密書5 人を恨むは筋違い

 閑古鳥鳴く、自然豊かな土地でひっそりと営業を続ける銭湯「釜茹で」。煙突から湯煙を上げる千両箱のような見た目の店の地下では、巨大釜の五右衛門風呂に体を浸し、自称義賊組「頑張励」の面々が、今日もまた、悲しみ苦しむ人の笑顔を取り戻そうと情報を共有し合い、任務を選んでいた。

 モッサリ頭の護衛門は、佑助と持ち込んだ防水性の将棋を打ちながら、仲間の到着を待っていた。二人の対局を見ていたハムスター小娘が、梯子を上る音に気付き、釜の口の方を見やると、凸三の姿を捉えた。ハムスター小娘に彼の到着を告げられ、将棋盤をそのままに、護衛門たちは対局を中止して話し合いの体勢に入った。凸三が湯船に浸かったところで早速会議が始まる。

「そんじゃ、何か気になる話でも聞いてきたやつぁいるかぃ?」

「猫屋敷の…苦情…。」

佑助は頭巾の中からカバーのされた写真を取り出す。写真には、一軒の古民家のあちこちに無数の猫が座っている様子が写っていた。

「うへぇ、なんでぇこりゃ…。」

「これだけ猫が居るとなると、糞尿の異臭とか抜け毛とか…苦情になるわな。」

「近隣住民も困っているだろうけど、この猫ちゃんたちの世話もちゃんとされているのかしら…?」

「死骸が…放置されているとも…。」

「それが事実なら、ご近所さんのためにも猫たちのためにも、早いうちになんとかしねえとな。」

護衛門が木札を手に取ると、佑助が護衛門に開いた右手を向けた。

「佑助、おめぇ自ら行くのか?」

「応…。」

他の二人に目配せすると、二人とも相槌を打つように頷いた。それを確認して、護衛門は佑助に木札を投げて渡す。木札を受け取った佑助は、いつものように頭巾から煙玉を取り出し、握り潰して姿を消し、任務へと向かった。残った三人は、引き続き任務の割り当てを行なう。

「猫屋敷、佑助の報告が楽しみだな。さて、他に何か気になる情報はあったか?」

「俺から良いか?」

「おぅ凸、何か耳に入れてきたのかぃ。」

凸三は、手に持っていた透明なビニール袋に入れた人相書きを二人に配った。そこには小太りに無精ひげを生やした厳つい男の顔が写実的に描かれていた。

「この人は?」

「自分が怒られたり注意されたりすると、ちょっとしたことでもその相手に憎しみを抱いて、周囲を困らせるっつう、何でも逆恨み男だよ。ちょっと気になって遠目に観察してきたんだが…親に噛み付き親戚に噛み付き、友達に噛み付き職場の上司に噛み付き…とんでもねえカミツキガメだったぜ…。」

「ちっと気に食わねえことがあったぐれえで、周囲を目の敵にするたぁふてぇ野郎だな!」

護衛門は立ち上がり、壁に掛けられていた木札を握り締めた。

「わりぃが、今回の任務、あっ!この護衛門様にぃ、まかぁ~せてぇ~もらおぅ~じゃねぇ~かぁ~!!」

歌舞きながら任務を引き受けようとする護衛門。すると、ハムスター小娘が手を挙げる。

「モンさん待って!憎しみを優しさで癒す…ここは私が…」

「いや、今回ばかりは旦那に任せたほうが良い。」

「凸さん?」

「優しさで性分が改まるってぇんなら、とっくに家族や友人の力でこの件は終わっているはずだ。それがねえってことは、つまり優しさでかえって増長したか、もしくは暖簾に腕押しだったってこった。」

「…そうね、家族だって押して駄目なら一旦引く…それぐらいはやってそうだものね。」

「決まりだな。ハムちゃん、やる気の所すまねえが、今回はオイラに任せてくれぃ!」

「モンさん…。ええ!私の分も頑張ってきてね!」

話がまとまったところで、護衛門はハムスター小娘の頭を撫でて、底板を蹴って跳ね、釜の外に出て任務に向かった。


「ちっ、クソジジイが。てめえのことを一生許さねえからな。泣いて謝るまで口も返事もしてやらねえ。結婚して孫の顔なんて死んでも見せてやらねーよバーカ。」

 休日の公園のベンチ、無精ひげに小太りの男が父親への悪態を吐きながら、腕を組んで座っていた。男は自分を少しでも不快にさせた人間に恨みを抱き、何でもかんでも人のせいにする困ったちゃんレベル85だった。そのため、職場の同僚や上司からは嫌われて距離を置かれ、数少ない友人でさえ、そちらから滅多に連絡を取ろうとしなかった。今回のターゲットの見える公園の大木に隠れて、護衛門はしばし観察を続ける。

