなく少ない。それを認識できた瞬間に僕はどうしようもなくあきれ返った。全てを否定したくもなる。こんな現状では、ただただ楽なようで、生きる実感などなく、こんな状況を作り上げた人物に不信感しか募らなかった。

 それでも僕は思考を顔に出さず、小さく笑った。

「心配してくれたの?」

「アカよりもハルの心配よねえ、これは」

「これでも正晴のお蔭で助かってるよ。ところで、これを聞いていいのかどうかわからないんだけど、そもそもリイディと正晴はどういう関係なの?」

「肉体関係はないねえ、あたしの趣味じゃあないさあ」

「ああ、正晴は結構シャイなところあるからね。女性に対しては、ああ見えて奥手なんだ」

「アカは慣れすぎだにゃあ」

「そう見えるなら眼科をお勧めするよ。さっきから鼓動が高くてね、人が来なさそうな物陰を見るたびに連れ込みたくなってるんだ」

「慣れてるじゃないかよお」

 もちろん冗談であり、本気ではない。僕はこれでも紳士なので、まず合意を得るところから初めて、きちんとベッドまで運び、もろもろの手順を踏む男である。

「あれ、スフィアを使わないんだ」

「近いからねえ……にやにや、あたしが捕まえたんじゃなく、アカが近づいてきたのよ」

「迂闊だったのは僕の方ってことか。授業は?」

「授業に出るのも部活するのも一緒だからねえ。あたしはほとんど研究所にいるさあ」

 それで金が得られるのならば同じ、か。趣味が実益を兼ねているのならば、なるほど、授業はどうでもいいのかもしれない。ただし、部活動の場合は一定の成果を出さなくてはいけないらしいが。

 研究室、学校の教室を問わずして扉がある場所は必ずレッドの提示が必要になる。つまり、僕の行動が筒抜けになり、それが日常となっているのだから気にしてはいられないけれど、無自覚でもいられない。まあ細工をしている最中でもなし、構わないが。

 中に入ると扉は自然に閉まる。逃げ道を塞がれた形だが、気にした素振りもなく中を見渡す。僕の部屋を倍……つまり四十畳ほどの部屋で、いくつかのテーブルが壁際に寄せられており、中央には処理用の端末が鎮座していた。温度が少し高いと感じるのは機械が駆動しているからだろうけれど、しかし直感した彼女の研究内容に対して顔をしかめそうになった僕は、躰を揺らすようにして笑う。

「ムードが台無しだ」

「いやあ、今でもあったかどうか審議が必要だよねえ?」

「あははは、それもそうか」

 するりと僕の腕から抜けていく幸運の気配。いやリイディが離れたのだ、くそう、もうちょっと堪能したかったが残念そうな顔などしてたまるか。さすがに僕から抱き着くわけにはいかないし、セーブもしてなかったしなあ。

 移動する先を視線で追いながら、散乱している本を見つける。

「そういえば、ここには書物が紙媒体であるの?」

「そりゃあるさねえ。図書館もあるから行ってみるといいぞう。あ、そこらへん座っていいぜえ」

 それは一体、どこらへんだろう。少なくとも僕には座れる場所は見当たらない。個人の研究室ならばこんなものかなとも思うが、馴染みはない。かつての僕の自室には研究資料などを置いていたけれど、緊急時に必要になるため整理整頓だけは心がけていた。その方が効率も良かったし、整った部屋にこそ隠せるものがあるのだ。

「あたしとハル、ミャアはねえ――利害が一致しているから、つるんでるんさあ」

「へえ?」

 続きを促したつもりだったが、にやにやと笑ったままリイディはそれ以上答えようとしない。どうやら僕の反応を待っているようだと四秒後に気付いたため、中央で稼働している機械から視線を逸らし、別のテーブルを見るついでに、入り口付近を一瞥する。

 ――監視カメラの類は、あるだろうか。

 総合管理課の区画に入った時、目視で確認ができたわけではないため、こればかりは僕の感覚に委ねるしかないのだが、情報が少ないため察することもできない。けれど個人の研究で、これほどの資材を投資しているのならば、管理課が警戒しても良さそうなものだが……映像や会話記録はさすがに御免被りたいものだ。

