First memory 86

= memory 86 =


ゴリの後ろをついて歩きながら、やっぱりまだボーっとしている。

紀伊国屋の前で、ゴリの男装に驚いて、ホテルに来て、生まれて初めて雑誌の取材を受けて、何回も繰り返してDVDで見ていた佐々田様と握手して、就職が内々定した・・。

それが約2時間で起こったこと。


ホテルを出たゴリは、すぐ近くの喫茶店に入った。

奥の席に座って上着を脱いだ。私も前に座る。

『あー、疲れた。ホテルのラウンジって煙草吸えないから嫌いなのよ。』

ゴリはそう言うとさっそく煙草に火をつける。

私はまだ、ボーッとしている。でも目の前のゴリがやっと私の知っているゴリに見えてきた。

ゴリは珈琲を飲みながら煙草を吸って話し始める。

『取材はどうでもよかったのよ。別にあんたいなくても私が話せばいいだけだから。でもいきなり佐々田さんの前でしゃべれって言っても、多分あんたムリでしょ?異常にリスペクトしてたから。あの人も忙しいからあんたがリラックスするまで引っ張る時間はなかったと思うしね。まあ、初めて取材受けるのも緊張するとは思ったけど、どうでもいい人から質問される方がましかなってね。佐々田さんに知ってほしい内容でもあるからさ。結構うまくいったわよね。あんた、意地悪されると強くなるからね。』

ゴリ、もう少し前の部分から話してほしいかな。

でも、なんかいろいろ考えてくれてありがとう。しかも就職先まで。

「ゴリ、なんかまだよくわからないんだけど、ありがとう。まだよくわかってないんだけど、私、佐々田さまと一緒に働けるってこと?この間、学校で履歴書送らないでって言われたA社で。」

『第一志望だって言ってたじゃない。しかも、ほとんど恋してるみたいに、佐々田さんの番組のこと話してたし。実はサカザキのおじいちゃんのパーティで会ったのよ、1ヶ月くらい前に。あんたの話聞いて思い出したの。それで繋いでもらったのよ。』

「サカザキのおじいちゃんって、スキヤキの?」

ゴリの話し方がいつものゴリになって、ほっとしている。

『そうそう。なんかA社の改革について話してたみたいだったから、おもしろいのいるって、おじいちゃんから伝えてもらったの。』

いつの間に?

『あのやり方したら、イベントについては、下手に質問されるよりわかりやすいでしょ?まさに一石二鳥!さすが私!

あとはあんたがあの人の求めている爆弾になれるかどうかだけど、そこはわかんないじゃない。取材の段階でこけるかもしれないし。

まあ、取材の方はあんたがこけても、私がフォローできるから別にうちには問題ないし。佐々田さんの方は、もしこけても今とあんたの状況変わらないわけでしょ?それにダメでも会えただけで喜ぶと思ったしね。

でもうまく行って良かったわぁ。あんたもだけど、私もね。今、関西の経済界でちょっと話題なのよね、あの人。あんたはあの人のいいとこばっかり見てるけど、こけるとこではこけてるのよ、会社潰したこともあるしね。まあ動かす単位が億だからねえ。私なんかと懇意にしてもらうチャンスはないと思ってたけど、あんたのおかげで道ができたわ。

まあ、あんたも結果オーライで良かったじゃない。しっかり話せてたわよ。ちゃんと敬語使えるように育ててくれたご両親に感謝しなさい。』

ゴリは、何本か立て続けに煙草を吸いながら、一気に話してくれた。そして

『まさしく(CHERRY Bomb )になるのね。おめでとう。』

そう言って笑った。

『今日のディナーはあんたが奢りなさいよ。』

「うん・・・ハンバーガーでもいい?」

『バッカじゃないの?どこの世界にアルマーニ着てハンバーガー食ってるやつがいるのよ、カッコ悪い。』

まちがいなく、ゴリだよ、よかったよ。

ありがとう。ゴリは

『ちょっと早いけどお腹空いた。』

って、さっきのホテルに戻った。ガラス張のエレベーターで最上階へ。ホテルのレストランなんて初めてだよ。

でも待って!私、財布の中に3800円しか入ってないんだ!カード持ってないし!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る