「坂之上…あの先輩ぶってるクソ上司も気にくわねえ。こっちは真面目に言われたようにやってるっつーのに、揚げ足取るようにここはこうじゃない、あれはそうじゃない…結局てめえは自分より位の低いやつをストレス発散に使いたいだけだろが、クソ。俺のためを思ってるだ?それなら物の言い方に気を付けろっての。横暴な口調しやがって、俺のためなんてぶつくさぶつくさ…」

「ありゃあだいぶ拗らせてるなぁ…。思ってた以上だ。親身になって叱ってくれる人に対してもああいう感情抱いてんなら、説得はほとんど意味をなさねえだろうな。かといって痛え目に遭わせたところで憎しみを深めるばかり。ってぇと、自分自身で考えを改めさせるのが一番か。」

男がしばらく公園に留まることを見越して、護衛門は自分のもみ上げを引っ張った。すると、モッサリ頭が伸びて、公園の公衆放送用のスピーカーに巻きつき、機器に接続。その状態でモッサリ頭に手を突っ込むと、マイクを取り出し、何やら語り始めた。

「これは、災害時等における緊急放送のための試験放送です。皆様の御理解、御協力のほど、宜しくお願い致します。」

護衛門がマイクに向かって話すと、接続したスピーカーから公園中に声が響いた。当然、ターゲットの男の耳にも声は届いており、辺りを見回しながら首を傾げる。男の耳に声が届いたことを確認し、護衛門は言葉を続けた。

「世を憎む損な男の話。」

「ラジオドラマでも始まるのか?…気晴らしにはいいか。」

男はベンチを丸ごと一つ占領して、腕を枕代わりに寝そべって放送に集中した。そのまま眠りこけてしまわないか心配ではあったが、護衛門はお話を続ける。

「昔、あるところに、一人の偏屈な男がいました。親が行儀の悪さを叱れば、『お前らの言い方が悪いから一向に直す気になれない。』と親を憎み、仕事仲間がより良い仕事のやり方を教えれば、『俺のやり方にケチつけたいだけ。立場の弱いものを責めてストレス発散したいだけ。』とまた憎み、彼の素行を心配した友人達の説得にも耳を貸さず、『余計なお節介だ。赤の他人に俺の気持ちがどうして分かる?』と更に憎む。」

「…。」

「人を憎み世を憎み…逆恨みを募らせて、自分に害を成した人間全員にいつか復讐してやろうと黒い野望を抱える男。それを見ていたお天道様は、男を憐れに思い、ある時、声を掛けました。」

「…憐れ?」

「お天道様はそっと語りかけます。『君は可哀想な人間だ。自分に向けられる思いやりを全て、醜い憎悪に書き換えてしまう。』悲しむ様にキラキラとした輝きを弱めるお天道様。」

「書き換える?違う。連中は悪意を持って俺…男に酷い言葉を。」

悪夢を払うように頭を左右に振る男。護衛門は話を進める。

「『あれは思いやりじゃない。言葉の凶器だ!』お天道様の言葉に納得できない男は反論します。『そもそも、行儀を教えたのは親自身。仕事のやり方を教えたのも上司や仲間たちだし、こんな自分の性格を作ったのも友達だ!』」

「そうだ!俺は悪くない!」

「お天道様は、頑なに否定し続ける男の心に光を照らすように、今度は力強く輝きました。『教えを、君の性格に影響を、与えてくれたのは確かに周囲の人たちだ。でも、それを得て、最終的に行動の判断を行なっているのは、他でもない、君自身だよ。』」

「!!」

お天道様の台詞を聞いて、男は起き上がり、顔を俯ける。

「『それは、そうだけど…。』男は返す言葉が見つからず、俯いてしまいました。お天道様は続けます。『都合の悪い言葉を掛けてくる人間が恨むべき対象というなら、そうした声を上げさせるような行動の判断を下した君自身も、恨まれるべき加害者なんじゃないかな。』」

「…。」

男は拳を握って震えていた。大きな溜息を吐いて、思考を巡らせるように一点を見つめる。効果があったことを確認し、護衛門は話を終わりへと進めた。

「お天道様の言葉に、男はすっかり黙ってしまいました。心の整理をする男に、お天道様は、最後に言葉を残していきました。『人を、自分を、憎み続けるよりも、全てを思いやりとして受け取って、自分も含めたみんなが笑顔になれる方が、人生、楽しいんじゃないかな。暗雲を立ち込めるのと同様に、君の心の奥を明るく照らせるのは、最終的に君自身だけだよ。』」