 ちなみに、これはいわゆるサーバマシンであり、情報処理と統括をしているものだろう。ほかのテーブルにある物品だけで、僕はリイディの研究内容を推察できるほどの知識は持っていないが、それを補完する形で書類や本の類から情報を得られる。

「リイディは、どんな研究をしているの?」

「そうだねえ……アカは、どうだい? このエンジシニについての感想は?」

 過ごしやすく快適だ――と、正晴を相手にしていたのならば、ごく自然な返答を口にしただろうけれど、リイディが一筋縄ではいかないことを僕はよく知っている。思考が被る、という現象はつまり同類だからこそ発生するものであり、ならばこそ、凡百な返答よりもむしろ意表を衝くくらいの言動をした方が効果的だ。

 だから。

「――頭にきた」

 僅かに表情を消すように断定すると、口元だけで笑みを表現して、やや挑発的に思えるくらいな態度で両手を広げ、半歩前へ移動するように主張する。

 けれど、あくまでも、本音を晒すことはなく、だ。

「そう答えればリイディの興味を惹けるかな?」

 その一瞬の間に、リイディはいつも笑っているような表情を消した。あれが僕と同質の仮面であることは知っているが……驚き、あるいは警戒にも似た顔はすぐに元へ戻る。

「いいねえ、本当にそうなら惹けるかもねえ」

「でも、なんでそんなことを?」

「どうして頭にきたのかを説明はしてくれないんだねえ、アカや」

 今度は僕が黙る番だ。口元に笑みを作りながら、眼鏡の位置を正す。お互いにいろいろと探っている最中だ、という状況を意識して作り出すためである。僕が日常的に行っていることを露呈させたかたちだ。お互いにお互いが反応を偽りながらも、何かを引出そうと企む――が、いやいやしかし、笑ってしまうほどに、改めてリイディに伝えたりはしないけれど、僕にとってこれは遊びの範疇だ。こんなものは探り合いとも言えない。彼女にとってどうかは知らないけれど、訓練にもならない。

「――時間は常に不可逆である」

 話が少し変わった。さきほどの僕と同じ行為だ。

「聞いたことがあるね。誰か、偉人の言葉だったかな?」

 あははは、我ながらとぼけたことは言っているが、これは即答だ。こんな状況の可能性については充分に考え、対策を練ってあるけれども、しかし対策していると思われては本末転倒だ。会話には押し引き、左右への揺さぶりは基本である。

「知らないのかい?」

「知っているよ。この中央の機械が、いわゆる情報処理端末だってことくらいはね。しかも、かなり大規模だから、管理課に睨まれそうだと思っていたところだよ。かなりの処理能力がありそうだ」

「話を逸らしたいのかねえ」

「なるほど? リイディは人が過去へ戻れないと思ってるんだ?」

 本題に戻す、か。僕ならば相手の会話に乗って、何を誤魔化そうとしているかを見定めようとするけれど、こういう小さい情報から、リイディが交渉の専門でないことは窺える。それすらも擬態ならばたいしたものだ、多重人格を疑いたくなるレベルだが。

「アカは戻れると思ってるのかい」

「人は、過去へ戻れるよ」

 近くのテーブルに近づいた僕は、軽く尻を乗せるようにしてリラックスした体勢になる。表情は苦笑へと変えた。

 座った付近にある書類から、時間歪曲による転移関係の専門用語を発見し、僕は予想から確信を得て、あたかもそれを知っていたかのような素振りを見せる。さて、情報開示のレベルには気をつけようか。

「もう一度言おうか? 人は過去へ戻れる」

「時間が不可逆なのに、かねえ」

「それは否定しないけれど、だからって戻れないと考えるのはどうかしてるよ。だって、過去はそこにあるじゃないか」

「過去なんてものはないねえ。形而上のものであって、人は現在に生きて未来を見る。過去はただ、そうであったという記録で、人為的な記録はそもそも証明ができない。人は過去を振り返るけれどねえ、あたしに言わせれば振り返って見えるのは己だけだぜえ」

「だから、見えるんだろう? 過去は人が記憶するものだ。だから都合よく改ざんし、酷い場合には過去に浸る。――現実から目を背けて未来を拒絶した結果は、ただ己の中に埋没して、記憶の海に意識を委ねることだ。それは過去へ戻ることでもある」

