First memory 95

= memory 95 =


役員面接を受けたのは私以外に4人。みんなマーケティング部の志願者。女性が二人と男性が二人。女性は二人ともモデルさんみたいに綺麗だ。2歳しか違わないのに。遺伝子のせいだな。

昨日、佐々田さんからゴリに自分は質問しないけど落ち着いて答えればいいって電話があったらしい。鞄には例のおもちゃのマイクを入れてある。握れないけど大丈夫。


面接で私に質問したのは社長さんだった。

質問はひとつだけ。この間、佐々田さんにホテルで聞かれたこと。同じ答えを返した。

多分、この社長は佐々田さんの味方。佐々田さんは前に並んでいる5人の端っこで腕を組んで志願者たちの回答を聞いている。私の時は、ちょっと笑った気がしたけど思いすごし?


あっけなく終わった役員面接の結果は、家に郵送で送られるらしい。

ゴリは役員面接を受ける人達は、よっぽどまずいことがない限り内定って言ってた。つまり、今日の4人が私の同期の人達。

そのまま〈SHELLEY 〉に向かった。かなり早い時間だけど、きっとカバもゴリもいてくれる。そんな確信があった。そしてそれは外れない。


ゴリには既に佐々田さんから連絡が入っていたらしい。

『一番堂々としてたらしいじゃない。』

って。そりゃ反則でいろいろ知ってたもん。

『決まったって!おめでとう。』

ゴリに頭を撫でてもらってたら、カバがケーキを持って来てくれた。

『お祝いしましょっ!』

って。

3人で"angel"のケーキを食べながら、卒業したらSHINと暮らしたいって話をした。

カバはあの部屋は広いからって言ってくれたのに、ゴリはダメだって言う。

『まずは一人で立ちなさい。あんたが最初に一人暮らししたいって言ったんでしょ?SHINのマンションの近くでいいから、ちゃんと最初の目的どうりに自分で立ちなさい。』

お母さんとおんなじこと言う。

一人で立つってどういうことさ?

私はSHINの部屋で掃除をしたり、洗濯物干したりしたいんだ。そう思ったんだもん!

『まったくSHINもSHINだわ。目の前のことに浮かれて。』

ゴリはSHINにも怒ってる。SHINは関係ないじゃない!私がしたいって言ったんだから!

困った顔で私たちを見ていたカバが、

『まあそのことはまたゆっくり考えましょ。まだ先のことだしね。』

って。カバ、私の味方してよ!


〈SHELLEY〉を出てからすぐに、SHINの携帯に電話をした。決まったって連絡を受けた話をしたら、とてもとても喜んでくれた。自分のことみたいに。

SHINがいないのはわかってるけど、部屋に行きたくなる。でもスーツだし我慢した。

『cherry!』

後ろから声をかけられて振り返ると、ツーちゃんだった。

『また似合わないスーツ着てる!』

「どうしたの?」

〈SHELLEY〉に行くにはちょっと早いよね?

『ウィンドウショッピング。cherryは?』

そうだ、ツーちゃんに聞いてもらおう。ゴリがひどいって!

「ツーちゃん、ケーキ奢るから、話聞いて!」

ツーちゃんは、

『もちろん!』

と付き合ってくれる。


喫茶店でお茶を飲んでケーキを食べながら、いつもと違って私が一方的に話していた。

せっかく就職が決まって、SHINと一緒に暮らせる感じになったのに、ゴリがだめだっていう話。ツーちゃんは、ふーんって聞いてくれてた。

『あの部屋広いから、大丈夫なのにね。一緒に住んだ方が家賃も光熱費もいらないからラッキーなのに。でもcherryは大丈夫なの?一人になると結構広いよ。隣、公園だから台風の日なんか木の音が怖いんじゃない?』

ツーちゃんの最後の言葉の意味が一瞬わからなくて、でもすぐにわかってしまった。

『だってSHIN、来年の夏にはまた行くんじゃないの?外国。今までも2年に1回くらいのペースで行ってたと思うよ。去年ケガして帰ってきて、今年の夏は行ってないから、来年くらい行くんじゃない?』

ツーちゃんは、マニキュアを見ながら言った。

・・そんなの聞いてない・・・・

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