Second memory 95
= second memory 95 =
『とにかく、そういうことで、まだネットの世界は動いている。SHINが出てこないのも、そんなとこに理由があるんじゃないの。まあ、生命力は強いから、生きてるのは間違いないから心配しないで。
山根さんとの契約の間は、そっちで頑張りなさい。オーナーが亡くなって、私もカバも忙しいから連絡できないけど、ちゃんと応援してるから。
カバは毎日祈るんだってガネーシャの象神買ったのよ。石でできたやつ。あいつは母親みたいに毎日あんたとSHINの無事を祈ってるわ。まっ、頑張って。私も頑張るから。できるかぎり頑張るから。じゃあね。』
最後は、最後だけはいつもみたいに、いつものゴリのトーンで読むことができた。
私が渦中にいる。CHERRYが渦中にいる。
怖かった。そして怖いと思ってしまったことが、みんなに本当に申し訳ないと感じた。
みんな全力で私を守ろうとしてくれているのに、当の私が逃げて、怖がって。
でも私、なぜ逃げなくちゃいけないの?なんにも悪いことしてないのに。
・・多分、こうなるからだろう。
理不尽なことは怖くなるけど向かっていきたくなる。後先考えずに走り出してしまう。
SHINは私のそんな性格をわかってたんだ。だから台湾に行かせたかったんだ。私がSHINの名誉を守ろうと変なことしないように。そうでしょ?
だから私は動いてはいけない。どんなに悔しくても、腹がたってても。
私が日本に帰るとみんなの努力が無駄になる。
彼らが考えた時間、2年。
こっち側にいる山根さんが提示した2年契約。
そこがターニングポイントなんだろう。
だからあと半年強。きっとあと半年ちょっとで私は日本に帰ってSHINに逢えるんだ。
ちゃんといい仕事を残そう。
山根さんの善意に応えられるように。瑛琳やメンバーの優しさに応えられるように。
日本で私のために考えて動いてくれた皆さんや、祈ってくれてるカバ、考えてくれてるゴリ、そして私のために自分のすべての名誉を地に落として守ってくれているSHIN。みんなに恥ずかしくない、いい仕事を台湾に残そう。頑張ろう。
ゴリのメールを読んだ日から、私はSHINからの返信メールや無言電話を待たなくなった。あと半年、そう言い聞かせ続けている。
ただ日記のようなメールは週に一度は送っていた。
そして1月。昨年と同じように送った
「明けましておめでとう。今年、会えるね!!」
というメールも、返ってはこなかった。
『Happy New Year 』そんなSHINの声が聞こえた気がした。
3月3日。SHIN31歳の誕生日。
できれば29歳から30歳になる瞬間を私の胸の上で迎えてほしかったと泣いた日からもう1年になるんだ。
私の仕事もほぼ完成している。
あとは紙の上というか、PCの中にあるものを実際の形にしていく。でもそこからは現地のスタッフに任せるから、そのための細部の引き継ぎと、業者への説明立ち会いをしたら台湾での仕事は終わる。
もうすぐ帰れる。もうすぐ会える。
契約期間はあと4ヶ月。そのくらいすぐに過ぎる。瑛琳に日本語をもう少し教えなきゃ。
そんなことを考えて、ちょっとうきうきしながらPC に向かった。
『HAPPY BIRTHDAY !31歳おめでとう。もうすぐ終わるよ!もうすぐ会えるね!変装するのに髭はやしてる?』
一人でビールで乾杯をしながら、そんなメールを送った。
月を見たくなって窓を開ける。ハーフムーン。
隣の公園で二人で見た月。
バームクーヘンが食べたくなった。
手首を見る。もちろん何もないけれど、赤いアザが見えた気がした。痛かったけど思い出になると嬉しい。SHINが感じてくれた初めてのjealousyが嬉しかった。
返信がこないのはわかっていたけれど画面を覗く。何か来てる!
あわてて受信箱を開く。
・・なぜ?・・嘘だよね?嘘だ!!
(mailer-daemon@・・・)
しばらく画面から目が離せなかった。
現実の世界で私とSHINを繋いでいた、たったひとつの細い細い糸が・・切れた。
どうしたらいいのかわからないままPCを見つめている。
ビールは苦いから嫌いだ。
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