First memory 91

= memory 91 =


電車に乗った方が速かったかもって、走ってる途中で思った。でもホームで電車待って止まってたくなかった。無駄なショートブーツは走りにくい。いつものローファーだったら、もっと早く走れたのに。

止まりたくなかった。信号待ちもイライラしてる。

早く行きたい。早く会いたい。

就職の報告よりも、私が愛してるのはSHINだけだって伝えたい。そりゃ、ゴリも大好きだけど違う!SHINへの気持ちとはまったく違う。それを早く伝えたい。

また信号!なんでみんな赤?

でも赤信号を待ちながらちょっと考えた。

なんて伝えるの?わからない。考えても良い言葉なんて出てこない。私はSHINが好きなんだって、SHINだけなんだって世界中に叫びたいのに本人にどう言えばいいの?・・

多分、そんなことSHINはわかっているから。わかっているのに負のオーラは生産されてる。それを止めることなんてできるの?私に。ほんとに?

そんな言葉が存在するの?そもそも既にわかってることをわからすってどういうこと?

信号が変わった。答えは出てないけど走る。


SHINのマンションに着いたときは汗だくだった。10月なのに。もうお日さまもいないのに。でもまっすぐSHINの部屋のインターフォンを押す。

出てきたSHINはちょっと驚いている。

『cherry!どうしたの?!』

汗だくで髪もボサボサだよね、きっと。

ちょっと息を整えるから待ってね。

いつかのSHINみたいだね。

私を追っかけてきてくれた壮行会の夜だ。

でも私、もっと走ったよ。あの日のSHINよりもっとたくさん走ってきたんだよ!

ゼーゼーはまだ続いてるけど、月が出ているのに気づいた。

「SHIN、公園行こ・・」

切れ切れの声のままで、ドアの内側に入らずに言った。

SHINはわけがわからないって顔をしてたけど、そのまま出てきてくれた。

SHINの手を私が引っ張って公園に出る。そのままベンチに座った。二人で並んで。

SHINは私の背中をさすってくれている。

『どうしたの?どこから走ってきたの?ゴリと一緒だったんじゃないの?』

ちょっと落ち着いてきた。

「〈SHELLEY〉から走ってきた。ゴリのおかげで就職の内々定もらった。これお土産。」

握りしめて走っていたから、袋の中で形を崩しているバームクーヘンを差し出した。

『・・それはおめでとう。それを言うために走ってきたの?』

SHINの言葉に首を振った。

「SHINに会いたくて走ってきた。ちょっとでも早く会いたくて走ってきた。ホームで電車待って止まってるの嫌だったから走ってきた。」

『・・ありがとう。』

SHINはそのままうつむいた。

私はSHINの肩にもたれる。

ゼーゼーはもう大丈夫になってるけど、その分、心臓の動悸がわかる。

でも私の気持ちは届いた気がする。

SHINはゆっくりと、もたれている私の肩を抱いてくれた。そしてギュって自分の方に引き寄せる。

『・・ありがとう。』

「SHIN、お祝いのバームクーヘン食べよ。」

そのまま、二人で公園のベンチでバームクーヘンを食べた。飲み物なかったし、走ったあとだから口の中パサパサになったけど美味しかった。


二人でそのまま黙っている。黙って月を見ている。今日の月は半月。

私たちは昔、それぞれに月を見て同じようなことを考えてたんだよ。

「半身を求めて止まない・・」

つぶやいていた。

SHINがハーフムーンのことを考えた月は、私があの日見た月だ。きっと同じ月だ。違う場所で、違う背景で、同じ日に同じ半月を見ていたんだよ。

『僕の半身はcherryだ。』

なにも言わないのに、SHIN がポツンと言った。

肩に回してくれていたSHIN の手を握りしめた。

「ありがとう。」

私はあなたのことが一番好きなんだって、一番大事なんだってわかってくれた?特別なんだって。

ツーちゃんが前に言ってた。自信があればへっちゃらって。わかってくれた?

私の半身はSHINだって?

それはもしかしたら決まっていたんだ。ずっとずっと前から。出逢う前から。

同じ月を見て、同じ想いを抱いていた時から、きっと。私たちが出逢う何年も前に。

私の半身はSHINで、SHINの半身は私なの!

そう思ったとき、自分の中にあったモヤモヤも消えた。沙織さんやファンの子達のことも、黄色い声も、もうどうでもいいと思った。

肩に回っているSHINの腕を引っ張って、二人の距離をもう少しくっつけてSHINの顔を見る。

少し顎を上げて月を見ているSHINの横顔から、彼の繊細さが伝わってくる気がした。

あなたと出逢ってからずっと、jealousyに苦しむのって私だけの役目だと思ってたよ。なぜだか微笑めた。

『SHIN』

私の呼び掛けに、こちらを向いてくれたSHINの表情は穏やかな気がする。だからいっぱい微笑んだまま言った。

「ヤキモチをやいてくれて、ありがとう。」

SHINはちょっと恥ずかしそうに笑って、私の鼻をつまんだ。鼻をつままれたままで私からkissをする。

息、苦しいから放してね。

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