「でもそれってえ、――死んでるのと、同じじゃないか」

「そうだね」

 だからまあ、戻れると肯定しながらも、結果的には否定の意味合いを持っていたと、ここで証明してしまったわけだが、まあいい。転移技術の本質からはかけ離れている。リイディはそこに気付いているけれど、追求されても誤魔化すのは可能だし、こんなのは一般レベルの思考開示だ。僕という本質には届かない。

「けれど、リイディは戻れないと、そう思っているんだね?」

「戻れないねえ。矛盾の解法がどうのってことじゃあないんだぜい」

「それでも実際に〝戻って〟いる存在がある以上、疑わずにはいられないなあ。一体、彼らはどうしたんだろうね?」

「口が過ぎるぜい」

「そうかなあ」

 管理課に筒抜け? この程度の疑問を抱ける人間がここにいないのなら、それこそ大問題だ。僕にとっては致命傷にも等しい。

 それにしてもリイディが最初か……ううん、正晴も古宮も、どうしてか僕に対しては踏み込んではこなかった。一線を引いているようにも思える。その理由はおそらく、僕というキャラをまだ把握できていないからだろう。日常会話では失敗していないし、気軽に話しかけられるよう配慮しているものの、だからこそ、ぎこちない――否、どこか不安定な部分が見えてしまっている。特に正晴は観察が上手のようだし、僕の曖昧さに首を傾げているのだろう。

 だから、似たような部類のリイディが最初にアタックをしかけてみた、ということか。接触よりも先に僕が三人を調べているとは思っていないらしい。もっとも、完全に裏を洗えたわけでもなし、確証は得ていないのだけれど、三人はどうして、管理課に含むものがあるようだ。

 敵意か、背信か、それとも――接触や迎合か。

「どちらにせよ、管理課っていうくらいだから、ガードは堅そうだ」

「そうなんねえ。あたしは管理課に睨まれてっから、派手な行動もできなくてさあ」

 だからといって地味な行為だけでは、これだけの据え置き端末を保持できないだろうし、それらも黙認されているのが現状のはずだ。となれば最初から、管理課とある種の協定を結んでいると考えた方が自然で、現実的だ。

「こんな端末を作ってれば、何を企んでいるんだって思われるかもね。――ところで、誰の言葉だったっけ?」

「ああ、あれはねえ、転移装置の開発者の湯浅つじって人の言葉だよお」

「そうだっけね。図書館にでも行けば、そういう記録も残ってるかな?」

「二○五○年くらいまでなら、だいたいはあるねえ」

 だいたいってことは、やっぱり意図的に削除されているものもあるわけか。そのあたりは管理社会なら絶対であるため、わからなくもないが、暮らしている人たちが情報交換でもすれば――ああ、なるほど、転移元の時代を話したいと思う人間などいないか。

 あるいは僕がそうであるように。

「じゃあ、リイディは転移装置の研究をしているの? それとも、ただの引用?」

「している、なんて言えないさあ。ただ不可解な点が多いからねえ、過去へ戻れない証明もしてえし」

「でも、これは部活動だ」

「レポートを提出してそれに見合った報酬を貰ってるねえ。一応は、生産区の技術開発の下請けになるんかねえ」

 興味はあるかと問われ、あるにはあるけれどと僕は曖昧に笑う。

「まだ、どうするかは決めてないんだ。リイディと一緒に研究ってのも、面白そうだとは思うけど」

「けどお?」

「研究そっちのけで、ずっとリイディを視線で追いそうだから、さすがに難しいんじゃないかな」

「ぎりぎり、ハラスメントだぜえ」

「おっと、ごめん。言い換えるとつまり、魅力的な人間であるいは僕のものにしたくなる。歯止めが利かない状況は作りたくないから考えさせて――ってことだ」

「ハラスメントがなければ惚れてたねえ」

「そりゃ残念だ」

 残念だよ、本当にね。

 ――リイディ、今のままじゃ僕のことは決してわからない。

 そんなどうでもいい結論を抱いてしまったことが、何より残念で仕方ないよ。言い換えれば、僕は君に対して、これ以上の興味を抱けそうにないからね。


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