Second memory 81

= second memory 81 =


ゴリがナースステーションで、訪問のサインをしている間、ずっと周りの視線を感じていた。サングラスかけてよかった。

『よろしく。』

ゴリが中に向かって言うと、なんとなく部屋の中が華やかになった気がした。二人で廊下を一番奥の部屋まで歩く。

やっと会える。自分の心臓の音がうるさいくらい。

ゴリに続いて部屋に入った。個室。

ベッドを少し起こして、そこに彼がいる。ベッドを起こしてもたれてるんだけど座ってる。生きてる。吸い寄せられるように近づいた。

『誰かと思った。』

そう言って笑う。生きてる。

座っているSHINの首に腕を回した。サングラスを外して。

「会いたかった。会いたかった。会いたかった。」

SHINも私の背中に腕を回してくれる。

『心配かけてごめんね。それから写真のことも。』

もうそんなのどうでもいいよ。生きてるからいいよ。

「私こそごめんね。わたしのせいだ。」

『なに言ってるの。そんなことないよ。それにこんな傷なんともないから。』

ゴリがひとつ咳払いをする。

あっ、いたんだ。

『この部屋から出るわけにはいかないからいるけど、お気になさらず。』

そう言って窓際のソファに座って、いつもみたいに新聞を広げた。

ゴリが新聞を広げたタイミングでSHINとkissをした。おかえりなさいと、4回目の記念日と、生きててくれてありがとうと、会いたかったの分。

真っ赤な口紅がついちゃったね、ごめん。彼の枕元にあったウェットティッシュで二人で口元を拭いて笑った。

そしてもう一度。


「まだ痛い?」

『ちょっとね、でも平気だから。もうすぐ退院できるし。cherryは?大丈夫?」

「大丈夫だよ。」

あなたが生きてるの確認したから。ちゃんと背中に回してくれた手に、力入ってたから。

『なにか・・ないよね?お兄さんの方からとか・・』

忘れてたよ、そこ。

「何もないよ。」

やっぱりそこも心配してくれてたんだね。

『そう、よかった。体も大丈夫?』

頷いた。大丈夫。

『・・じゃあ前に進めるね。』

前に進む?

『鳥籠に籠ってちゃダメでしょ。』

確かに鳥籠に籠ってるみたいな毎日だった。

『ねぇcherry、台湾に行ってはどう?山根さんの仕事。君がやりたかったことでしょ?一番。』

いきなり何言ってるの?こんなあなたを置いて行けるわけないじゃない。首を振った。

『今回のことは、まだこれからだよ。僕が退院したら何かがきっと動きだす。あまり歓迎しないものがね。だから会えなくなる。国外の方がきっと会いやすいよ。僕は大丈夫だから。ほんとにもうすぐ退院だから。台湾に会いに行くから。』

何が動き出すの?なんで国外の方がいいの?わからないよ。

『8月に孝さんがご結婚されるまで少なくとも会えない。そのあともね。しばらく会えない。日本では。』

SHINはいつもみたいに少しだけ微笑みながら言った。

でも嫌だよ、少しでも近くにいたいよ。

山根さんの仕事は魅力的だけど、この街を離れたくない。

『僕たちに距離なんて関係ないと思わない?』

その言葉は文字で読んだ。

このトーンだったんだね。優しい。でも。

『君は僕の前をキラキラしながら走ってるんでしょ?誰かをいっぱい笑顔にするって夢を咲かせるんでしょ?山根さんの仕事はチャンスだよね。』

SHINは微笑んだままで言う。

『走ってる君を追いかけて行くから。こんな傷すぐに治してね。』

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