第10話「笑い方って大切です!特に異性のは!」

昨日は眠れませんでした・・・・・・・

大変でした・・・・

どうにか夜が明けて、外の鳥の声に気付いたアキラさんが寝ていいよって解放してくれましたが、あのままだと私の知識を隅々まで奪うんじゃないかと思いました・・・


魔法の質問をされた後、「実験」と言ってその魔法を使っちゃうんです。

なんか変です!最初のうちは「あれ?こうか?」など言って出来てませんでしたが、3回目から「そうゆう事か」と言って、無詠唱で使い始めました。

普通はそんな簡単に使えません!それも無詠唱なんて!!

コウさんはとても優しくって事前に「疲れたら隙を見て寝てたらいいよ」って言ってくれていましたが、あの間髪入れない質問では寝れません!


アキラさんもコウさんも命の危険となる魔人を連れてきてしまった私とナタリーを許してくれました。

でもいくら魔法を覚えたとしても、負けた私から教わる魔法ではハステルに勝てるとは思えません。


ただ、普通聞いてこないような魔法や、打ち消し魔法を聞いてきたり、ナイフを胸のベルトから早く抜く練習をしたり・・・・一番意味がわからなかったのは魔人のことです。垢は出るのか、排泄はするのかなど・・・・何か策があるんでしょうか?


朝からコウさんはエルフのヴェルダーさんと出かけたみたいで、アキラさんは昨日の夜から実験していた牢獄から出てきません。


ナタリーも昨日は寝れなかったようで、ずっと俯いて座っていました。

あんな悔しそうナタリーは初めて見ました・・・・


村の人たちはこの状況があまり飲み込めていないのか普段通り過ごしているみたいですし、このまま夕刻が来なければいいんじゃないかと思ってしまいます。


ハステル卿との絶望的な力の差。昨日の戦いで、ハステル卿は決して本気ではありませんでした・・・魔法をレジストにしか使っていませんでしたし・・・・・策を弄して何とかなる差でもありませんし・・・・・


あぁ・・・もう終わりなんだね・・・・・でも恋がしたかったな・・・・・


遠のいていく意識に抗えず、私は寝てしまった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「アリアス!もう夕刻だぞ。」


「んにゃ・・いいですよ・・・・私は貴方の・・・・」


ゴチン!!


机に突っ伏して寝ていた頭に衝撃が走った。


「っはぅ!」


「アリアス、コウ様とアキラ殿は準備が終わっていますよ・・・」


やってしまった!!最後の時間を睡眠で終わらせてしまった!!

なんてもったいないことをしてしまったんだろう・・・・


「す、すいません!すぐ出ます!!」


ナタリーと玄関を出ると既にアキラさんとコウさんが笑いながら待っていた。


「遅れてすいませ・・・?」


え?なんでこの人たち笑ってるの?

そんなことは気に留めず「っお!来たか!」とコウさんに声をかけられ、2人は歩きだしていた。


「ナタリー・・・・お二人は何で笑えるんですか・・・・?」


「私ににもわかりません・・・昨日の今日で何も変わりはないのに・・・・」


私たちは置いて行かれないように少し小走りで追いつくと速度を合わせて後ろに付いた。


今日が最後・・・・


少なくとも村に被害だけは出したくない。死んでも守らないと!!!


昨日と同じ場所。昨日と同じ男。


私はデジャヴのように昨日の光景を思い出していました。


「クックックック・・・約束を守るなんて律儀ですね。っで付いてきます?それとも・・・・」


青髪の魔人の顔が気持ち悪く歪む。


「死にます?」


全身に走る悪寒・・・目の前の恐怖に私の足が震え始めました。

横にいるナタリーも唇を噛み締め、額には汗が滲んでいます・・・・


「いいや、死なない。殺させない。」


「!?」


アキラさんが前に一歩出るとコウさんに目配せをしてコウさんを私たちの前に下がらせました。

下がったコウさんは私とナタリーの前に立ち剣を抜くと振り返って笑って見せました。


「不安かな?」


当たり前です・・・・不安どころじゃありません!終わるんですよ・・・・


「コウ様は何で笑ってるんですか?」


この際聞きたいことは聞いておきたいな・・・・・


「あぁ・・・兄ちゃんが笑ってるからかな」


「は?どうゆうことだ?」


あまりの理由にナタリーが声をあげてしまいました。

自分でも驚いたのか、口を手で押さえて目を泳がしています・・・・

それを見てコウさんが笑いながら視線を正面に戻して答えてくれました。


「俺も親父も、あの笑顔の時の兄ちゃんに初見で勝ったことがないんだ・・・・・」


ハステル卿に傷をつけた『異界の戦士』。彼が勝てない人・・・・


私とナタリーは息を飲むと、アキラさんの後ろ姿から目が離せなくなっていました。

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