First memory 65

= memory 65 =


ゴリとカバのステージの感動で、

終わったあともしばらく呆然としていた。

自分がなんてラッキーなんだろうと、恵まれているんだろうとしみじみ感じながら浸っていた。


わかっていたけれど、改めて痛感したことを伝えたくてSHINを振り返った。

SHINはテーブルに突っ伏して眠っている?

信じられない!

あんな素敵なステージの中で寝てしまうなんて。もったいないよ!よっぽど疲れてたのかな?

ワインを飲もうと瓶を持ったら軽い。

カラ?ゴリたちのステージの間に、

SHINが一人で飲んだの!?

私の誕生日プレゼントなのに?

私グラス1杯しか飲んでないのに!

ちょっと揺すってみた。でも動かない。

死んでないよね。

そっと顔を近づけたら寝息が聞こえた。

寝てる。


『kissしてるの~?』

キャラキャラ笑いながら、

ツーちゃんが背中を叩いた。

いつものツーちゃんだ。

「してないよ。寝ちゃったみたい。」

いつもどうりに話せた。

『なんで?』

「疲れてたのかな?」

ツーちゃんがSHIN!って言いながら揺すぶった。

SHINはう~んって言ってツーちゃんの手を持った。

『こっちでしょ!』

ツーちゃんがその手を振りほどいて、

私の右手をSHINのところに持っていった。

SHINは私の手を握った。痛いくらい強く。

ほんとに寝てるの?


そんなことをしていたらカバが来てくれた。

ツーちゃんはヒラヒラと、他のお客さんのところに行った。

『寝てるの?あの爆音の中で?よっぽど疲れてるのかしら。』

カバはSHINの頭を撫でながら言ったあと、

空になったワインの瓶を見つけた。

『簡単に飲んじゃったわね。2万のワイン。貰おうと思ってたのに。』

2万!?

「違うー!SHINが一人で飲んじゃったんだもん!」

SHINが右手を握ったままだから、

左手だけ振り回した。

カバは瓶を持って、あ~って。

『こいつ、お酒飲めないのよ。』

いつのまにかゴリがいる。


結局、SHINは最後まで眠ってた。

SHOWが終わって、カバやゴリが入れ代わり立ち代わりテーブルに来てくれて、いろいろ食べたり話したり飲んだりしてる間も。

私は右手をSHINに握られたままだから、

いろいろ食べにくかったけど、なんかいっぱい飲んだぞ。

『今日はどうするの?』

終電の時間が近づいてきた時にカバが言った。

SHINちに行くつもりだったけど、

こんなの持って帰れないよ。

『今日は家に帰りなさい。駅まで送るから。』

でも・・。

『こいつは私たちが連れて帰るから。』

ゴリに言われて頷いた。

でも右手はまだSHINが持ってるよ。


結局、カバが私の右手をSHINから外して、

私は家に帰ることにした。

SHINの手が外れたとき、

ちょっと淋しかったけど。

ママにお礼を言って〈SHELLEY〉を出た。

ゴリと二人で駅までの道を歩く。

ゴリと二人きりになるのって初めてだね。

「たのしかったぁ~!(青い影)ステキだったよぉ。」

もう何回おんなじこと言ってるだろ。

私も酔っぱらってる。

ちょっとだけふらつきながら、

ゴリの腕にしがみついて歩く。

お兄ちゃんと歩いてるみたいだ。

ゴリはヒールだけど。

『よかったわね。ほんとあんたも弱いわねぇ。ちゃんと帰れるの?』

「大丈夫だよ~。ゴリ、私ちゃんとお礼を言う!い~~っつもありがとう。ダイスキ!!」

ゴリに抱きついた。やっぱり酔っぱらってるね。

『ハイハイ。』

ゴリがちょっと心配そうな顔をするからうれしくなる。

ゴリは、ひとつ息をついて言った。

『ゴキゲンさんに水指すわよ。・・あんた、卒業制作決めたの?』

・・水、指した・・。

・・決めてない・・。

『まだよね~。難しく考えるのやめなさい。ゴキゲンさんのまんまで考えてごらんなさい。』

ゴキゲンさんのまんま?

『楽しめばいいのよ。もしそれを仕事にしたら、楽しいだけってわけにはいかないでしょ?あんたの好きなようにもきっとできないんだから。好きなように、やりたいって気持ちだけで、何かを創る最後のチャンスかもしれないんだから。点数や周りのこと考えずに、ご機嫌さんのまま自分勝手に考えなさい。あんたの場当、そのくらいでちょうどよ。』

ゴリの言ってることが半分くらいわかるぞ。

よっし!ゴキゲンさんで考えてやるぞ!

「ハイっ!」

って、いい声で敬礼した。

『電車で寝るんじゃないわよ!』

ゴリが心配そうに言うから、またちょっと楽しくなる。

ハイっ!まちがいなく、酔っぱらってますっ!!

SHINは大丈夫かなぁ。

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