第99話 馬場の射礼 【古】
昔、右近衛府の馬場で騎射が行われた日、馬場の向こう側に立ててあった車から、女の顔が、下すだれからほのかに見えたので、中将であった男が女に詠んでやった
見なかったわけでもなく、見たわけでもない、ほのかに見えただけの人が恋しくて、わけもわからずに、今日はながめ暮らすしかなさそうです。
女が返して、
知っているとか知らないとか、どうして無分別に断定できるでしょう。心の中の思いだけが、ほんとうの恋へ導く指針となるのですよ。
後でこの女が誰であるか知れた。
【定家本】
昔、右近の馬場のひをりの日、むかひに立てたりける車に、女の顔の、下簾よりほのかに見えければ、中将なりける男のよみてやりける。
見ずもあらず 見もせぬ人の 恋しくは あやなく今日や ながめ暮らさむ
返し、
知る知らぬ 何かあやなく わきていはむ 思ひのみこそ しるべなりけれ
のちはたれと知りにけり。
【朱雀院塗籠本】
昔。右近のむまばのひをりの日。むかひにたてたりける車に。女のかほの。したすだれよりほのかに見ゆれば。中將なる人のよみてやる。
見すも非すみもせぬ人の戀しきく古今は綾なくけふや詠め暮さん
かへし。をんな。
しるしらぬ 何か綾なく わきて言む 思ひのみ社 しるへ成けれ
【真名本】
昔、右近の馬場の
見ずもあらず 見もせぬ人の 恋敷くは 文無く今日や
女、返し、
知る知らぬ 何か文無く 別きて云はむ 思ひのみこそ
後には誰と知りにけり。
【解説】
『古今集』0476
右近のむまばのひをりの日、むかひにたてたりける車のしたすだれより女の顔のほのかに見えければ、よんでつかはしける
在原業平
見ずもあらず 見もせぬ人の 恋しくは あやなく今日や ながめくらさむ
この話に出てくる馬場は、大内裏の武徳殿前の馬場で、内馬場とも、宴の松原とも呼ばれたようである。
この馬場で、競馬や騎射の競技が行われた。
「
「
「荒手番」は、予行練習、「真手番」は本番。
正月は
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