第95話

「くそがあああ」

 怒り狂った鬼が吠える。

「部分龍化」

 俺は龍の装甲を身にまとう。

 身体強化系のスキルの影響か魔力があふれている。

「私二人に一人で勝てると思っているの!」

「当たり前だ」

「舐めないで!エンチャント『フルアップ』」

 魔女と剣鬼がぼんやりと光り輝く。そして、

「鬼脚」

 剣鬼は俺の目の前に飛び込んでくる。

 魔剣は俺の首を狙っている。

 もう洗脳するとか頭にないのな。だけどな。

「後ろにミアがいるだろがあ!」

「ゲハ!」

 思いっきり魔剣を振りぬいてくる前にぶん殴る。まったく・・・実の親なのに傷つけてどうすんだ。

「なんでこのスピードについてこれんだよ!」

「あ?こんなの止まって見えるわ」

「ぐ・・・!」

 で、魔女は魔女の方で。

「なんで当たらないのよ!」

 様々な魔法を撃ってきていた。しかし、魔力操作が雑だから、すぐにわかんだよ。

 しかも剣鬼に当たらないように一方方向だけだしな。

 さて、

「ミア!」

「え?」

 俺が呼び掛けた瞬間唖然とした表情でこちらを向く。

 縛ってもねえのにさっきから動かねえからどうしたのかと思ったが、大丈夫そうだな。

 全部捌きながら話すのって面倒だが・・・セリスのためだ。

「お前はどうしたい!」

「・・・私?」

「そうだ!いいのかこのままで!!」

「ガアアア!なにいってやがんだ!!!!ミア!!俺のことをてつ」

「うるせえ!」

「ぐふ!」

「ミア!もう一度言うぞ!!!」

「え・・・」

「お前は何をしたいんだ!!魔剣姫ではなくお前は!!」

「何を言っているの、あなたは!」

 俺は問う。剣鬼と魔女の攻撃を全て弾き飛ばしながら。

 ああ、俺はやっぱり昔からそうなんだ。気になり始めたら止まんねえんだよ。


「お前は、一人の女!ミアは何をしたいんだ!!!」

「!!!」


 助けたいんだよ!

「違和感ありまくりなんだよ!!」

「!!」

「今までに強い奴見た時には全部断ってんだろ?」

「それはミアの相手にふさわしくなかったのよ!」

「それがおかしいつってんだよ!」

「ひぃ!!!!」

 余計なことを言う魔女を威圧する。

「たまたま噂を聞いたから?だったら今まででもそういう奴いただろ!お前は、俺の異常な強さに期待したんだろ!」

「っつ!!」

「負けたかったんだろ!」

「な!」

 剣鬼が驚く。そんなこと考えつかなかったんだろ。

 だから、こういう結果になる。でも、やめてやんない。

「負けてどうしたかった!」

「っつ!」

 ミアは拳を握りしめる。

 だが、そんなものは見えていないのか剣鬼が叫ぶ。

「何を言うかと思えば・・・ふざけたことを!ミア!お前は戦いこそが生きがいだろう!」

「・・・私は・・・!」

 ゆっくりと立ち上がるミア。

 くっそ、もう一声必要か・・・セリスにやっぱりいてもらえばよかったか・・・

 と思ったそのときだった。

「おお、わかってくれたのか!さあこっちに「嫌」・・・は?」

 一瞬剣鬼の力が抜ける。チャーンス!

「せい!」

「ぐうううう!!」

「あなた!!!」

 ガラガラガッシャーン。

 脱力している剣鬼と魔女。

「な、なにを言っている・・・」

「私は・・・もう戦いだけじゃ嫌」

 その言葉を聞いた二人ゴウガとレイナは動揺を隠せずにいた。

「最初魔法を使えるようになった時のお母さんの顔を見て私も嬉しかった。お父さんとの剣の稽古も楽しかった。でも、私の職業がわかってからそれは変わっちゃった」

 辛そうに怖い気持ちを抑えているのがよくわかるようだった。

「!!!」

「最初はよかった。みんな私をほめてくれて頑張れた・・・でも、そのあとは・・・ひたすら戦う日々だった・・・だから」

 目を閉じてゆっくりと口を開く。

「私も・・・普通に暮らしたい」

「ミアあああああああああああああ!!!!!!!!!」

 怒号を上げ、俺の方ではなく、ミアの方に踏み出す剣鬼。

 しかし、その前に


「助けて」


 助けを呼ぶ声が聞こえた。


「よし、任せろ」


 そして、俺はミアの前に降り立った。

「ハルオミ・・・」

「んだよ」

「助けてくれるの?」

「おうよ」

「信じてくれるの・・・?」

 おずおずと袖をつかんでくるミア。

 あーそろそろブチ切れ鬼、魔女の相手しなきゃいけんのだが。

「まあな」

「だましてるとは?」

「そん時は3人相手にしてやるよ」

 少し諦め半分にこやかに言ってやった。

 ってミアどうした?

