First memory 36

= memory 36 =


〈SHELLEY〉 を出て少し歩いたところで、後からカバさんの声が追いかけてきた。

ドレスのまま走ってくる。

もう桜も終わったけど、肩紐のドレス1枚だと寒くないのかなと思いながら戻った。

『ごめんなさい、これ忘れてたわ。デビュー曲のリストと楽譜。Jから聞いた箇所はチェック入れて、注意点、書き込んでおいたからちゃんと見ておきなさいね。どの曲も今のあなたに歌ってもらいたい曲だわ。それから、明日はご家族と過ごすのよ。ゆっくりとね。二十歳の誕生日っておめでとうを言ってもらう日じゃないのよ。ちゃんとご両親にご家族に、ありがとうをいう日よ。わかってると思うけど。』

そう言って私の顔を覗き込んだ。

はい。

『明後日、日曜は来なさいね。最終練習よ!Jとのリハーサルは月曜だけど、きっと時間ないから、日曜の間に仕上げましょうね。』

カバさんはちょっと寒そうに腕をこすりながら言う。

いい声だし、この人は言葉ひとつひとつのトーンが優しい。

「はい」

とうなづくとそっと抱きしめてくれた。

そして頭の上でつぶやく。

『Byebye teen’s cherry ・・』

すごく嬉しかった。


誕生日の朝、学校が休みだから本当はもっと寝ていたかったけど、昨日のカバさんの言葉を思い出して早起きをした。

両親とも、今日も仕事だからキッチンで朝ごはんを食べている。

土曜のこんな時間に起きてきた私に、ちょっとびっくりしている。

お母さんが何か言いそうになったのでさえぎって言った。

「今日で二十歳になります。20年間、育ててくれてありがとう。まだ学生だし、まだまだお世話になるけど。大人の私もよろしくお願いします。」

私の言葉が終わる前に、お母さんが涙ぐんでいるのがわかった。お父さんも新聞から目を離して、ちょっとポカンとした顔で見てる。

『誕生日おめでとう』

お母さんが言った。

『おめでとう。』

お父さんも言った。

『おかあさん、立派に育ててくれてありがとう。こんな風に大人の第一声をもらえるとは思わなかった。』

お父さんがお母さんに言った。なんか照れくさい。カバさんありがとう。


そのまま、部屋に戻った。もう一度眠ろうかと思ったけど、なんか無理みたい。電話がなったので私の部屋の子機でとる。

『朋、誕生日おめでとう!ケーキ買って行くからな!お母さんに言うといて。』

お兄ちゃんだった。

それだけ言うと、私のありがとうという声だけを聞いて切れた。

クラブ活動の顧問をしているから、朝練にとんで行くんだろうな。何時頃来るのか聞くの忘れた。


昨日、カバさんからもらったリストと楽譜を見直す。楽譜にはカバさんが赤いボールペンでいろいろ書き込みしてくれてる。

デビュー曲は(allelujah)、2曲目は(Raining)、3曲目(Desperado)。

第2ステージは、(中央フリーウェイ)、(Super srtar)、リクエストがあれば(卒業写真)。

大好きな曲ばっかり!ピアノを弾きながら確認しようとリビングに下りた。

お父さんとお母さんは、もう仕事に行っている。

キッチンにはおばあちゃんがいる。

おばあちゃんも先生。女子大で書道を教える講師。今は週に二日だけ大学に教えに行く。だから私の家族は全員、現役の先生だ。

お父さんとお母さんが仕事のときは、いつもおばあちゃんと二人だった。

おばあちゃんにも、二十歳の御礼を言った。

おばあちゃんも、お父さんと同じように、お母さんの子育てを褒めてくれた。

おばあちゃんとお母さんは、昔はあまり仲良くなかったから、そういう言葉聞くのちょっとうれしい。

今晩はお赤飯を炊いてくれるって。

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