フェチC 本を後で返す

 俺様は、すぅぱぁK。金色に輝く煌きの河童だ。「フェチの会」という崇高な嗜好を持った集いの長をしている。本来ならば、ナレーターが語るべきところを何故俺自身でやっているのかというと、答えは単純だ。フェチの会に奴好みの女の子がいない。たったそれだけの理由で自らの使命を放棄しやがった。ふざけ過ぎだろ。最終Seasonなんだし、最後まで責任持ってやって欲しいものだ。とは言っても、聞く耳を持たないぐらいには奴も頑固だ。ここは仕方ない、辛酸を嘗め回して、堪忍袋の緒を大切にして…俺、頑張っから。超頑張っから。

 ということで、俺は壊滅寸前のフェチの会を再建すべく、新メンバー探しの旅に出た。野を越え山を越え、海は越えなかったけど谷…山は毒虫と熊がいるからちょっと行きづらかった。ん?でも山越えたって言ったよな俺?あれぇ…?じゃあ、谷も越えたってことにしておこう。うん、そうしよう。さて、その旅の過程で早速一人の頼れる供を見つけたわけだが…おっ、噂をすれば、情報収集から帰ってきた!空から、俺の前に上機嫌そうに降り立つ一羽のカラス。体の大きさは人間の大人ぐらいで、頭に一本のアホ毛、目の周りに青い模様のついた怪烏。人間のような顎と両手腕、両足脚を持ったこの男こそ、フェチの会一の障害突破スキー、Ω九郎オメガくろうだ。羽を使った広範囲移動と鷹にも劣らぬ鋭眼を見込んでスカウトし、俺の崇高な志に賛同してくれたため、今はその特性を生かしてフェチストたちの情報を集めてもらっている。奴の浮かれた様子を見れば一目瞭然、どうやら新たなフェチストの存在をその瞳に捉えてきたらしい。さすがは俺の見込んだカラスだ。

「へいブラザー!一体どんなフェチストを見つけてきてくれたんだい?」

「へいブラザー!一体どんなフェチストを見つけてきてくれたんだい?(Kちゃん!聞いて!施錠破りゲームで遊んでたら、近くで時代劇撮影してたみたいで、マゲのお兄さんと天狗面の忍者さんにバッタリ会っちゃって、勢いで握手してもらっちゃったわ!!)」

「何!?そいつは本当か!…図書館の本を返却したがらない…実に素晴らしいフェチズムじゃないか!」

「何!?そいつは本当か!…図書館の本を返却したがらない…実に素晴らしいフェチズムじゃないか!(うふふ、Kちゃん時代物好きだものね!でも見たことない役者さんだったから多分新人さんだったのかな?Kちゃんにサイン貰ってきてあげようと思ったけど、不慣れな子に無理を言うのは可哀想でしょ?代わりに、『応援よろしく!』ってマゲの美青年君がアピールしてきたから、ホッペにチュッしてあげて、そしたら私の方が恥ずかしくなっちゃって、逃げ帰ってきちゃった!!キャー!!だから、Kちゃんにサインの代わりじゃないけど、間接キスをあ・げ・る!)」

Ω九郎は興奮した様子で俺の頬を嘴で突く。奴がこれほどまでに期待値を持っているということは、さぞ素晴らしいフェチ人格の持ち主なのだろう。すぐにでも向かわなければ。

「ブラザー、そいつの居場所はどこだ!?どこで見つけた!?」

「ブラザー、そいつの居場所はどこだ!?どこで見つけた!?(やだKちゃん!お礼なんて別にいいわよそんな!Kちゃんの笑顔が見れるだけで、私は幸せなの!)」

Ω九郎は首を左右に振って、顔を赤くする…赤くなってるのか、これ?ともかく、場所が分かった以上、すぐにでもスカウトに向かわねば。下手をしたら人助け研究所に成敗されかねない。

「よし、それじゃあ早速、仲間候補のもとへと向かうぞ、ブラザー!」

「よし、それじゃあ早速、仲間候補のもとへと向かうぞ、ブラザー!(Kちゃんがそこまで言うのなら…。分かったわ!それじゃあ新しいアイシャドウが欲しい!あと付けまつ毛!Kちゃん、ありがとう!)」

俺たちは足早に目的地を目指した。

 ゴニョポョ市立図書館入り口にある返却口の前に立つ一人の男。手に持った本を返却口に半分入れては戻し、入れては戻し…を繰り返してはニタニタ笑っている。Ω九郎の情報では金髪ロリ美少女という話だったが…恐らく何かと見間違えたんだろう。誰にだって失敗の一つや二つはある。何より、俺の鼻腔が「こいつぜってーこいつ」と震えているんだ、奴に間違いない。下手に刺激しないようにゆっくりと後ろから近付いていき…。

「わっ!!」

「ひひぃぃぃぃぃぃ!!!」

男は驚いた拍子に跳び上がり、天井に頭を打って気絶してしまった。ふっ、俺に掛かればこれぐらい、朝飯前ってことよ。俺は、首を傾げるΩ九郎と共に、図書館を去っていった。

 結局、今回も新しいメンバーを見つけることができなかったわけだが、俺は決して諦めない。この世に自己中心的なセルフィッシャーの同胞が存在する限り、この俺が大地を踏みしめ続ける限り、フェチの会は永遠に不滅である。

「そういえば、何で図書館に行ったんだっけ?」

「そういえば、何で図書館に行ったんだっけ?(やだ!そういうことは先に言ってよ!いいわよ!お給料日と言わずに、ずっと待っててあげるわ!焦らされるのって、結構好きなの!)」

背を照らす真っ赤な夕日だけが、俺たちを応援してくれていた。





☆今日のぷーたん☆

「ぷぶー!!」


板前修業を始めて早五年、ようやくぷーたんも、カツラムキを綺麗にできるようになったよ。これからも日々精進、滝に打たれて己を磨こうね!


明日はどんな顔を見せてくれるかな?  ぷーたん、またね!

☆ーーーーーーー☆


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る