First memory 34

= memory 34 =


SHINさんはゼーゼー言いながら、膝に手をついて息を整えてる。

「大丈夫ですか?お酒飲んで走ると体によくないですよ。」

ちょっと心配ですよ。

SHINさんは、まだゼーゼー言いながら膝に手をついたまま、ちょっと上目遣いに私を見た。

ちょっと怖い。

なに?私なんかした?泣きそうになる。

『なんで一人で帰るの?このへん危ないんだから!』

そんな大声で、そんなこと言ってるSHINさんのが危ないのでは?

『こんな時間に、ここ通ったことないでしょ?女の子一人でこんな時間に!』

あっ、そこ怒られてるのか。

「すいません。駅、こっちだから。いつもこの道で帰るし。」

この時間は知らないけど。

『まったく、警戒心なさすぎ!』

SHINさんはそう言うと私の右手をとって歩きだした。なんか怒ってるからなにも言えないし、なんか言ったらもっと怒られそうだから

「ごめんなさい」

とだけ言ってついていく。

でも、ちょっと歩いて気がついた。

手を握ってますよね?

手をつないで歩くってニュアンスとは違うなあ。

迷子になった子供が、叱られながらお母さんに引っ張られていく感じです。

でも、かなりどきどきしますが。

SHINさんはやっぱりまだプリプリしてる。

せっかく手を握ってくれてるのに怒らないでよ。

それに歩くの速いよ。そんなにブンブン歩かなくても、終電まにあいますから。

「SHINさん・・ごめんなさい。遅い時間にこの通りは気をつけます。だから怒らないで。あの、もうちょっとゆっくり歩いて・・」

言葉が終わらないうちに、SHINさんが振り返った。もう怒った顔じゃない。

「ごめんなさい。靴擦れしちゃってて、速く歩けないです。」

ちょっと呆れた顔で私を見たあと、急にふいて笑いだした。

自分だってほっぺたにまだ薄く残ってるんだから。カバさんのkissマーク。

今度は笑いながら、さっきよりゆっくり歩いてくれた。

『電車の時間は大丈夫?』

笑いながら聞く。頷く。

駅の改札が見えてきた。駅、もっと遠ければよかったのに。


『まったく!ヘタレすぎて驚くわ!』

ツーちゃんが怒ってる。

昨日、SHINさんが送ってくれたのに私が帰ったからだって。

そもそも、帰るから送ってもらったんだけどね。確かに申し訳なかったな、宴の最中だったし。

でもなんで帰ったの知ってたんだろ?ホール見回してもわかんなかったけど。

まあ人はいっぱいだったけど。ちょっとだけ声に出た。

『私が教えてやったのよ。どうしようかと思ったけど、とりあえず。』

ゴリさんが新聞から目を離さずに言う。

『すっごい勢いで飛び出して行ったのに、30分もせずに帰ってくるし。ほんとヘタレすぎて笑えるわ。』

どうしろと?

「あっ、でも手を握ってもらいました!」

自慢気に言ったら、ツーちゃんが近づいてきた。

『どーやって?こう?』

ツーちゃん、右手はダメ!左手にして。

ツーちゃんが私の左手に指を絡ませて手をつないだ。これは繋いだって感じだ。

首を振って昨日、SHINさんが持ってくれたみたいにツーちゃんの手を持つ。

『逮捕じゃないんだから!これは繋いだって言わない!なんでこっからこうしないの?!』

指を絡ませる。親指も一緒に握ってくれてたしなあ。思い出してもにやけてしまうよ。

『小学生よ!cherry 。小学生!』

ツーちゃん、怒らないでよ、充分幸せなんだから。

カバさんが、電子ピアノでなにか弾いた。

『しょうがないわよ。Uptown Girlなんだから。ヘタレにもなるわよ。結局、二人とも同レベルなんでしょ?小学生と中学生。』

SHINさんが中学生ですね?

『ほんまもんの修羅場くぐってきたとは思えないわ。』

ゴリさんがタバコに火をつけて言う。

修羅場ってほどのことはまだ知らないですけど。

まだ19年しか生きてませんので。

あっ、20年か、あとちょっとで。

『まあ、よっぽどのことがないと、ミミズの散歩でしょうねぇ。』

カバさんが笑いながら言ったあと、語調を変えて言った。

『さあ!時間ないわよ!練習、練習!』

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