「俺自身の…心一つ。」

「それからというもの、男は、人の注意や助言を素直に聞き入れ、家族や職場の仲間、友人達との交流も深まり、幸せな日々を送るのでした。以上で試験放送を終了致します。御協力、ありがとうございました。」

「…俺も捻くれてた所があったかもな。少し、考え直してみようかな…。」

男はベンチから立ち上がり、空を見上げて呼吸を整えると、前を向いて歩き出し、公園を去っていった。

「頑張れよ!」

男の背中を見送ってから、護衛門は再びもみ上げを引いてスピーカーに伸びたモッサリ頭を縮めて回収し、マイクをしまってその場を去っていった。


 数日後、釜茹での受付で、番頭に木札を渡す護衛門は、笑顔で瓶牛乳を飲んでいた。男のその後を観察して、態度が改まったのを確認したのである。番頭は護衛門の横に並んでコーヒー牛乳を飲みながら、息子の任務の成功を喜び、肩を強く叩いた。

「それにしても考えたな。話を聞かないであろう人間に対して聴く耳を持たせる方法を。」

「人間、退屈な説教よりもストーリー性のある物語の方が、初め自分がターゲットって直接感じることもねえから、まだ飽きずに聞いていられるだろうからな。」

「ちげえねえ!モン坊も、俺の説教が始まるとすぐに眠りこけてたからなぁ。今もだが。」

「そっ、そんなことねぇと思うぜぃ!ただぁ、目ぇ瞑って真剣に聞いているだけで…」

「そうかい、なら今から試しに、親父様のありがた~い説法に付き合ってくんな!」

「ぶふっ!いっ、いけねえ!!会議の時間でぃ!!」

護衛門は牛乳を一気飲みして、瓶を回収箱に置くと、逃げるように地下へと走っていった。慌てる息子の様子に大笑いしながら、番頭はコーヒー牛乳を飲み干した。

 周りの人間の言葉は自分が育つための栄養分として役に立つ。聞かねば知識は増えない、試してみなければ何事も分からないのだ。




☆デイモン・ヨゥディのトゥリービャ☆

やあ、スーパーで普段安くても130円近くのキャベツが一玉90円台で売られていたら、疑いの目を向けつつもついつい大人買いしちゃう健康食志向のみんな!

トゥーリッホァ!!

雨続きで替えのパンツが無くなったら、半乾きでも気にせず頭に被っちゃうお茶目さん、デイモンだよ!

太りすぎて体が重い!運動してないからいざという時にダルい!そんな時って、抜いた鼻毛が眉毛一本よりも長かった~みたいによくあるよね!

デイモンも、毎年春から冬に掛けて、口が寂しくなってはお菓子やパンをペロリンチョ!気付いた時には700tの質量で地を踏み鳴らし、さながら巨大怪獣の気分を味わっているよ!街は壊さないけど、家の床は穴だらけだね!

今日は、そんな悲劇を繰り返さないためにも、飽きることなく続けられるエクササイズを伝授!これで、夏のビーチで視線を独り占め!「ちょっとイイ感じじゃね?」なワガママッスルボデーをその手に掴める!キャーステキヨー!ミディアムよりウェルダン!

その方法が、こちら!一日に5回の筋トレ!たったこれだけでイイ感じにイイ感じ!

詳しく言うと、行なうのは、

①腕立て伏せ:5回

②腹筋   :5回

③背筋   :5回

④スクワット:5回(足を開いて頭の後ろに手を置こうね!)

⑤前屈   :適量

⑥腕伸ばし :適量

たったこれだけ!う~ん、シンポー!!

基本的に各項一日5回ずつだから、ちょっとした時間にできて続けるのが苦にならない!モチベって大事だもんね!

更に時間にチョー余裕がある人は、左右交互に繰り出す正拳突きの素振り50回!なんか修行しているみたいで、強くなった気分が味わえちゃうぞ!俺つえええええええええええええええええええええ!!!!!

日々の運動は健康促進へと繋がる魔法の儀式!みんなも体を動かして、いっぱいパイパイ汗を掻こうね!えっ、たった5回じゃやってないのと同じ?そんなんじゃ痩せるどころか筋肉すらつかないって?

それはそうだよ!楽して大成するほど世の中甘くは無いのさ!

痩せたいなら、まずは間食を断つ!それだけでも大分違うと思うぞ!デイモンはウィークマインドだから、お菓子とパンを手放せないけどね!


次回も、日常でちょっぴり役に立つかもしれない豆情報をお届け!

それではみなさん…

トゥーリッホァ!

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