「・・・なんでもない」

 顔真っ赤にしているが、それならいいか。


「クソガキがああああああああああああ!!!!!!」

「さて、どうしてくれようか」

「・・・本当にどうにかできるの?」

「そりゃあな」

 えーと、どんな感じで叩き潰してやろうか・・・

「アイスランス!!!」

「ほい」

 俺は無数に飛んできた氷の槍を炎の盾で打ち消す。

 まあ、そんなこと考えさせてくれないわな。

「ハルオミ!前!!」

「ん」

 ギャリッリリリリリ!!!!

 次は魔剣か。一応何かさせないようにしているっぽいとこはやっぱり戦闘のプロってところだな。

 どうせなら、あいつらに絶対勝てないって思わせないといけないわけで。

 魔法に剣最強・・・となれば。

「やっぱり、真正面から叩き潰すだな」

「へ・・・」

 口を大きく開けて今の言葉がうそでしょみたいな顔をするミア。

 でも、正直心へし折るにはこれしかないと思う。

「というわけで行ってくる」

「ちょ・・・」

 そして、剣鬼と魔女の攻撃を防ぎながら、ゆっくりと歩きだす。

「クソガキ!!本気でそんなことできると思ってんのか!!」

「お、今の聞こえんのか」

「舐めるなあ!!」

 一瞬でこちらにきて魔剣を振り回す剣鬼。

 ガン!キン!!!カ!!!カカカカ!!!!

「フルエンチャント」

 それをいなしながら、まずはステータス向上魔法。

「メテオストライク!!!」

「空間収納壁」

 俺の目の前に来た隕石は俺の前に空間のゆがみに消えていく。

「な・・・」

「剣鬼術・鬼神乱舞!!」

「物理無効」

「は・・・?」

 剣鬼術の奥義だったのだろう。

 さっきのように受け流しもされず、当たった感触もないことに驚きを隠せないようだ。

「あなた!!下がって!!!」

「く・・・!」

 魔女が叫ぶと、剣鬼は後ろに下がる。

 そして、

「マジックチェイン!!!」

 今度は俺の周りに魔力の鎖が。

「・・・ブレイク」

 パリン。

「「な!!!」」

 音をたてて壊れる。

「これでおしまいか?」

「ふざけるなああ!!狂鬼化!!!」

 怒りで頭がいっぱいになっている剣鬼は魔力を噴き出し叫ぶ。

 その姿はオーガに近いが人の形をしている灰色の鬼人だった。

「コレナラドウダ!!!!」

 そして、巨大化させた魔剣を撃ちだしてくる。

「おっと」

 さすがにこれは一回避けた方が・・・

「いや駄目か」

「!!!!」

 最初はよけようとしたその大剣をつかみ取る。

 龍の装甲は少し剥がれ落ちてしまったが、うまくいったようだ。

「あれ避けたら、圧倒的とは言えないもんなあ・・・」

「オ、オマエハナンナンダ!!!!!」

「いやあいやあ!!!!」

 あっけにとられていた剣鬼が叫ぶ。

 魔女は完全に戦意喪失って感じだ。

 変身してきたからこっちも変身したほうがいいな。

「龍化・モデル〈エンシェントドラゴン〉」

 先ほどまでの部分龍化をさらに促進させ、白銀の龍を身にまとう龍戦士の鎧を構築していく。

「・・・綺麗」

 お、イメージ通りになってるみたいだな。

 やっぱりそう言ってもらえるようなくらいじゃなきゃあいつらに申し訳ないしな。

 しかし、敵からしてみれば、

「ナンナンダヨソレハ!!!」

 恐怖の対象になるような姿のようだ。

 そして、腰が抜けて動けないのか身体を震わせて必死に後ずさりする魔女が言う。

「なんなのよ・・・あなた本当に何者なの?!」

 んー俺かあ・・・


「俺は通りすがりのただの人間だよ」


 そして、ゆっくりと拳を構える。

 そして、ついに恐怖で動けなくなった剣鬼が叫ぶ。

「ナンデダ!!ソレダケノチカラガアルナラオレタチニキョウリョクシロヨ!!!」

「ああ?」

「そうよ!!!魔剣姫の私たちの一族の繁栄のために力を貸してよ」

「・・・それは誰のためだ」

 俺は最後の警告のようにゆっくりと告げる。

 それでチャンスだと思ったのか、

「オレタチノタメダ!!」

「私たちのためよ!!!」

「・・・」

 ・・・ここでミアのためって言ってくれたらまだ止めてミアに話させてもよかったんだが・・・

「やっぱりだめだったか」

 俺は拳に魔力を集める。

「「!!!!」」

 それを見た二人ゴウガとレイナは逃げる。

 だが、

「逃がさねえよ」

「「!!!!」」

 逃げようとした瞬間魔力の鎖が飛び出す。

 そして、鎖で二人の口を閉ざし、一直線に並べた。

「「~~~~~!!!!!!」」

 そして俺は、


「ちゃんと子どもの気持ちわかるようになってから戻ってきやがれ!!!」

 ドッバーーーーーーンン!!!!!!!!


 龍の拳を突き出し、二人を吹き飛ばした。

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