First memory 44

= memory 44 =


ホールへのドアを静かに開ける。

音が飛び込んでくる。

見るとSHINさんがノリノリ。立ち上がってピアノ弾いてる。お客さんも楽しそうだ。

最初に私に気がついたのは、ホールスタッフの田中さんだった。

『CHERRYさん、大丈夫ですか?』

耳元で小さな声で言う。

「ありがとうございます。ご心配かけてすいませんでした。大丈夫です。」

彼は、もう一度私が衣裳のまま出てきたことをチラリと確認した。そして照明を操作できる場所に移動する。

田中さんの移動に気がついて、SHINさんがこちらを見た。衣裳のまま出てきた私を見て、少し驚いた顔になる。

ゆっくりと頷いて、できるだけ静かに微笑んでみる。彼は微笑み返してくれた。

そして頷くとピアノの演奏をしたまま、Jさんに何か囁いた。Jさんは見えない。でもすぐにSHINさんがこちらに向かって頷いてくれた。

おそらくわかってくれた。

そんな私たちのやりとりにお客さんは誰もきっと気づいていない。

演奏があまりに楽しすぎるから。

さっきまで、青い顔をして振るえていた誰かさんも足でリズムとってる。

音楽の力はすごい。魔法の力も復活したよね。


JさんとSHINさんのツインピアノの最高の(Charlie Brown)が終わった。盛大な拍手に指笛。

そうだ、第2ステージの方がハジけるって、前にSHINさんが言ってた。

拍手と指笛が収まったところでSHINさんがマイクをとった。

『ありがとうございました。では・・今日デビューの歌姫を紹介させてください。Noonの新しい歌姫です。どうぞよろしくお願いします。CHERRY!』

あっ、紹介してくれたんだ。

お客さんが拍手くれる。指笛も。

ちょっと緊張するけど怖くない。

さっきより怖いことなんて、もうない!

もしあってもきっともう平気!私は大丈夫!

でも転けないように、慎重にマイクに向かった。

あっ、スタンドない。

SHINさんからマイクを受け取る。

「初めまして・・CHERRYです。どうぞよろしくお願いします。月曜日と木曜日に歌います。」

ここまで言うと、Jさんが前奏を弾きはじめる。

(中央フリーウェイ)ボサノバ風。

この歌はマイクスタンドない方が歌いやすい。

体全体でリズムに揺れながら歌う。

楽しいが戻ってくる。もうきっと唇の色も戻っている。チェリーピンクの口紅がなくても。

お客さんも体でリズムとってくれてる。テーブルを小さく叩いてる人もいる。Jさんのピアノが弾む。SHINさんがカホンを叩いてる。

なんて贅沢なんでしょう!私の第2ステージ!

今日のお客さんがラッキーって思って帰ってくれますように。

ステージに一番近いテーブルには、あの酔っ払いのオジサンはもういなかった。

追い出されたんじゃないよね?

悪かったのは私なんだから。



『えーっ!えーっ!なにそれーーー!!』

デビューの日のことをJさんから聞いたゴリさんの話を聞きながら、さっきからツーちゃんが叫びまくっている。

『Noonでそんな話、ツー聞いたことない!なんで?』

そうなんだ。めったにないことなんだ。

『予約のキャンセルが入ったらしいから、いつもは入れない人が入れたのかもね。飲むことが目的みたいなさ。』

ゴリさんが言う。

『Noonは、音楽を聴くことが目的でくる人の方が多いのよ。お酒はついで。イチゲンさんってまず来ないからね。でもおかげでSHINとデュエットしたらしいじゃない。(夜来香)だって? Jがなんか感動してたわよ。歌ったことない歌を聴かせるだけに歌えただけでなくて、一回も併せたことのない二人が完璧にあってたって。』

ちょっと照れます。火事場のナントカです。

『見つめあって歌ってたって。』

『ステキ~!!』

ツーちゃんが叫んだ。

ちょっと恥ずかしいから、その話はこのへんで・・・。

褒めてもらいたいけど、もっと。


木曜日の控室は、オーナー様からのカスミ草の花でいっぱいになっていた。

ちょっとむせちゃうほどに。

カードには『Bravaー!CHERRY!』って綺麗な手書き文字があった。

ありがとうございます。

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