Second memory 75
= second memory 75 =
「なんで私の荷物?」
カバがまた肩を抱いてくれる。その手にいつもよりずっと強く力が入ってくる。カバの腕が緊張してる。
『あの部屋にコカインがあったんだ。おまえは関係ない。もちろんSHINも薬物とは関係ない。それは警察ですぐにわかる。でもそれだけじゃ済まない。真実なんてどうでもいい連中が既に集まっている。ツーはああいう性だ。そして数回にしてもTVに出たタレントでもある。SHINはアフガンでちょっとだけ名が売れた。恰好のネタだ。面白おかしく書かれる。』
ゴリ、何言ってるの?SHINはまったく関係ない!
どこに行ってても、クスリなんかやってない!
あれだけの志を持って、危険な中に、平和のために、命かけて行ってたのに!なんでやってもいないことを面白おかしく言われなくちゃいけないの?
「誰がそんなこと言うの?SHINは世界中の見ず知らずの人たちが穏やかに過ごせるように、ただそれだけを願って命かけてたのに!誰がそんなこと言うの?」
声の大きさのコントロールができない。
『ごめんなさい。』
カバが謝る。カバは悪くない。ツーちゃんは悪い。でもそこじゃない。SHINが生きてるなら。
ちゃんと言って、SHINは関係ないって、自分があの部屋に持ちこんだって、世界中に言って!!
『cherry、大切なことだ。大下朋は、あの部屋とは関係ない。神村真とも、三好司とも。ただ数年前、瀧元興産で事務のバイトを少ししただけだ。俺とはその時の関係だけ。』
「なに言ってるの?私はSHINの婚約者なんだよ!」
すごい力が出た。肩に置かれたカバの手を振りほどいて立ち上がった。
『よく考えろ!おまえももう24だろ。ちゃんと大人になれ。8月に何がある?おまえだけじゃない。おまえの家族も巻き込むスキャンダルにしたてあげられる!』
・・・恰好の・・
『冷静になってくれ。それが難しいのはわかる。でも無理でも冷静に。それはSHINの願いでもある。SHINの状態は俺から連絡する。見舞いには行けない。SHELLEYにも来るな。こっち方面にも来るな。俺からの連絡を待て。もちろんこの携帯に連絡してくるのは自由だから、いつでもかけてこい。ただSHINに直接は連絡がとれない。あいつの携帯は処分した。あの番号はもうないと思ってくれ。』
だから、かからなかったの?
わずかな時間の中で何が起こっていたんだろう。
そう思ったとき、ふいに頭の中に変な色の絵の具がポトンと落ちた。
「いつ、いつSHINは救急車で運ばれたの?」
昨日の夜だよね?私が西宮の病院にいた時。
「いつ、ツーちゃんは逃げたの?・・いつSHINを刺したの?夕べだよね?何時!?」
ゴリは黙った。
ゴリ、それが答えだ。
頭の中に落ちた深碧の絵の具が広がっていく。答えはわかっている。でも違うと言ってほしい。嘘でも。
『SHINから最初の電話があったとき、店は営業中だった。ツーが来てるって。俺とカバは着替えてすぐに向かった。』
カバがすぐに動けるってことは、2回目のショータイムは終わってたんだね。
下半身の力が抜けてくる。深碧の影が全身に広がっていく。
嘘だと言って。全部、嘘だと言って。
『ごめんなさい。ごめんなさい、cherry!』
カバ、違う。そこは嘘をついて。
『俺たちが行った時は、直後だった。SHINはまだ救急車を呼んだばかりだった。でも、その荷物は作られていた。』
聞きたくないのに聞いてしまった。
「・・何時?!」
ゴリは諦めたみたいに、私を見ずに答える。
『12時45分』
365日の中にたった一日だけ私とSHINの大切な記念日がある。
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